Blue-ray・DVD発売記念 映画『おかえり、はやぶさ』VFXメイキングセミナー特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2012年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
Blue-ray・DVD発売記念 映画『おかえり、はやぶさ』VFXメイキングセミナー
映画『おかえり、はやぶさ』のBlue-ray・DVD発売を記念して、VFX※メイキングセミナーを開催しました。メイキングセミナーの講師として、村上優悦 氏(VFXスーパーバイザー)をお迎えし、日本では未だ数少ない3DCGと実写映像を合成した立体視映画の製作秘話を、貴重な映像とともにお話いただきました。
※VFX・・・Visual Effects(ビジュアル エフェクト) 映像における特殊な視覚効果のことを意味します。VFXには、CGと実写の合成や特殊映像表現・効果などがあり、映画やテレビなどでお馴染みの制作・編集技術です。
はやぶさプロジェクトとは
はやぶさという小惑星探査機が2003年5月に打ち上げられて運用が開始されました。 数ある目的の中でも主な目的は以下の3点です。
1.イオンエンジンの実用版を試験する実証実験
2.小惑星の探査
3.宇宙の起源の研究のためのサンプルリターン
最初の一年は地球の周りを周り、地球スィングバイを行って地球を離れて、更に半年後にイトカワに到着し、サンプル採取に成功しました。その後、数々のトラブルが発生して、大変なこととなったはやぶさは、困難に次ぐ困難をこえ、戻ってくる時期を延期しながらも、偉業をなしとげました。偉業とは、小惑星イトカワからのサンプルリターンです。カプセルだけを地球に落として自身は大気圏に突入し、燃え尽きてしまいました。カプセルを地球に送り返すために、突入せざるを得なかったという自己犠牲的な結末に、はやぶさを題材とした映画がこぞって作られました。『おかえり、はやぶさ』も、2010年6月にはやぶさが戻ってきて、その秋から映画化が動き始めました。脚本が1月から取り掛かり始め、5月に出来上がり、スタッフが集められるという非常に短いスパンで動きました。
『おかえり、はやぶさ』制作において大変だったこと
実際にあったものを再現するので、リサーチが大変でした。はやぶさとタイトルがつくものは読破し、はやぶさ自体が学術的実験なので、すべての運用情報を学者が論文にしているので、その論文も読みました。論文は英語のものばかりで理解がとても大変でしたが、そういったリサーチしたものを、虎の巻として自分たちでまとめ、さらに調べるだけでは分からない部分は、はやぶさの運用スタッフに取材をさせていただき、埋め合わせていきました。また、『おかえり、はやぶさ』は、はやぶさを題材とした映画の3作品目で、オリジナリティをどう出すかが悩みどころでした。全体の物語としてもそうですし、CGの表現の仕方も悩みました。また、はやぶさをCGで再現するのは想像以上に大変でした。実際のはやぶさを作るときに作った設計図やCADデータがあるはずで、それを見ればCGも作りやすいと考えていたのですが、国家機密で見せてもらえませんでした。ですので、一生懸命調べ、様々なものを参考にしましたが、その中でも、とある模型屋さんが取材をした組み立て中のはやぶさをWebにたくさん公開していた写真が非常に参考になりました。
何をCGとして制作するか
台本を読んで監督の描きたいものは何かを考えるのですが、はじめはなるべく制約を意識せず、アイディアを出していきます。その後に、予算と時間の制限の中で最大限どういったことができるのかを考えていくと、CGで描くべきもの、デジタルだけで完結せずに実際に素材を撮影したものを合成するほうがいいものというように、作り方が定まっていきます。今回は、撮影できない宇宙のシーンが多かったため、CGが主流で制作され、60カットが宇宙のはやぶさカット、その他合成も合わせ、トータル100カットに及びました。しかしそれだけCGカットがあっても、特に、観客にCG云々を意識させず、ストーリーに入り込んでもらうことが最も重要で、合成と全く分からないことこそが勲章になることも多いです。
立体視映画の制作について
3Dの撮影は、右目用カメラ、左目用カメラとついているため、非常に大きくて肩に乗せるなど到底出来ない、3人がかりで移動させるようなものでした。ですので、現場のフットワークもどうしても悪くなってしまうため、3D映画の費用がかかってしまうのはそういった事情もあります。奥行きの設定は、奥行きを決める人が専門でおり、撮影しながらリアルタイムで奥行きを測れる装置を使います。これ以上ずれると見ている人が疲れてしまうなど警告が出るため、参考にしながら、奥行きを決めていきます。ですので、撮影時には、演技のチェックと同時に飛び出しの確認をしていきます。
立体視映画における工夫
見ている人が追いつかなくなるため、奥行きの差が大きいカットは極力繋がないようにしました。繋げる場合にはカット割をゆるやかにするなどの工夫をしています。また、宇宙を煌びやかにし、星にも視差をつけ右目用と左目用でずらすことで、より、宇宙空間の奥行きを出すことが出来たと思います。しかし、あまり煌びやかにしすぎると、孤独感が弱くなってしまうので、バランスは気をつけました。
「レイアウト」で語る
宇宙空間は、"はやぶさ""宇宙空間""地球""太陽""イトカワ" という限られた要素で描かなければいけなかったため、画で意味をつけづらいという問題がありました。そのため、レイアウトの力学的効果も積極的に利用しました。たとえば、心臓は左側にあるため、人間は左側にあるものに脅威に感じ、防御や警戒の気持ちが生まれます。逆に右は安心感を与え、受け入れられやすいという心理的な作用を応用してレイアウトを行いました。 左側は動的で上昇感を与えるため、はやぶさが順調に進んでいるときは、左から右へ上昇させました。そして、故障するときに逆側のレイアウトにし、右から左に動かすことで下降感を出しました。また、立体視ということもあり、奥から前への動きなども取り入れています。このようにシンプルなレイアウトをいかにドラマッチクに描くかを苦労した作品ですが、見ごたえある作品になったと思います。
(取材・原稿 小島千絵)