Pixarが誇るシニア・サイエンティストMichael Kass氏が語る Pixarの魅力を支える 最先端CGテクノロジー特別講座
- 過去に開催した公開講座

開催日時 |
2010年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
Pixarが誇るシニア・サイエンティストMichael Kass氏が語る Pixarの魅力を支える 最先端CGテクノロジー
CGアニメーション作品で世界的なヒットを飛ばし続けるPixar。その魅力的な作品づくりは、最先端CGテクノロジーの研究開発に支えられています。今回は、Pixarが誇るシニア・サイエンティストであり、世界最大のCGとインタラクティブの国際会議ACM SIGGRAPHにおいて、『モンスターズ・インク』『Mr.インクレディブル』等でのキャラクター表現技術でCG功労賞を受賞したMichael Kass氏を迎え、Pixarの魅力を支える最先端CG技術について講演していただきました。
根幹はやはりストーリー
どんなに技術が発達しても、ストーリーが良くないと良い作品はできません。まずは絵コンテを並べ、ストーリーを組み立てていきます。そして実は早い段階で編集に入っています。あらゆる段階で編集しつつ、修正しながらアニメーションを作っていくのです。ですから、編集は常にあらゆる段階を見ることができ、全体を見ることでうまくいっている個所とうまくいっていない箇所がわかるわけです。
魅力的なキャラクターにするために
ストーリーができたら、キャラクターデザインです。デザインをする際に、静止画である見た目はもちろん、動きもつけていきます。どのキャラクターもそれぞれ細かくデザインされ、毛の方向やキャラクターとしての性格を出していきます。専門家が粘土で彫刻を作り、みんなでダメ出しをしながらキャラクターを作りあげていくこともします。しかめっ面や驚いた顔など、あらゆる表情を作って、キャラクターに命を吹き込んでいきます。そしてキャラクターをコンピューターの中で立体的にするのですが、この作業はさほど時間がかかる作業ではありません。場合によっては、粘土で作ったキャラクターをスキャンしてデータを取り込むこともあります。立体的にした後に、どのような動きをするのかを作っていく作業に時間がかかります。大体平均すると一つのキャラクターの表情だけで300~400パターン作るからです。まゆげの一部だけ動かすなど、細かく作り上げていきます。ここまで細かく設定することで、より細かなコントロールができるので、アニメーターの思う表情が作れるというわけです。一度そのキャラクターが出来ると、顔や体を動かしてみて成立するかテストします。そして実際のアニメーションを作りあげる前に、声優さんの声を録音します。このタイミングで声を録音するのは、同時に撮影もし、声優が演技する中で出てくる表情で使えるものがあれば、アニメーションに活かしていけるからです。ひとつひとつの動きを派手にする、これがアニメーションの極意です。
細部まで作り込まれて完成に至る作品
キャラクターの形が決まった後は実際の色はどうなのか、質感がどうなのかを作り上げていきます。まずはいろいろ試し、そして最終的なバージョンを決めます。もちろん、ほとんど映ることはありませんが、足の裏などの細かいディテールも作りこんでいきます。続いてキャラクターの住む世界のセットや小道具の制作や、ライティングで効果的な演出をしていきます。ディレクターがイメージをパステル画で描き、それを基に、ライティングアーティストが光の入った世界を作り上げ、カメラアングルやレイアウトの中でキャラクターの配置を決めていきます。そして最後はレンダリングです。以前はレンダリングに専用のコンピューターを使っていましたが、今は市販のものとほぼ同じです。そしてこのレンダリングまでにその都度、編集で繋げて何度も全体を見て調整していきます。Pixarはこの流れで一つの長編映画作品を3~4年かけて作っていきます。
布の動きから始まったPixarが誇るテクニカル技術
『トイストーリー(1)』の段階では服のシワはアニメーターがひとつひとつ描いていたのですが、手間がかかる割にはクオリティが高くありませんでした。ここで、Pixarが初めて、物理を応用してシミュレーションを使ったアニメーション制作に乗り出しました。まずが私が初めて携わった『Geri'sGame』という短編作品で使用し、これなら大丈夫だと『モンスターズ・インク』でも使用することになりました。劇場映画の本編ということで技術を高め汎用的にしなくてはいけません。しかし、物理的にすることで、アニメーターが描く絵が物理的に不可能なポーズが分かるようになりました。例えば布と布が重なる部分で、重なる幅が取れていなかったり、布が重ならず突き抜けてしまっていたりというものです。我々がつくるバーチャルの世界で成立する物理を開発しながらも、現実の世界と同じような反発する力をプログラミングし、計算しながら作っていきました。服の着せ方もプログラミングしたのですが、腕が袖を通らず、袖の下から腕が突き出てしまうなんていうNGシーンも初期段階では出ていましたね。服の布のパターンから縫い目がどこにあるかをシミュレートで作り上げ、体に合わせて貼り付けていきます。『Mr.インクレディブル』では服だけで150着あったので、衣装チームがいました。
布の動きをほかの動きに応用
布の他、モンスターについている毛にも同じシミュレーションソフトを使いました。何枚も繊維が編んである布よりも毛のほうが簡単でした。流れとしては、まずは毛の生えていないキャラクターを作り上げ、ガイドとなる毛をつけます。その間に何本毛を入れていくか計算するのですが、物理の法則を入れないとヤマアラシのようにツンツンと毛が立ってしまうので、重力を加えることで、自然な仕上がりになります。布や毛の他には『ファインディング・ニモ』で水の動きに応用しました。より良いアニメーションができないかを常に開発しているのです。
技術はCGだけでなく広報活動にも
映画『ウォーリー』を本当に作ったこともあります。アニメーションのキャラクターを実際に制作することで、プロモーションに繋がると考えたからです。200キロのロボットで、時速約10km。テレビ番組でも紹介され、映画俳優が歩くレッドカーペットも歩きました。遠隔操作で動き、声もコントロールされているため、本当に生きているように動かせるのです。このように、テクニカルな人とアニメーターがコラボレーションして作品を作っていくのがPixarの強みです。
CGの技術で、これは難しいというものはありますか?またこれをやってみたいというものはありますか?[学生からの質問]
CGの世界は開発がすごい速さで進んでいる世界です。ですから時間とお金をかければできないものはないという段階に来ています。どうやってやるの?と驚く時代もあったのですが、今はほとんど不可能な表現はないと思います。あと考えているのは、アートとして表現した時どうコントロールしていくのか。アートとして表現することができると作品ももっといいものになる。また、一つのことをやるのに多くの人が関わってくるとその人たちとの間のコミュニケ-ションが難しくなり、ディレクターの考えるビジョンを伝えるのが難しくなってきます。私たちには、技術によってアニメーションの動きを簡単にして、多くの人を介さず、ディレクターの支持が簡潔に表現できるようにするという役目もあるのです。
デジタルハリウッド大学にはCGクリエーターを目指す学生がたくさんいます。どうやったらPixarに入れるでしょうか。[学生からの質問]
素晴らしいポートフォリオを持ってきてください。ここで言う素晴らしいとは技術だけを指しているのではありません。みなさんの作品の中に"感情""感動"が入っているかが重要です。Pixarではアニメーションの語源でもある命を吹き込むことに力を注ぎ、その上で、ただ命を吹き込むだけでなく、感情移入ができ、キャラクターを好きになるような作品を目指しています。ですから、どんな感情を表現できるのか?というところを見ます。その手段は問いません。粘土細工でも、絵画でも、極端に言えばブドウを使って表現するなんてことでもいいのです。ただ大事なのは、アニメーションなので動かして面白いなと思わせる力です。デモリールから訴えたいものが伝わってきたときに、一緒に仕事をしたいなと思います。ぜひ、素晴らしい作品を作ってください。
(取材・原稿 小島千絵)