【開催レポート】フォントの世界を牽引し続けている小林章氏による特別授業 『ローマン体大文字のスペーシングを身体でつかむ』特別講座
- 開催レポート

開催日時 |
11月25日(水)19:45~21:15(19:30開場) |
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場所 |
デジタルハリウッド大学・駿河台キャンパス |
アクセス |
JR「御茶ノ水駅」聖橋口より徒歩1分 |
今回の公開講座は、世界的フォントデザイナー小林章氏によるワークショップ。小林氏は、JT Meviusロゴや、Sony SST 等、数々の有名企業のフォントデザインを手掛けています。前回と同様、参加者が制作した作品に対して小林氏から直接指導が受けられるという貴重な機会となりました。
大文字のスペースを考えるところからのスタート
今回のテーマは『スペーシング』について。文字と文字との間を調節して、いかに美しく組めるかに注目しました。まず参加者に配られたのは、『HISTORY』と大文字で書かれた用紙です。小林氏は、デジタルフォントに本来ついている自動的に文字間を調整するカーニングという機能をわざと外した状態の字並びについて、「全く美しくありません」とコメント。しかも、大文字の字幅は次に小文字がくる事を考えて作られているため、大文字同士をそのままパソコンで組むと詰まりすぎてバランスが悪くなる事について解説しました。その後、用紙に書かれた『HISTORY』という文字の1文字1文字をカッターやハサミを使って切り抜き、文字と文字の間隔を調節して再び貼りつける作業が個人個人で一斉にスタートしました。パソコンではなく紙を使う理由について、「一度貼ったら剥がしたくないので、1回1回を真剣に考えられます。コンピューターだと、やり直すハードルは低いですよね」と、小林氏は語りました。参加者は出来上がった作品を小林氏のもとへ持って行き、一人ひとりにアドバイスをしました。今回使われたフォントは、ローマン体書体の Sabon。「自分でも本を読んだり、子供も学校でドイツ語の本を読んだりしています。これらの書物の書体を見ると、結構な割合でこのフォントが使われています」と、小林氏。16世紀から存在するフォントですが、500年経った21世紀においても頻繁に使用されているそうです。
文字に潜むリズム感を体感
参加者は、『HISTORY』という文字のスペーシングについて真剣に考えました。全ての文字と文字との間隔を緩めに組む人、タイトに組む人。参加者それぞれが出す答えは人それぞれです。小林氏は、「正解は一つではありません」とコメントし、参加者の作品をスライドに映しながらの講評を行いました。参加者の多くが講評を受け、その中には共通して指摘される部分がみられました。その中でも多かったのが、文字の間隔を空け過ぎてしまうこと。小林氏は、「文字と文字の間の間隔が空きすぎる事で、読みにくくなってしまっている」とアドバイスしました。その他にも、左側の間隔が空き過ぎているのに対し、右側がタイトで詰まりすぎているといった、同じ単語の中でリズム感がずれてしまう作品もありました。これらは、スペーシングを行う上で陥りやすい現象だと言います。「1つの単語の中で均等なリズムを持つ事が大切です」と、小林氏は語りました。
『新鮮な目』になる方法
文字を組んでいる時に限らず、私達が陥りがちなのが「何が正しいのか分からない」という状態。細かい部分にこだわり過ぎて周りが見えなくなったりする事は、スペーシングに限らずよくあることです。小林氏は「新鮮な目になる事が大切」とコメントした上、書体デザイナーとして他人の目で見る訓練を頻繁に行っていると語りました。自分の頭をリフレッシュするためにまず紹介したのは、紙を上下逆さにして見る方法でした。「ずっと手元30㎝ぐらいで見ていると、分からなくなってしまいます。立ち上がったり、床に置いて見たりする事をお薦めします」と、小林氏は解説しました。違う視点や角度から見つめると、たくさんの気づきが生まれ、悩んでいる部分を明白に解決できました。
質疑応答
「せっかく私本人がいるので、何でも質問して下さい」と、小林氏。参加者からは多くの手が挙がり、小林氏はその様々な質問の内容に答えました。その一部を紹介します。
参加者:セリフ体とローマン体はイコールですか?
小林氏:イコールですね。イコールですね。ただし、ローマン体という言い方にはいくつかの意味があります。右に傾いているものをイタリック体と呼びますが、それに対して垂直に立った状態をローマン体ということがあります。また、ローマン体をサンセリフ体に対してセリフのついた書体という使われ方もします。つまり、セリフの無い書体と反義語になり、セリフがついているという意味になります。
参加者:書体デザイナーとして、小林さんのセンスのルーツはどこにあると思われますか。
小林氏:書体は書く事から生まれています。つまり、書いた文字のリズムがいいかどうかは、何度も書いてみると良いと思います。何回も書いていると、とんでも無いバランスというものは気持ち悪くてつくれないかと。例えば、私は西洋の書道であるカリグラフィからフォントの勉強を始めました。自己流で字を書いていたら、その感覚というものはつかみにくいのかもしれません。長い文を紙に一発勝負で書くなど、真剣勝負で書いていくと、文字のリズムやバランスに気を遣うと思います。ヨーロッパで生まれ育ったからと言って、誰もが書体デザイナーになれる訳ではありません。私は日本人ですが、15年間欧文書体の仕事のみやっているのは、そこに理由があるのではないかと思っています。
文字のスペーシングを学んでみて
今回の講義では参加者一人ひとりが実際に手を動かし、文字のスペーシングを考えることで、文字への興味をさらに広げてくれるものになったのではないかと感じます。講義中は参加者全員が集中して作品を制作し、積極的に手を上げ自分の制作した作品のアドバイスを小林氏に聞きに行く姿が印象的でした。毎日何気なく触れ、生活に溶け込んでいる文字。そんな文字について、真摯に向き合える時間となりました。
原稿:デジタルハリウッド大学 1年 大舘 拓実