【開催レポート】~「亜人」の演出や「夜桜四重奏~ハナノウタ~」 の監督を務めるりょーちも氏が語る~ 『2020年のアニメ制作改革全てはデジタル、3DCG化へ』特別講座
- 開催レポート

開催日時 |
2016年6月9日(木)19:30~21:00 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス 駿河台ホール |
デジタルハリウッド大学では、「亜人」の演出や「夜桜四重奏~ハナノウタ~」の監督を務めるりょーちも氏をお招きして、特別講座を開催しました。モデレーターを務めたのは、本学教授の高橋光輝先生。近年、アニメ制作は、紙を中心とした作画がタブレットに代わり、フルCG化への移行など、デジタル化が急激に高まっています。りょーちも氏は、フルCGアニメ「亜人」の演出を手掛ける一方、2Dアニメにおいても監督や演出を務める等の活躍をしています。2Dアニメと3Dアニメの制作工程を熟知したりょーちも氏の講義から、それぞれの表現の強みや、新たな知見を得ることができました。
CGアニメの強みとは?
様々なアニメ作品の演出・監督を手掛けるりょーちも氏。実はCGアニメ制作に関わるのは「亜人」が初めてとのことで、当初はCGアニメに対して、CGなら何でもできると思っていたそうです。しかしCGアニメ制作に関わる中で分かった事は、「CGでは人と人との接触が苦手など、逆に制限が多いということだった」とりょーちも氏は話します。その反面、実写ドラマ的表現力が強いCGアニメでは、キャラクターを俯瞰した映像など、2Dでは注文の難しいカメラワークができたり、制作した3Dデータをアセットとして溜めておくことができたりなど、利点も多くあるそうです。りょーちも氏は「背景なども、溜めておいた3Dデータの再利用が可能なので、アニメ上で世界観を構築する上では、3DCGの方がやりやすいのではないか」と話します。また、「アナログ的な、目を見開く等の大げさな表現の無い『亜人』は、作家の表現する世界観とCGとの相性が良かったのではないか」とりょーちも氏はコメントしました。
CGアニメは実写ドラマ的
「CGアニメは実写ドラマ的」と語るりょーちも氏。「亜人」は、ドキュメンタリーテイストの映像効果を模索しながら制作したそうです。その中で、「2Dアニメをやっている時よりも、カメラという意識が相当変わった」とりょーちも氏は言います。CGではステージングと呼ばれる概念があります。これはCGで作られたセット上でキャラクターに芝居をさせ、それを様々な方向からカメラで撮影することです。CGアニメは、シーン全体を様々な位置からカメラで撮影できるため、カットで見る概念の2Dアニメとは異なります。シナリオ構成も割り本構成という、実写と同じ方法を模倣しています。また「亜人」は、人物の動きにモーションキャプチャーを使用しており、これによって1連のストーリーを通してその人物がどういった感情で体を動かしているのかということが、2Dアニメよりも分かりやすくなっています。「モーションキャプチャーを担当する役者さんからも『ここはこうは動かないよね?』という意見が出て、それを反映したり、現場の細かな対応が如実に作品に出ていると思う」とりょーちも氏は解説しました。「亜人」はシリアスな心理戦の作品なので、CGの強みがうまくリンクしているのではないでしょうか。
質疑応答
参加者:これから紙はなくなってしまうのでしょうか?
りょーちも氏:仕事の作業効率を考えるなら、デジタルの方がやはり良いです。しかし、紙に勝る描きやすさはありません。
参加者:3Dで表情をつくるのはやはり難しいのでしょうか?
りょーちも氏:2Dのアニメーターは3Dのリグを使えないことが多く、3Dアニメーターは、絵を描けないことが多い傾向にあります。そのため、3Dアニメの表現にまだ乏しいものが多いのは、2Dアニメーターよりも絵が描けないからだと思います。3Dアニメーターが2Dアニメーターぐらいの画力があれば、うまく顔の表情を変形できると思います。亜人では目力をいれる事で、見た人の感情に訴えかけています。
学生へ伝えたいこと
モデレーターの高橋先生が、「CGアニメも黎明期。学生は何を学べばいいのかアドバイスをいただけませんか?」と質問しました。これに対して、りょーちも氏は、「自分の琴線を響かせるものに出会うこと。たくさん感動して、泣く。作品が持っている味にハマること。ただし、ハマったものに対して、自分の作品がその模倣になってしまうのは危険」とコメントしました。
最後にりょーちも氏は、「大切なのは、なぜ好きなのか理由を見つけること。何についても言える事だが、大切なのは技術技法だけではない。自分が何を欲しいのか探る事が大切。これを続けていると、自分を掘り続ける作業となるため心に負担がかかってしまうが、若いうちからこういった訓練をしておくと、長期間に渡って仕事ができる人になれる」とメッセージを伝え、閉演となりました。
原稿:デジタルハリウッド大学 2年 大舘 拓実