【開催レポート】音楽プロデューサー・編曲家HΛLの映像を魅せる音楽術特別講座
- 開催レポート

開催日時 |
音楽プロデューサー・編曲家HΛLの映像を魅せる音楽術 |
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場所 |
駿河台ホール |
サザンオールスターズや藤井フミヤなどの数々の有名人の編曲を手掛けている音楽プロデューサー・編曲家のHΛL(梅崎俊春)氏。アニメやゲーム、映画のBGMのサウンドプロデュースなど幅広い音楽シーンで活躍しており、日本レコード大賞編曲賞を受賞しています。本講座は、レコーディングやミックスダウンといった音響エンジニア技術を学ぶ「坂本音楽塾」との共同セミナーとなりました。モデレーターは同塾長である坂本昭人氏が務めています。
Theme1 HΛL氏が大切にしていること
坂本:会場のみなさんと、ベースラインを共有したいのですが、そもそも編曲家、音楽プロデューサーとはどのような職業なのでしょうか?
HΛL:編曲家とは、音の錬金術師と呼ばれている職業です。原石を宝石にするように、原曲を広げて華やかに、原曲のテイストを膨らませる職業です。メロディーに沿って様々な構成を考案し、バランス感を持った一つの作品にします。音楽プロデューサーの方はこれに加え、映画のプロデューサーのように人選決めから制作進行まで1つのプロジェクトを統括する職業です。
坂本:音楽業界に入った経緯をお聞かせください。
HΛL:もともと、シンセサイザーをつくりたかったのですが、たまたま行ったライブハウスで演奏後も中の様子を見ていた時に、「好きか?」と言われ仕事を手伝わされた事がこの業界に入ったキッカケでした。
坂本:そこからキャリアをスタートさせたHΛL氏ですが、2002年に浜崎あゆみさんの「Free & Easy」にて日本レコード大賞編曲賞、「No way to say」で最優秀編曲賞を受賞しています。HΛL氏は、大きな功績を持ち合わせていますが受賞した時の気持ちはどうでしたか?
HΛL:あまり賞を取ろうと意識している訳ではありませんでした。しかし、その秘訣には欲しいものを言葉にしてちゃんと言うという事が大切だと思います。自分の言葉で言ってしまう事で、責任が生まれてくると思います。レコード大賞の時も、仕事をしている時、仲間と話している時に冗談交じりに「今年はレコード大賞取りたいなぁ」と口に出し続けていたら、本当に賞を取る事が出来ました。このような経験から、若い人にはいつも、「なにかやりたい事があるなら、言葉にしましょう。」と言い続けています。
Theme2 HΛL氏の音楽術
HΛL氏は、現在の音楽シーンでのSE(サウンドエフェクト)の重要性を語られました。SEとは、テレビや映画等で使われる、刀で斬る音や格闘の打撃などの演出に使われる効果音の事です。講義中盤では、実際に制作に使われている音楽用ソフトウェアの「Pro Tools」を使用し、曲を流しながらの講義となりました。実際に現場で使われたファイルを解説して頂いたので、参加者は貴重な経験ができました。本記事では音が伝わらないため、筆者の所感をいれています。
HΛL:まずこの音源を聞いてみて下さい。この音源で曲として成立はしているのですが、これをもっとグレードアップし、もっとテンションをあげるものにするために、僕らは当時、他のアレンジャーがやらない事をやっていまして、ノイズや俗に言うSEをつけました。そういうものは映像などで使う事は多いとは思うのですが、音楽の中で使われる事はありませんでした。それを、音楽に取り入れました。例えば、ただのアタック音(カンという金属音が鳴る)が入るだけで違ってくるという訳です。
実はこういったSEが各所に入っています。これは、シンセサイザーで作った音なのですが、リズムに合わせてランダムに音を流しているだけのものを足しています。全部元はSEを使っています。僕がよく使う方法の中にリバース物(音を逆回転させたもの)というものがあるのですが、これがオケの中に入ると、場面転換のパーツのひとつになります。こういうものの組み合わせをずっとやっていきまして、この曲は展開をどんどんやらせていって同じ部分をあまり作らないようにしています。特に間奏では、いろんな仕掛けをしています。
・曲を流して、SEが入っていない方とSEが入っている方を実際に比べて頂きました。オケに「カン、カン」という金属音が加わり、曲の中に緊迫感が生まれる印象を受けました。
HΛL:次の間奏は、ただのワンコードです。この中にギターソロがあるのですが、そこにいくまでの雰囲気をSEで作り出します。ギターソロが「スパーン!」と目立つようにすることで、ソロにいくまでの雰囲気を作っている訳です。世界観が違ってきますよね。最後に爆発音をいれる事によって、曲の終わりを演出しています。
ドラムやボーカル、ギターの並んでいるトラック群の中にSEを組み合わせる事によって、緊張感が増します。世界観がどのようにつくられていくかという現場を、参加者は目の当たりにする事ができました。HΛL氏はもともと、1つ音楽の中に物語を構築したいと考えており、もっと歌詞の世界観を演出するために使われたのがSEだそうです。「音楽によって視覚をくすぐる事を目指しています。」と語っています。
・この部分は、間奏に続くAメロのラスト部分だったのです。音自体はそこまで大きいものでは無いのにも関わらず、リバース音が入ると入らないのでは大きく違った印象を受けました。メロディの移り変わりにメリハリが出る仕掛けとなっています。
Theme3 おわりに
SEの使用に関しても当てはまりますが、HΛL氏は常に型を破ってきたのだという印象を受けました。しかし、ただ型を破るのではなく、人々を納得させることができる音楽を作ってきたことに強みがあると思いました。HΛL氏は、「自分の耳で聞いて、カッコよければいい。」と語っていますが、同時に、「基本、音に悪い音というのはありません。シチュエーションに合わないだけです。」ともコメントしています。自分のスタンスを示し過ぎて、ビジネスに傷をつけかねない、シチュエーションに合わない音をいれてしまっていないか、という点では、音楽だけでなく映像などの他の分野に関しても、同じ真理が働いている事を感じた講義となりました。
原稿:デジタルハリウッド大学 1年 大舘 拓実