ブリザード・エンターテインメントでアニメーターとして活躍する並木貞久氏が語る世界のゲーム業界最新動向と海外CGプロダクションへの道特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2012年 |
---|---|
場所 |
デジタルハリウッド大学 |
ブリザード・エンターテインメントでアニメーターとして活躍する並木貞久氏が語る世界のゲーム業界最新動向と海外CGプロダクションへの道
世界的なゲームメーカー「ブリザード・エンターテインメント (Blizzard Entertainment)」でアニメーターとして活躍されている、並木貞久氏をお招きして公開講座を開催いたしました。 ブリザード社は、カリフォルニア州南部のアーバインに本社があり、北部のサンマテオに関連会社ブリザードノースをおく、世界有数のゲーム製作プロダクションです。
並木氏は、デジタルハリウッド東京本校(専門スクール)を卒業後、同社に入社。これまでに『スタークラフト2』『ディアブロ3』「ワールドオブウォークラフト」など、数々の大ヒット作品の製作に参加されています。本公開講座では、デジタルハリウッドで並木氏と共に学び、現在は本学教員及び専門スクールにて主幹講師として教鞭をとる山本浩司氏をモデレーターに迎え、海外製作プロダクションで活躍する為のキャリアパスや、働き方の実態、業界の最新事情についてお話いただきました。
日本のゲーム会社での日々
デジタルハリウッド卒業後、まずスクウェア・エニックスのビジュアルワークスに入りました。学生の頃からアニメーションをやりたかったのですが、入社から1年くらいはコンポジット、ライティングをやってほしいと言われ、担当しました。それでも、アニメーションをやりたいと言い続けていた結果、2年目に『キングダム ハーツ』のプロジェクトからアニメーターとして参加することができました。入社当時の経験もあったので、コンポジットも引き続き担当していましたね。
アメリカでの仕事を目指して
ちょうど僕が入社した頃、ピクサーやドリームワークスがフルCG作品を作り始めた頃で、アニメーター仲間とアメリカでアニメーションをやりたいねという話はずっとしていました。そんな中、話すだけでなく、一緒に目指した同士がいたんです。でも何をしていいかわからなかったため、会社の作品をビデオテープに落として、履歴書を見よう見真似で英語で書き、ひたすら送り続けていました。その履歴書で直接の反応はもらえませんでしたが、あるとき、その噂をききつけた海外スタジオの日本人プロデューサーがアニメーターを探しに日本にきていて、連絡をくれました。その会社のことはよく知りませんでしたが、とにかくアメリカに行った者勝ちだと思い、二つ返事で行くことに決めました。
飛び込んだアメリカでの生活
行ったスタジオが10人くらいの小さい会社で、業界大手のスクウェア・エニックスとの差に驚きましたね。そして、仕事があるからと言われて行ったのにキャンセルになり、仕事がなくなってしまったんです。その後も仕事が来てはキャンセルの繰り返しで、何もできない日々が続き、ついに会社がまわらなくなるからと、1ヶ月休んでくださいと言われてしまったんです。そこで就職活動を始めなくてはいけなくなりました。今まで自分がやっていた仕事をまとめて送っていたのですが、今振り返ると、アメリカで仕事をとることがどういうことかわかっていなかったですね。
求められる人材像~アメリカでの仕事のとり方~
求められているのは"その会社のスタイルで作れる人"でした。いくらCG 制作がうまくても、うまいね、で終わってしまいます。僕も就職活動をする中で、このまま過去の作品を送り続けてもダメだということがわかり、会社に合わせて自分の作品を作り始めました。すると、面接が出来るところまで進めるようになりました。景気がよければインターンをやとって育て甲斐があるならそのままということもあるとは思いますが、やはり景気が悪いと即戦力が欲しいですよね。ですから、クオリティだけではなく、そのプロダクションのスタイルができるの?となるわけです。また、スペシャリストであることも重要です。アニメーションをやりたければ、デモリールの段階で、アニメーションしか見えないようなものを作ることです。余計なものを排除して何を見せたいかをはっきりさせなければいけません。いくらアニメーターですといってもアニメーションがぼやけていたら意味がないですから。
アメリカでの就職試験
課題をやらせる会社が多いです。シチュエーション、キャラクター、場面を想定した作品を作る課題です。ゲーム会社だと、キャラクターが送られてきて、走る、ジャンプ、歩かせるアニメーションをつけてくださいといったものもあります。他にも大きなキャラクターと小さなキャラクターを戦わせてくださいというものもありましたね。この課題に対して、どういうスタイルが求められているのかを分かって作らないといけません。リサーチも必要ですし、自分が得意なスタイルの会社を選んでいけばいいと思います。
アメリカのゲーム業界について
アメリカの強みはハリウッドの映画業界というバックグラウンドです。演出が映画のようになっていくとハリウッドで培われた演出が活きてくるので圧倒的に強いですね。映画業界にいた人もどんどんゲーム業界に入ってきています。
カルチャーショックを受けたこと
アニメーションミーティングに驚きました。プロジェクトのアニメーターが集まり、途中経過を映して、みんなで意見を言い合う会です。日本ではディレクターから指示をもらい修正していくことはあっても、チームで話し合うことはありませんでした。言いたい放題、入社したてもベテランも垣根なく意見を言います。そのやりとりをするのがカルチャーショックで、私はなかなか言えなかったのですが、主張することで評価されることもあると学びました。言われたことに従わなくてはいけないのではなく、みんな考え方が違うので、自分ではこれが正しいと思っていてもそれが唯一の正解ではないと知ることができ、よりいいものが作っていけるのです。
日本人クリエイターの弱み、強み
弱みはプッシュが弱いことですね。ミーティングの話をしましたが、アメリカでは主張することが求められます。日本では、黙っていてもいいものを作ればいいじゃないか、と思いがちですが、やはりそれでは足りないのです。がんばっているというアピールになるんですね。うぬぼれすぎはだめですが、自己主張は大事です。 強みに関しては、日本人に限定はできませんが、アジア人は器用でまじめで細かいですね。そこはいいところですから、今の日本人の職人魂を残してクリエイターとして育っていくのは強みだと思います。
(写真:デジタルハリウッド大学 4年 板屋ゼミ 藤井翔/取材・原稿:小島千絵)