椎名軽穂原作の大ヒット少女コミックがついに実写映画化! 熊澤尚人監督が語る、映画『君に届け』ができるまで特別講座
- 過去に開催した公開講座

開催日時 |
2010年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
椎名軽穂原作の大ヒット少女コミックがついに実写映画化! 熊澤尚人監督が語る、映画『君に届け』ができるまで
本作は、累計発行部数1400万部を突破し、テレビアニメシリーズも好評を博した椎名軽穂原作の人気コミック『君に届け』を実写映画化。今回、映画『君に届け』の監督・脚本をされた熊澤尚人氏をお迎えし、作品の解説、映画制作のノウハウ、ヒット作品の法則等を語っていただきました。
映画の製作開始はいつ頃だったのですか?
映画によっては構想10年という作品もありますが、最近は短い時間で作られる映画も増えてきています。プロデューサーが『君に届け』を映画化したいと考えたのが2007年と、漫画連載が始まってまだ間もない早い時期であり、なかなか先に進まなかったようです。そして僕に最初に話が来たのは昨年、2009年の9月末でした。実は以前に、原作を友人に勧められ、3巻まで読んでいて、最初の方の友情の話が気に入り、いい作品だと思っていました。しかし、まだ物語が途中で、その後の展開が分からず、この先爽子ちゃんと風早くんがどうなっていくか見えない状況でした。プロデューサーにどういう映画を考えていますか?と質問したところ、原作はまだ物語が途中ですが、きちんと想いを届ける作品にしたいので、考えていただきたいと返されました。それはすごく面白いなと感じましたね。原作をふまえつつ、原作者に失礼にならないように考えていくのはもちろん大変ですが、逆にとてもワクワクしました。原作の空気感、距離感がとても素敵だったので、そこを一番大切に作るようにしました。
脚本が完成したのはいつ頃ですか?
俳優陣に見せられる本が出来上がったのは確か2月頃だったと思います。テーマに関して、プロデューサーと意気投合でき、目指すところが見えてきたところで10月末に第一回の脚本の打ち合わせをし、そこから急いで作り上げていきました。俳優さんは普通、脚本を読まないと出演OKを出せないので、面白い!出演したい!と言ってもらえる脚本を早く出すのが大変でしたね。映画自体が1年ない状況で公開されています。かなり短い期間だったので制作は大変でした。
漫画原作で出版社とのやりとりもあったと思いますが、スムーズにいきましたか?
プロデューサーの佐藤さんが以前映画『DEATH NOTE デスノート』を制作していて、集英社さんと非常に良い信頼関係を築いていたので、佐藤さんであれば!ということだったようです。
キャスティングの選定はどのようにされたのでしょうか?
漫画、アニメ、実写とそれぞれならではの得意な表現方法があります。漫画を実写にする場合、かなり気を付けないと、原作が台無しになってしまうこともあります。実写はリアリティにつきます。ですから、しっかりしたお芝居ができることが重要でした。その上で、爽子ちゃんに近いような色白で長い黒髪で、見方によっては勘違いされてしまいそうな外観が作れて、作品にコメディタッチな部分もあるのでユーモラスな演技も上手い多部さんにお願いしました。風早くんは単にイケメンではだめで、清らかさ、男らしさが必要でした。かっこいい男性は沢山いるのですが、男性から見てもこういう友達がいたらいいなと思わせる力も三浦くんは持っていたのでお願いしました。去年の冬は三浦くんはテレビドラマ『ブラッディ・マンデイ』の撮影などで非常に忙しい時期だったのですが、撮影が終わったところで脚本を読んでもらい是非とお願いしました。承諾をいただく前から三浦くんで絶対いきたい!と、ねばりつつ待っていました。
撮影方法を聞かせてください。絵コンテは描きましたか?
ハリウッドだとよく絵コンテがありますが、僕は基本的にはあまり描かないようにしています。なぜかというと机上のコンテよりもライブで出来上がるお芝居が一番大切だと思っていて、お芝居を変えると、アングルやサイズも変える事が多いからです。机上で考えた事というのはその通りにはなかなかいきません。またすべて予定通りに作ってしまうと大切なものが抜けてしまいます。なので現場で撮りながら修正していきます。もちろん絵コンテをしっかり描くことは大切です、たまたま僕が別の方法論をとっていると考えて下さい。誤解のないように言いますが、準備はすごく大切ですから、準備をしていないという意味ではありません。絵コンテのかわりにカメラの動きを図に描いたり、実際に現場にいって演出部に芝居してもらい、どのアングルで撮影するかスチールにもして検証したりして準備してます。そういう準備をしているからこそ、絵コンテが要らないともいえます。準備なしに現場に入ると失敗します。万全の準備をして、現場でそれ以上を狙いたいと思っています。
どこで撮影されたのですか?
足利市で約40日間泊り込みで撮影しました。ロケ場所をどこにするかはとても大切で、足利の空気感が映画にぴったりだと思い決めました。今回の物語は凄くピュアな話で、東京ではありえない、でもすごく田舎の話でもない中間都市。大人になると都会に行く人と地元に残る人とに別れ・・・というような全国に沢山ある中間都市が、今回の映画のリアリティを支えてくれると考えました。そして運よく廃校になったばかりの学校が使用できる事になったのは大きかったです。一般の生徒たちがいる学校を40日間借りることはできないですし、廃校でも月日が経つと直ぐに荒れてしまうので、今回の物語では使えません。お話のほとんどが高校ですし、世界観が合った綺麗な学校を使えることができてよかったです。
主演のお2人はどのような方ですか?
多部さんは21歳で、大学に通いながら女優さんをしていて、今回も学校にも通いながらの撮影でした。お芝居に幅がある、本当にまっすぐな人です。それから普段は柔らかい印象の人ですが、お芝居になるとものすごく真の太い女優さんでした。今回若手が多く、初めて演技をする子が悩んでいたりすると相談に乗ってあげたりして、見えないところでフォローをしてらっしゃいました。三浦くんはシャイで人見知りするタイプなのですが、仲良くなると凄く色々な話ができる人でした。最近テレビで激しい役をやっていましたが、かなり繊細な人です。そして男気がある爽やかな人でした。映画の中で風早くんがクラスメイトとサッカーするシーンがあるのですが、リハーサルの時、三浦君から希望して、クラスメイト役全員とサッカーのパス練習をしてましたね。風早どう演じたらいいのだろうというのを自分なりにすごく考えていて、何にでもまっすぐな人でした。
大変だったエピソード、こだわった所はありますか?。
一番こだわったのは、距離感、幸福感、匂いなど、原作の一番素敵な部分を実写で表現することですね。それから原作で人気の千鶴や龍、くるみちゃん役を選ぶにのはかなりこだわりました。キャスティングプロデューサーに、今回ほど沢山オーディションをしたことないです、といわれるくらいでした。原作のイメージを大切に選んだので、演技経験がない人もいました。それから、教室の空気感がすごく大切だったので、クラスメイトを選ぶのに時間をかけました。ちなみにクラスメイト全員にも役名はついています。クラスメイトはイン前から練習をし、撮影が始まってからも、朝から日が暮れるまでは撮影で、撮影が終わった後、夜は教室でリーハーサルを繰り返すという感じでした。ホテルに帰っても一緒にご飯を食べ、沢山話をする。そういう見えない部分の人同士の友情だったり思いやりだったりがこの映画を良くしてくれました。セリフのない子でも「いい映画にしたいんです」と頑張ってくれていたのが嬉しかったですね。
様々な映画を作ってこられて、トラブルってあると思うのですが、トラブルがあった場合の対処法はなんでしょうか?[学生からの質問]
自主映画をやっていた頃はスタッフ同士揉めることもありました。今は人間関係で揉めるようなことはみんなプロなので少ないですが、人間関係、機材関係、いろんなトラブルは絶対起こると思ってプロは準備しています。どこまで万一のケースをシミュレーションできているかで現場が変わってきます。そのためにはやはり経験値がすごく大事です。人の力ではどうしようもできない天気なども、あらかじめ予備日を作ったり、予定を入れ替えたりして対処します。それでも天候が悪く撮影できなかった時は、休みを返上して撮影したりします。事前にシミュレーションして万一に備えておくことが大事です。
最後に映画監督を目指す学生にメッセージをお願いします。
やはり映画は自分の想いがないと作れないと思います。そして想いがあっても、うまく伝えられないと作れません。プロの映画作りはスピードが求められるので、細かく言わなくても分かってくれるスタッフを揃えたりするのですが、そんな分かってくれやすいスタッフに伝えたつもりでも、ちゃんと伝わってなくて、それが大きな失敗に繋がってしまう事もあります。実は想いって言うのはなかなか簡単に届きません。分かってくれているだろうでは駄目で、自分でちゃんと丁寧な言葉にして伝えないといけません。そういったことが映画を作るうえで非常に大切です。そしてそれは普段の生活でも大切なことだと思います。映画『君に届け』は、コミュニケーションがヘタな、自分の想いを伝えるのが得意ではない主人公が色々な経験をして友達ができ、友達に助けられながら自分の気持ちを伝えようする、言わばコミュニケーションのお話です。そういった意味でも観てない人には是非観ていただきたいと思います。
(取材・原稿 小島千絵)