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ジェニファー・ロペス主演映画 『ボーダータウン 報道されない殺人者』
公開記念ティーチ・イン

グレゴリー・ナヴァ監督の特別講義を開催!

歌手として、女優として幅広く活躍するジェニファー・ロペス ( 『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』 ) を主演に迎え、実際の未解決事件を題材にした社会派サスペンス・ドラマ 『ボーダータウン 報道されない殺人者』 が10月18日(土)よりシャンテ シネほかにて全国順次ロードショーとなります。
ベルリン映画祭のコンペティション部門に正式出品されるなど、国際的に高い評価を得ているこの作品。本作の監督を務めるのは 『エル・ノルテ/約束の地』 でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたグレゴリー・ナヴァ監督。
デジタルハリウッド大学では、映画のプロモーションに来日した同監督をお招きし、一足早く先行特別上映会と公開記念特別講義を開催しました。
当日はデジタルハリウッド大学の学生を中心に一般の方も多数の参加者が集まり、映画の注目度がうかがえます。その多くが映画で描かれている知られざる悲劇に驚くとともに、サスペンスとして手に汗にぎる展開に夢中になっていました。グレゴリー・ナヴァ監督は悲劇の実態を映画監督として広める使命への熱い気持ち、困難を極めた制作の裏側、そして人々を夢中にさせる映画展開を産む撮影手法なども詳しく語ってくださいました。映画にはこれほど人の心を動かす力があるのだとあらためて実感した監督の熱い講義の一部をお伝えします。

なぜこのテーマ、この事件に絞って映画を作ろうと思ったのですか?

私自身がメキシコとアメリカの両方の血をひくルーツを持っています。そして国境付近の町で育ち、国境付近の問題や衝突、葛藤を目の当たりにしてきたためこのテーマは以前から興味を持っていたんです。
このフアレスという映画の舞台になっている町でたくさんの女性たちが犠牲になっているという事件を知り、非常に衝撃を受けました。このとんでもない悲劇を、映画監督として、またひとりの人間として一人でも多くの人に伝える義務があると思い作りました。

映画のジャンルでドキュメンタリーではなく、ドラマにしたのは意向があるんですか?

私はもともと現実に起こっていることをベースに物語を作るのが得意です。ドキュメンタリーも重要な映画のひとつですし、ドキュメンタリーを作っている監督に対して非常に敬意を抱いています。しかし私はあくまで物語の語り部であって、この世の中に映画というものがなければ洞穴の中で火を囲んで物語を聞かせていたかもしれません。ですから私は物語を、特に人間についてのドラマを描いていきたいのです。人間ドラマには見るものにずしっと響き、訴えかけてくるものがあります。ドラマには特別な、魔法のような力があると思っているんです。ですから今回の作品もあくまで核にあるのは被害者のエバという少女と、主人公のローレンという女性記者2人の物語。悲惨で過酷な運命を背負っても生きていこうと勇気を持つエバに、ローレン、そして我々も励まされます。そしてその二人の女性が辿る道のりと、二人が出会うことで変わっていく姿が物語の核になっています。

監督自身が一番大変だった部分はどの部分になりますか?

たくさんの困難の中でも、いやがらせや妨害をされたことが一番大変でした。なんとかしてこの映画を作らせまいと圧力がかかったんです。
一番恐ろしかったのは、首をかききられて血だらけになった白いハトが、車やホテルの部屋などに脅しとして置かれたこと。メキシコでは白いハトはパロマと呼ばれていて、若い女性、清純さの象徴なんですね。この映画で扱っている事件の犠牲者と重なります。撮影現場だけでなく自宅にまで送りつけられたり、スタッフや作品に関与した人々もいろいろと脅しを受けたため、スケジュールを大幅に変更しなければなりませんでした。監督はスタッフとキャストの安全を確保するのが一番の仕事ですから。
あまりにも危険な状態のため主演のジェニファー・ロペスとアントニオ・バンデラスに関しては実際に舞台になっているフアレスのロケーションには連れていきませんでした。フアレスでもロケーションは行ったのですが、その時には撮影班が数々のいやがらせを受けました。
そんな時、協力してくれたのは、今回テーマになっている事件で娘を亡くされたお母さんたちでした。彼女たちは輪を作り、盾となって反対する人たちを押し返してくれました。この勇気に励まされ、どんな方法を使ってでもこの映画を完成させなければと奮起したんです。

ジェニファー・ロペスやアントニオ・バンデラス、二人の登場が映画の魅力の大きなひとつだと思うのですが、このキャスティングは監督はどのような意味合いでされたんでしょうか?

キャスティングは映画にとってとても重要です。ぴったりなだけでなく俳優自体が役に共感できて入り込んでいけるような役を与えてあげなくてはいけないと思っています。 『ボーダータウン』 のように政治的な問題を扱っている作品に出演するというのはリスクも伴うことだと思います。
ただジェニファーもアントニオもラテン系の俳優として非常にこのフアレスのエピソードに共感して、出来ることがあるのではないかという理由もあって出演してくれました。エバ役のマヤ・ザダバという女優も無名でしたが、まさにはまり役でした。大スターだろうが無名の役者であろうが求めることは変わりません。ただ、ビッグスターが出演することによって日本でも公開にこぎつけたということもありますし、世界中で公開されたことでこの事件が明るみに出ることにつながってよかったと思っています。

貧しさを生んでいる背景に工場がありましたが、我々日本人にも遠い話ではなく、近い話だと思うのですがどうでしょうか。

おっしゃるとおり日本人にとっても関係のない話ではありません。この映画では世界市場拡大に伴う闇の部分もテーマにしています。そのためローレンがおとりとして工場に潜入し、非常に過酷な労働条件を目の当たりにするシーンは一番重要なシーンのひとつでとても力を入れています。ありとあらゆる各国の大企業がフアレスにやって来ては安い労働力を使って金儲けをしています。しかしひとつたりともこの問題に関して何かをしようと立ち上がった企業はないんです。このフアレスの事件はあくまでひとつの例にすぎず、この世界市場の拡大に伴ってアジアや南米の国でも似たような事件が起きています。ですからこの映画は、悲惨な状況に関して誰も立ち上がらないことへの警告でもあります。

この映画全体の中で演出的な部分で一番こだわった部分はどのシーンですか?

二人の女性の物語が中心ですので、すごく重要な位置を占めているのはバス停でエバとローレンが二人で語り合う静かなシーンです。
そのシーンでは、エバが土地を失って工場で働かなくてはいけない、と身の上話を打ち明け、あなたはどうなの?というふうにローレンに問いかけます。そこでローレンはいかにキャリアで成功はつかんだとしても虚しい人生なのか、どれだけ本来の自分を見失っているかということに初めて気づくんですね。
ですからこの二人が語り合うこのシーンはすごく重要なシーンですし、物語の中核になると思います。

この映画を観ることでこの事件を知った方もいると思うのですが、伝わった感触などはありますか?

この映画がきっかけになり、すでに上映されたヨーロッパやメキシコではこの事件が明るみに出ました。世界的に注目が集まってきたことによってヨーロッパでは遺族を呼んで講演会を開いたり支援の動きがでています。しかし、この殺人事件が起こり始めて15年、公式に発表されている犠牲者は450人なのですが、それはあくまで見つかった遺体の数なんですね。家族から行方不明になったと届けが出ているのが5000人なんです。そして今でもまだ解決しておらず続いています。これだけ犠牲者がでているのにこの15年で一人も犯人が 裁かれていないんです。映画にも出てきますが、コンプライアンスで事件が報道されないというような、報道機関が本来の機能を果たせていないことがあります。完全に独立した報道の自由は非常に大切なことです。メキシコのように、政府が報道を押さえ込んでいるところもあれば、アメリカのように報道の自由をたたえている国でさえも、企業が絡んでいたりします。まさに報道の自由を訴える大

アメリカではどこにカメラを配置するかなどの撮影を撮影監督に任せるイメージがありますが、監督は撮影も指示しましたか?

私は何に関しても人に任せることはしないんです。納得いくように、全部首を突っ込むタイプです。みんなの言うことを良く聞いて、つねに焦点をどこにおくかを考えていることが大事ですね。撮影方法には2つの方法があります。ひとつは役者の立ち位置や照明の位置など全て絵コンテ通りに撮るアルフレッド・ヒッチコック方式。もうひとつがそれとは真逆のカメラ位置や役者がどう動くか、などを全く決めないで撮るオーソン・ウェルズ方式です。
私はオーソン・ウェルズ方式が好きですね。役者をセットに入れてからが勝負、入れてからそこで生まれるものを大事にし、監督は役者がそこで生み出すエネルギーや空気を拾って作っていくのです。役者のほうがいいアイディアを持っていたりするので、役者にまかせて演技をさせた時にすばらしいシーンが生まれたりするんですね。監督としての役目はそういった勢いを生み出すことです。

日本映画をどう思われていますか?好きな作品はありますか?

日本の映画は大好きで、小さい頃から観てきました。高校時代に観た黒澤明監督の 『生きる』 には、あまりに感動してこんな映画を監督してみたいと思いました。人間の生き様を描いた作品ですよね。溝口健二監督の作品も同じくらい好きで、今回の 『ボーダータウン』 ではすごく影響を受けています。なぜかというと溝口監督の作品は非常に女性を主人公にした作品が多く、特に女性が社会のシステムの中で葛藤するという話を描いているからです。
また、私が一番参考にしている黒澤明監督の手法で、1つのカメラではなく3つのカメラを置いて同時に1つのシーンを撮るというものがあります。何度にも分けない分、その場の雰囲気や即興性を実によくとらえていて、編集もしやすいです。3台のカメラを使うので、フィルムを使うと膨大なお金がかかり、なかなかできないのですが、今回はフィルムを使わずにデジタルで撮ったので、ついに黒澤スタイルの3つのカメラで同時に撮ることができました。ですからテーマ的にも技術的な面でも日本の映画には影響を受けています。
みなさんも頑張っていい映画を撮り続けて日本映画のすばらしい伝統を守り続けてください。みなさんの顔を今日見た限りではきっとすごく明るい将来が待っていると思います。ぜひみなさん頑張ってください。

(取材・ 原稿/小島千絵)

[映画 『ボーダータウン 報道されない殺人者』 あらすじ]

シカゴの新聞社で働く女性記者のローレンは、メキシコとアメリカの国境の街、フアレスで起きている連続女性殺害事件の取材を命じられる。そこで彼女を待ち受けていたのは、汚職にまみれた警察や政治家の支配の下、真実は闇に葬られるという社会であった・・・。そんな中、かつてのビジネスパートナーのディアスが営む新聞社だけは真実を報道しようとしていた。ディアスを訪れたローレンは、一連の事件の被害者で奇跡的に生還した少女エバと出会う、彼女が証言者になると直感したローレンはエバと行動をともにして真相究明の糸口をつかもうとするのだが、彼女たちの前には巨大な壁が立ちはだかる――。
公式サイト http://www.bordertown.jp/index.html

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