【開催レポート】「キック・アス」「セッション」「ルーム」に見る、海外映画を日本でヒットさせるツボ特別講座
- 開催レポート

開催日時 |
2016年7月7日(木)19:30~21:00 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス 駿河台ホール |
デジタルハリウッド大学では、本学学部生を対象に、特別講義「『キック・アス』『セッション』『ルーム』に見る、海外映画を日本でヒットさせるツボ」を開催しました。講師を務めたのは、「キック・アス/Kick-Ass」「ルーム/Room」「セッション/Whiplash」「ナイトクローラー/Nightcrawler」「黄金のアデーレ」「イケメンですね(韓国ドラマ)」など数々の話題作を買い付け(権利輸入)された吉村 毅教授。今回の講義では、映画ビジネスの基礎から、映画がヒットした要因、失敗事例など、世界の映画事情についてこの場だけでしか聞けないマル秘エピソードも交えながら解説いただきました。
映画の買い付けとは?
「お茶やお菓子などの物品を買った後は、その物自体を自由に飲食したり、人にあげたりできるが、映画の買い付けは、映画そのものではなく、映画を売ったり貸したりして儲ける『権利』、つまり、映画を流通する権利を買うことをいう」と吉村先生は説明します。映画の権利を売る側の人は「セラー」、映画の権利を購入する側の人は「バイヤー」と呼ばれます。つまり、映画ビジネスとは、世界各国にいるバイヤーが、世界の映画祭(映画マーケット)にて、セラーから海外映画を買い付け、自分の国で流通させることです。
近年では、アジアの映画業界のマーケットが大きくなった事により、アメリカの映画会社が香港などのアジア圏まで映画を売りに来ているそうです。
バイヤーの計算と成功の確率
「映画を買う時には、完成した映画試写を見ないで企画段階や脚本段階で買う場合もある」と吉村先生は言います。なぜなら、完成作品が良いできであれば、誰でもそれを見て買いたくなるので、買い付け額がすごく上がってしまうからだそうです。バイヤー間の競争は、1分1秒を争う激しいもので、主演俳優の名前とあらすじ5行といったB5の紙に収まる程度の企画段階で買うこともあるそうです。
ちなみに、「キックアス」は完成作品を試写して買付け、「セッション」と「ルーム」と「ナイトクローラ」は、企画段階で買い付けたとのことです。
「10本の映画を買っても1本しかヒットしない場合もあるし、全部外れることもあり得るというのが映画(インディペンデント洋画)業界。損をする事のほうが多いが、ヒットした映画で大量の利益を得る事で成り立っている。言うなれば、スタートアップ支援のベンチャーキャピタルのビジネスモデルに似ている気がする」と吉村先生は感想を述べました。
なぜ日本は映画の公開が遅いのか?
海外ではすでに公開して話題になっている映画が日本で公開されるのはその6カ月後、といった事例が日本では多く見られます。これは一体なぜなのでしょうか?
吉村先生は、以下のように推察する、とお話されました。日本の洋画マーケティングは、かつて、まずはアメリカでの映画公開の興行成績や各映画祭の様子を見てから、公開規模や宣伝費の多寡、媒体プランを決めていく習慣があったのも理由であろうとのことでした。映画館側もよほど大きな洋画で無ければ、作品完成しアメリカでの公開の状況を知ってから具体的に決めたいということもあるかもしれないし、日本のCM等の広告宣伝費が他国に比べて高いため、マーケティングにより慎重になる必要があることも影響しているかもしれないそうです。
映像配信事業者の影響は
「今後、VOD配信が伸びてくることにより、VODからの収入が増える一方、DVDからの収益が小さくなり、映画を買い付けることが難しくなったり、制作することが難しくなるという可能性はある。しかし、ひとつ個人的に可能性として感じているのは、ビジネス次元の話ではないが、NetflixのようなVOD配信事業者のおかげで、日本のコンテンツの素晴らしさが、世界に理解される機会を提供してくれるとも考えられるのではないか」と吉村先生は言います。「良くも悪くも世界の約150カ国に同時にVOD配信されるサービスは、日本映画やドラマを海外に販売する営業ネゴシエーションを経なければならないという壁と、字幕をつけるというローカライズにかかるコストを無くす。結果、日本コンテンツに限らずとも、世界中のコンテンツに、いつでも・誰でも・どの国からも接することが出来る時代になる。日本の映画、ドラマは、世界中の人から見てもらいやすくなる。見てもらえば、理解してもらえて正当に高く評価される可能性が出てくる。これはなかなかすごいことだと思うし、世界各国の人々が、お互いにお互いのことを分かり合える土壌を作ることで、世界が平和になることに貢献するかもしれないね」と解説されました。
参加者へのメッセージ
1人のバイヤーの判断で何十億というお金を動かす映画買い付けの仕事。マーケティング力、決断力、データと経験地に基づく勘など、多様な能力が問われます。吉村先生はいろいろな経歴をお持ちですが、長年勤務されているCCC(TSUTAYAやTポイント事業も運営)では、20歳代、30歳代の時に、店舗のDVDの仕入れや陳列から始まり、様々な経験を培ってこられ、その1つ1つが、ビジネスの成功率を高めるための経験値というデータベースとなり、今日に繋がっているそうです。最後に吉村先生は、「映画業界に限らず、積み重ねが大切」とコメントし、講義を締めくくりました。
原稿:デジタルハリウッド大学 2年 大舘 拓実