デジハリ生限定特別先行試写会&メイキングセミナー
~山本寛監督が語る、映画『私の優しくない先輩』ができるまで~
映画『私の優しくない先輩』の監督・山本寛氏をお迎えし、デジタルハリウッド生限定の特別先行試写会と監督によるメイキングセミナーを開催致しました。
人気アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』などを手掛けてきたアニメーション監督・山本寛氏が実写映画に初挑戦した本作、川島海荷とお笑いコンビはんにゃの金田哲とのダブル主演で話題を集めています。今回、映画『私の優しくない先輩』の公開を記念して、デジタルハリウッドの学生限定で特別先行試写会&メイキングセミナーの開催が実現しました。
この作品との出会いを教えてください。
『私の優しくない先輩』は3年前ですね。前の会社から独立後、アスミック・エースのプロデューサー宇田充氏に「実写に興味ありませんか?」とシナリオを送っていただいたのです。始めはそんなに簡単に実写の話が来るわけないと警戒していたにも関わらず、シナリオを読んだら見事にハマってしまい、「どんな形でもよいので関わらせて欲しい!」と伝えました。もちろん、監督というのは考えていなかったので「この作品の監督に一生嫉妬します」なんて話していたら「だったら監督やりますか?」という返答をいただきました。それでも何人か候補がいる中の1人として声をかけてもらったのかな、としか考えられずにいましたね。脚本の準備を進めていく途中「そろそろキャスティングをお願いします」と言われてようやく本当にオファーをいただいていたんだ!と目が覚めました。
それだけ監督が気に入ったこの作品の魅力とはなんでしょうか?
良さも悪さも説明しにくい作品ですね。これだけ作品に関して客観的な意図をなかなか言えない作品は初めてです。川島海荷さん演じる西表耶麻子の精神構造一人称の映画で、冒頭シーンも延々と続くモノローグから始まります。自分の感情をあんなに赤裸々にされても受け取る側も困ってしまうと思うのですが、こうしないと表現にならないと思ったんですね。また、妄想描写をチープに描くことで、所詮妄想は妄想、という耶麻子の斜に構えたシニカルな感覚を描いています。
キャストはスムーズに決まりましたか?
ご本人にも言っているのですが、実は4~5人目です。他の方はスケジュールがNGだったため、最終的に川島さんとはんにゃの金田さんになったのですが、カルピスのCMを見てしっくり来る2人になったと思いました。他の人だったら、ずいぶん違うものになっていたでしょうね。川島さんはこれ幸いにして、プロデューサーが粘り腰で連れてきた女優さんです。耶麻子に啖呵を切るシーンがあり、若手女優の中で啖呵を切ることが出来る人はそういないのではないか、とその場で是非お願いしますと決めました。自分では発想のなかった女優さんだったので、分かっているようで、キャスティングの視点で見れていなかったんだなぁと思いましたね。
金田さんに関しても、「芸人さんでどうですか?」と言われたときには、話題性だけで試合を放棄するの?と呆れてしまったのですが、金田さんの変な動き、中学生を演じられる小さい意味での器(笑)、そして意外とイケメン・・・という条件を見たときに、いた!となりました。スケジュールが厳しいのは承知の上で、当たってみたところ、厳しいスケジュールをくぐってなんとかブッキングできました。そしてこの2人がどんどん売れていったことにより、作品自体もメジャー感たっぷりになり、だいぶ引っぱられましたね。
撮影は順調に進みましたか?
撮影期間1ヶ月での怒涛の撮影でした。このボリュームで1ヶ月は短いですね。しかし僕自身は初実写だったので、これは大変ですよと言われても、こんなもんかな、と思ってしまっていましたね。そんなハードスケジュールの中で、やはり川島さんに対する負担は相当だったと思います。全シーン出ていますから。しかし彼女は絶対に「無理です」と言いませんでした。本当にガッツがあります。
川島さんの撮影エピソードはありますか?
川島さんは「監督、私、プライド捨てていますから」と要求されることに何でも応えてくれました。一番辛かったと思うのが、ジェットコースターに5回乗り、その直後に吊りといって、ワイヤーで宙に浮くシーンを撮影した時だと思います。大変な全身運動を、撮影時間計42時間のクランクアップの最終日にやり遂げてくれました。カメラの前に立った瞬間の集中力、粘り強さがすごいんです。そして彼女はラストテイクが一番良い。誰でも、ある程度は集中して頑張るんですけど、途中で集中力が途切れてしまうんですね。ですが、彼女の場合は最後に念のためワンテイクください、と頼むとそのワンテイクが僕にとって「キター!」と思えるテイクになる。ですので、実は冒頭カットが最後の最後に撮影したものなのですが、そのまさに最後のテイクが使われました。あれだけ疲れているときに、あの笑顔が出来るのは素晴らしいと思います。
金田さんの演技はいかがでしたか?
金田さんは真面目で初映画ということもあったので、自由にやり散らかしてもらいました。最初にはちゃめちゃに演じて、分からない部分をテイクごとに調整してくる感じですね。アドリブがどんどん入ってくるのは芸人魂ですよね。あの独特の体の動きも、彼に任せました。やはりコメディ部分の引き出しが多いので、小道具持ってきたり、大道具も使ってきたりするんですよ。シーンが派手になりすぎて大人しいテイクを使うこともありました。芸に徹底する人ですね。
監督はアニメ監督として今までご活躍されていますが、この作品をアニメにしようとは考えなかったのでしょうか?
絵にすると、現実と妄想の絵の質感をいくら描き分けても、絵としての統一感が出てしまい、ギャップが出ないんですよ。ですから、アニメにするという手もありましたがあえて実写を選びました。乾いた現実とチープな妄想の世界を描くために実写である必要があったので、自分から実写でいかせてくださいと言いました。監督としてのスタンスはアニメでも、実写でも、舞台でも、演出するということに変わりはありません。言わば、描こうとしているモノをどの道具を使って表現するかというだけです。
初めての実写の現場はいかがでしたか?
分からないことも多く、最初はとまどったのですが、映像づくりということは一緒です。使っている言語や段取りのハードルを越えると意思疎通が出来ました。僕以外は実写畑でアニメには関わったことが無い人ばかりでしたが、アニメのことも気になるらしく「どうやって作るんですか?」と質問を受けたりもしました。アニメは村社会です。ひとり一人が落とすお金は多いのですが、市場でいえば非常に少ないです。最近では1クールごとに勝ち番組が一つあり、その他が負け組という図式で、業界全体が疲弊しています。ですので、アニメ業界を広げるためにはアニメに拘らず、色々なことに挑戦していきたいです。視聴者側にもぜひそうなっていただきたいですね。
最後にこの映画で伝えたかったテーマを教えてください。
無我夢中で撮ったので、テーマやメッセージは分からないんですよ。僕がこんなに無防備になった作品はありません。あえて言うのであれば、思春期の心の揺れ動きです。思春期は追体験してなんぼだと思うんですよ。大人になると理屈で語れるのですが、理屈で語れないことがぐちゃぐちゃとなる時期。ジュブナイル作品を作る時は気をつけているのが、こんな思春期があったな、と自分の中にある思春期を思い返すことが出来るようにすることです。みんなが童心に帰って、追体験をして、それを超えて、大人になるわけです。そういう意味で、この作品は僕ととてもシンクロした、僕の思春期が生々しく表現されている作品になっていると思います。
講演終了後には、サインを求める学生ひとりひとりに温かい言葉をかけている姿が印象的だった山本監督。質疑応答にも丁寧に答えていただきありがとうございました。
山本寛 監督 プロフィール
1974年9月1日生まれ。京都大学文学部卒業。アニメーション演出家、アニメーション監督。今日とアニメーションに入社後、アニメーションDoに移籍。07年に自身が運営するアニメ制作会社Ordetを設立。アニメファンの間では、“ヤマカン”の愛称で親しまれ、確固たる地位を確立。『POWERSTONE』(99)で演出家デビューを果たし、『週間ストーリーランド』(00~01)の演出では、その独自性が高く評価され注目を浴びた。『涼宮ハルヒの憂鬱』(06)のエンディングダンスや、『らき☆すた』(07)のオープニングダンス等の仕掛け人としても知られている。演出家としては『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズが代表作。また監督としては、『らき☆すた』、『かんなぎ』(08)などを手掛ける。演出、監督以外にも、脚本や監修なども複数の作品で担当。本作が初の実写映画参加となる。















