大河ドラマ『八重の桜』映画『HANA-BI』『テルマエ・ロマエ』など 400作品以上ものタイトル制作を手がける 赤松陽構造氏による映画タイトルデザイナーの仕事特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2012年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
大河ドラマ『八重の桜』映画『HANA-BI』『テルマエ・ロマエ』など 400作品以上ものタイトル制作を手がける 赤松陽構造氏による映画タイトルデザイナーの仕事
映画タイトルデザイナーの赤松陽構造氏をお招きし、公開講座を開催いたしました。米国では職業として確立している「映画タイトルデザイナー」ですが、日本でこの職業のみを生業とされている方は数人のみ。赤松氏が手掛けたタイトルは、『ぼくらの七日間戦争』『Shall we ダンス?』『HANA-BI』『うなぎ』『がんばっていきまっしょい』『ウォーターボーイズ』『Dolls』『それでも僕はやってない』など歴代の名作から、現在大ヒット公開中の映画『テルマエ・ロマエ』、次回の大河ドラマ『八重の桜』まで、誰もが一度は目にしたことのある作品ばかりです。 今回は、本学にてグラフィック分野にて教鞭をとる藤巻英司教授がモデレーターを務め、作品事例を多数鑑賞しながら、映画監督・制作現場とのやり取りやタイトル制作の工夫についてお話しいただきました。
映画のタイトルの種類
まず、"タイトル"と一言で言っても、あらゆる場面で使われる様々な"タイトル"があります。
アバンタイトル:映画のTOPに入る配給・製作などのタイトルをさします。
トップクレジット:映画やテレビ番組でキャスト、スタッフなどの名前を作品の最初に表示するもので、ある場合とない場合があり、最近ではないものが多いです。
メインタイトル:題字、映画の顔になるものです。
劇中スーパー:年代や人名、地名などのタイトルです。
翻訳スーパー:洋画の場合に表示されます。
エンディングクレジット:ローリングタイトルと呼ばれる下から上に流れるタイプや、フィックスといって、固定画が順に出てくる場合もあります。
映画タイトルとグラフィックデザインとの違い
映画の場合、字体や色のデザインに加え、時間と動きがついてきます。ポスターを例にとると、言いたいことを伝えるためには字を大きくし、配色を目立つようにしますが、映像の場合はそこに動きと時間がついてきます。町でポスターを見る際は、見る時間を選択できますよね。しかし、映画の場合は、観客が必ず見る一方で、時間が限られています。その為、見せたいものを強調するためには、小さい文字が大きくなっていったり、時間を長めにしたりすることで強調するのです。しかし、その大きさを把握するのがなかなか難しく、大きいスクリーンでは文字の大きさの感覚が全く違います。ゆっくりだと思っても、スクリーン上だと視線を動かすことが必要なので、同じ速さでも早く感じます。
仕事の流れ
多くは映画の台本が完成した段階で依頼されます。そして台本はもちろん読みますし、そのあと、クランクインからクランクアップの間も、現場でなければできないことがあるので、何もしないわけではありません。ですがクランクアップ後、ラッシュ(撮影済みのフィルムを現像したもの)が上がってきたら本格的に打ち合わせに入ります。主に監督とプロデューサーと話し合い、サンプルを作ります。映画にはいろいろな見方があるため、角度を変えたサンプルも作ります。ここで、以前は動かないものでプレゼンしていましたが、いまでは動きもつけてプレゼンしています。そして最終的にどのデザインを使うか決定し、流すための具体的な作業へと入っていきます。
文字によるイメージ
文字によって印象はとても変わるので、どのような字体にするかはとても悩みます。『ウォーターボーイズ』では、コミカルに見せるのか、青春映画に見せるのかで悩み、最終的には青春映画のニュアンスを強くした字体と動きにしました。『ぼくらの7日間戦争』は3DCGが一般的ではない時代に、あえて3DCGのような文字にすることで、新しい価値観を求めている中学生のイメージを出しました。来年の大河ドラマ『八重の桜』は、福島の復興を願い、福島の戊辰戦争を描いた作品です。そのため、折れない枝をイメージした字体としました。
音や背景と文字の合わせ方
エンディング用に音楽と写真を50~60枚渡され、音楽にあったタイトルを作って欲しいと言われたのが『人間失格』です。文字が流れる速さも音楽に合わせています。一番オーソドックスなタイトルデザインですね。同じく古代ローマの絵画を30点ほど渡され、それを使って構成してくださいと依頼されたのが『テルマエロマエ』です。ローマ帝国の時代絵画を使用することで、内容のコミカルさとのギャップを出した演出です。
タイトルデザインをするときに心がけていること
苦手なジャンルの時ほどとにかく一生懸命やることです。先方に見せるかどうかは別として、とにかく数もひたすら多く書きます。『ご法度』という映画の例をあげると、300枚は書きました。それでも監督の意向である"今、人を切ってきたような字"を自分で書くのは難しかったため、居合い抜きをしている方に書いてもらいました。 また、台本はもちろん読みますが、ラッシュをしっかりと見て、内容をよく理解します。出来上がったものをどう解釈して、一度抽象化し、そして具体的にするか。映画を解釈する技術が一番大切です。デザインが出来る方はたくさんいますが、映画の解釈においては自信があります。
タイトルデザイナーを目指す学生へ
基本は、グラフィックデザインとアニメーションを学んでください。 文字と動きを兼ね備えたデザイナ―が出てきてくれると嬉しいですね。道を歩いていて見かけるポスターと、店に飾られているポスターでは見え方が違うので、グラフィックデザイナーの方も動きや時間を意識するといいと思います。そしてなにより、映画が好きで、グラフィックが好き。これが大きい要素です。私も、40何年間やってきてやめようと思ったこともありました。そんなときはとにかく一生懸命やりました。今与えられている環境を大事にすることが重要です。そこで120%の力を出さないと、その仕事が好きか嫌いかはわからないですから。授業でもなんでも、120%の力で向かってみる、それでだめなら向いてないということです。それをやらないでやめたらいつまでたっても自分の好きなものがわからないですよ。
(写真:デジタルハリウッド大学 4年 板屋ゼミ 藤井翔/取材・原稿:小島千絵)
講師
赤松陽構造(あかまつ ひこぞう)氏
1948年東京都中野区に生まれる。日本大学芸術学部映画学科中退。当時の志望は映画のカメラマンだったが、69年父の急逝により、その仕事場を引き継ぐかたちで映画タイトルの仕事を始め、現在に至る。「東京裁判」「ゆきゆきて、神軍」「うなぎ」「HANA-BI」「美しい夏 キリシマ」「ヴィヨンの妻」など、43年間に担当した映画は400本を超える。
参考
▼株式会社日映美術 公式サイト
┗http://www.n-art.jp/
▼大河ドラマ『八重の桜』 公式サイト
┗http://www9.nhk.or.jp/yaenosakura/staff/
▼第66回毎日映画コンクール 公式サイト(特別賞受賞)
┗http://mainichi.jp/enta/cinema/mfa/etc/history/66.html