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~吉浦康裕監督が語る、オリジナル原作のアニメーションができるまで~

2008年8月より配信が始まった、吉浦康裕監督によるオリジナルアニメーション『イヴの時間』。各公式配信サイトによる総視聴回数は、全6話で300万回を超え、いまなおネット上で大きな話題を呼んでいます。その熱いファンの声援に応え、新作シーンを加えて再編集された作品が2010年3月6日に『イヴの時間 劇場版』として劇場公開され大反響を巻き起こしました。今回、『イヴの時間 劇場版』のブルーレイ/DVDの発売を記念して、吉浦監督をデジタルハリウッド大学にお招きし、吉浦監督の過去の作品から『イヴの時間』までを振り返る公開講座を開催しました。

大学に入ってアニメを作られたということでしたが、どういった幼少時代を過ごされたのですか?

通った幼稚園が変わっていて、壁の無いだだっ広い空間にロフトや子供だけの秘密のトンネルがあるといった建物だったんです。今思えば、明らかに『イヴの時間』そっくりな環境で、確実に作品に影響を受けていますね。その後、小学校低学年の時に親が買ってくれたSF全集に魅せられ、中学、高校時代は兄がやっていた演劇に興味を持ちました。この頃は役者か舞台作家になりたかったんですが、同時期に『MYST』というPCゲームに出会い、演劇と同時に3DCGに興味を持ち始めたんです。「どうやってこの映像を作っているんだろう」と初めて思えた作品ですね。そこから、演劇の片手間に3DCGもやるようになり、その興味の延長で、九州芸術工科大学というCG研究の草分け的な大学に進みました。

初めてのCG作品制作のエピソードはありますか?

最初の頃は作ろうとしては失敗し、挫折の繰り返しでしたね。処女作品は壮大な物語を考えてしまいがちでして…。ですから、途中で“完成させること”それ自体を目標に設定し直しました。期限も自主的に設定し、2週間後に学内で行われる映像作品の上映会で人に観せることを前提に、その期間で制作可能な短めのPVを作ることにしました。当時はちょうど手書きアニメ作品においても3DCGが徐々に使われ始めた時期で、僕も3DCGの背景と手描きのキャラクターを合成するという手法を真似てみました。この手法は、以降の自分の作品にずっと引き継がれています。他にも、色をモノクロにしたり、画面を揺らしてノイズを入れるなどのごまかしを多用(笑)し、なんとか初作品『我ハ機ナリ』を完成させました。

周りの反応はいかがでしたか?

当時の大学では、映像サークルでもアニメを作る人は全くいなくて、かなり褒められてちやほやされました。身も蓋もない言い方をすれば、褒められた嬉しさからアニメ制作にハマっていった感じです。そして、次はもう少し作品らしく、5分以上のアニメを作ろうと決め、大学2年のときに半年かけてつくったのが『キクマナ』です。海外のアートアニメや押井守さんの『天使のたまご』に影響されてアート寄りの映像を作りました。頭に浮かんできたイメージをひたすら繋ぐので、ストーリーやテーマがなかったのですが、飽きさせないようにしようと、テンポよく作りました。画面の揺れ等のごまかしは少なくなり、NHKのデジスタで殿堂入りすることができました。とあるアニメコンペで押井守さんに批評して頂いたのが嬉しかったですね。しかし『キクマナ』にはセリフがなく、メッセージ性も希薄な作品だったので、就活をする上で『キクマナ』を自分の代表作とすると活躍の場が狭まれてしまうのではと、就活のタイミングで、他の作品を作ろうと決めました。そこで『キクマナ』と真逆で、セリフで埋め尽くされたとシチュエーションドラマのようなアニメ作品を作り始めたんです。シチュエーションドラマは演劇ではよくあるパターンで、場面転換がなく、キャラクターの会話の掛け合いでストーリーが展開していきます。なお、この作品『水のコトバ』が、『イヴの時間』の原型とも言えます。

卒業後も就職せずに自主制作をしていますが、どういった経緯だったのですか?

『水のコトバ』が卒業間近にデジスタのプロデューサーの目に留まり、DVD化を前提に作品を作らないか、と声をかけていただきました。こんな話はなかなか無いと、思い切って就職せずにしばらく頑張ってみることにしたんです。そして約1年家にこもり、作り上げた作品が『ペイル・コクーン』です。実際に役者にキャラクターとほぼ同じアクションをしてもらい、それを撮影して動きをトレースするという手法で作画したので、見た目の画力は上がったように見えたと思います。目標は「尺が20分強、ある程度は室内劇で収まりつつ、壮大に見えるSF」でした。カメラワークを多用するなど、作画以外で動きを出すよう工夫しましたね。

そしてついに『イヴの時間』の制作へ入るわけですが、『イヴの時間』制作の始まりは?

『ペイル・コクーン』は若干ストーリーが分かりにくく、キャラクターに魅力がないねと言われました。ということで次は、キャラクターに魅力があり、ストーリーが分かりやすく、感情移入して泣いて笑って感動する、そんな作品を作ろうと決心したんです。これは本来作品を作る上で当たり前のことなんですが、改めてその目標を設定して頑張ろうと思いました。なお、全て一人で作っていた旧作品とは違い、今回はグループワークで作りたいという思いがあったので、これを機に上京しました。さて、今作は「1話10分程度の連作モノを」とプロデューサーから提案があったのですが、「初グループワークでいきなり連作はできるかな?」と正直戸惑いました。しかし、『水のコトバ』を作った経験から、部屋をCGで作り込んでおけば、様々なお客が来るシチュエーションドラマ的な展開が作りやすいと考え、その形式の連作なら制作可能かもしれないと思い当りました。さらに自分はロボットという題材好きなので、シチュエーションドラマにロボットのモチーフを入れ、さらに「ロボットに話しかける際の恥ずかしさ」という、身近なテーマを核に物語を描くことにしたんです。ロボットが可愛いけど、露骨に話しかけたら冷やかされる。でもやっぱり可愛いからドキドキする…といった、等身大なキャラクターの心の揺れ動きを大切に描きました。

今までの作品制作と違いを感じたのはどんな部分ですか?

やはり他者との関わりの中で作ってゆくという点ですね。今作を作る上で一つ大きかったのは、多くの出会いに恵まれた点です。特に制作の後半は、既に配信していたエピソードを通じて業界のアニメーターの方々にも『イヴの時間』を知って頂き、さらにそこから制作に携わって下さる方が現れたりと、仲間が増えていったのが嬉しかったです。中には「観ているよ」とお声掛けくださった方もいて…結果的に最終回は豪華なメンバーで制作できました。その一方で、制作スタッフ数が増えても、僕が3Dでレイアウトを決め、CGで光源を指定するところまではやっていたので、ある程度安定した画面構成を維持することができました。さらに今作はセリフ依存の話だったので、キャスティングも慎重に選びました。前作に引き続き、今作もプロの声優にお願いしたのですが、第一希望として自分が想定していた方々が、そのまま引き受けて下さったのは大変嬉しかったです。皆さんとても実力派で、1話の収録を聞いた瞬間に「これはうまくいく!」と確信しましたね。音響監督も担当していたのですが、収録は非常にスムーズに進みました。

シナリオ作りで参考にしたものはありますか?

やはり芝居ですね。戯曲の、得に喜劇を参考にしました。昔から笑いが起こるプロットの王道は“誤解”や“すれ違い”なんですよ。シェイクスピアしかり。その王道をやっているのが、自分の中では三谷幸喜さんなんです。ですから、僕も喜劇の作法を学んで、芝居の面白さやテンポに生かしました。また、様々な『脚本マニュアル』を読む中で、一番参考になったのは『テレビドラマの作り方』です。いかにチャンネルを変えさせないかを念頭に置いて書いているので、ひたすらストイックに観てもらう工夫を追求する作品作りの参考になりました。

今まで出来ていない部分をクリアしていくやり方でステップアップされてきましたが、『イヴの時間』という達成点を通過した今、次回はどんな作品を作りたいですか?

躍動感や開放感のある作品を作りたいですね。劇場で観たら思わず体が動いてしまうような、そんなイメージです。『イヴの時間』が閉鎖的な空間で繰り広げられるストーリーだったので、今度はアクションがあり、外の空気が抜けるような開放感のある作品を作ろうと思っています。

最後に、本学の学生や今回の講座に駆けつけた監督のファンの方々からの質問に答えてくれました

制作をする上で心がけていることはありますか?

サービス精神旺盛に、楽しんでもらえる作品を作るように心がけています。自分のやりたいことはもちろんありますが、それは意識せずとも作品ににじみ出ていますから、観てもらえる方が楽しんでくれることを一番に考えて作っていますね。それが個人的にも一番楽しいですし。

辛い時はどんな時ですか?またどうやってその辛い時期を乗り越えますか?

作っている最中…特に中期には辛いことが多いように思います。作り始めは楽しくて、完成が見えてきたあたりも楽しいですから。その辛い時期には、「この作品が完成したらみんなが面白がって、ついでに絶賛されるんだ!」と思い込むことで乗り越えています。…思い込みも大事です。本当です!

アニメを作る上でオススメのテクニックはありますか?

具体的な観客を想定し、その人が自分の作品を楽しんでくれるかをリアルに想像しながら作ると良いと思います。漠然と作るのではなく…。なお、その仮想客は親しい人物のほうが良いですね。知人友人、親兄弟でもよいと思います。

長期的な目標はありますか?

例えば○曜ロードショーで僕のアニメ作品が流れて、たまたまリビングのテレビに映ったそれをアニメに興味がない一家が偶然目にとめて、気付いたら一家全員が最後まで観てしまっているような、そんなことがあったら嬉しいですね。他にも、もっとアニメらしいアニメが作りたい、逆に超実験的なアニメも作りたい、キャラクターがフィギュア化されたい、舞台化したい…なんて夢も、とにかく数だけは沢山あります。そう考えると、今後の自分の課題も沢山見えてきますが。

『イヴの時間』の劇場版はストーリーの続きを予感する終わり方ですが続編は考えていらっしゃいますか?

セカンドシーズンにあたるものはありますし、必ず作ります!ただ、次回作はイヴとは違う作品を作る予定です。どうか気長にお待ちください…。『イヴの時間』はその構成上、ストーリーはいくらでも追加できますしね。主人公を変えた話や、サミィがどんどん人間らしくなっていく話など、色々と膨らみますよね。期待して待っていていただければと思います。

(取材・原稿/小島千絵)

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