アニメーション監督『新海誠』の世界特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2012年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
アニメーション監督『新海誠』の世界
短編映画『ほしのこえ』をはじめとしてその洗練された映像で国内外を問わず、数多くの映画祭で受賞歴を誇る監督、新海誠氏。11月25日 よりBD・DVD発売となった今年の話題作『星を追う子ども』、そして新海氏の代表作『秒速5センチメートル』の制作とアニメーション表現、考え方、世界観作りなど制作データを交え、実際にソフトを動かしながら講演頂きました。
イントロダクション/アニメーション制作の流れ
アニメ制作の基本は、すべての設計図となる絵コンテを作成することから始まります。絵コンテでは、キャラクターの配置やレイアウト構成、アクション、セリフ、尺など、アニメを構成する要素を出来るだけ詳しく描き込みます。その後に進む作画にあたっては、基本的にはアニメーターが絵コンテを基に描いていくわけですが、その際、実際の実写映像を撮って、それを参考に作画していくこともあります。『秒速5センチメートル』では線路の写真を撮って、その上に 3DCGの電車を走らせたり、After Effectsで雪を降らせたりと、CG技術を用いることもしばしばあります。アニメ制作は、鉛筆で描いた作画や背景美術、3DCGなど、さまざまな素材を用いて作られます。それらの素材は、撮影というアニメ制作の最終段階において、フォーカスをあまくしたり、光を加えたりと、さまざまな効果を映像に加えます。以下では、この流れに沿って、『星を追う子ども』と『秒速5センチメートル』を題材にして、もう少し詳しい、実際の制作の話をしていきたいと思います。
脚本・イメージボード
まず脚本を書く前には、自分がどんな作品を描きたいか、どんな人に観てもらいたい作品か、主人公はどんなで、主人公の住む環境はどんな等、書ける範囲のことを数枚の紙に企画書(プロット)として書いていきます。特に念頭に置いたこととして、今回の『星を追う子ども』では、観客が映画を観終わったあとに「もっと生きよう!」と思えるものを作ろうと考えました。大まかなストーリーが上がったら、今度は脚本として、具体的に、どのように始まり、どのように終るかを考え、間を作っていきます。400字詰め原稿用紙1枚で約1分換算として、本作品では、約116ページの脚本になりました。 作品はアニメなので、脚本作業が終わる頃には、キャラクターや世界観の基になるイメージが必要になります。そこで、この物語がどんな世界で、どんなキャラクターたちがどんな旅をしていくか、その指針となるべくイメージを描くのですが、これがイメージボードと呼ばれるものになります。
絵コンテ
『秒速5センチメートル』までは、編集も自分でしていましたし、音声がある状態で各カットの尺を決め込むようにしていたため、絵コンテは全て、音声付の動画(ビデオ)コンテを編集してから、紙に戻していました。それは、『秒速』では音のイメージが先にあったからできたことでもあったのですが、『星を追う子ども』では、約2時間の1650カットという作品サイズで難しいこともあって、カット尺はおおよその尺をストップウォッチで測り、音は頭の中だけでイメージするに留め、動画(ビデオ)コンテは作らず、全て紙ベースでの絵コンテ作業としました。結果として、最後に編集作業があり、今回は編集マンにも手伝っていただき、非常に勉強になりました。
原画・動画・背景美術・彩色
プリプロダクションと呼ばれる絵コンテまでの作業は少人数で行いますが、ここからは200人以上の分業体制で制作を進めます。アニメーションの基礎となる原画と動画は、今でもアナログ(手作業)で行います。背景美術もアナログで行うスタジオもありますが、私たちはデジタルで行っています。また、背景美術は多くのパーツをレイヤー別で描いています。そうすることで、例えば手前の雲と奥の雲でスピードを変えてスライドさせ、撮影することが可能になり、背景に奥行を出すこともできます。色彩については、理想は各カット毎、背景美術に沿って色をつけることだと思います。なぜなら、同じ場所であっても太陽の方向が変われば色も変化するからです。『秒速5センチメートル』ではこの方法で1カット1カット色指定をつけて塗っていきました。しかし、アニメーション制作には時間的な制約もあるため、『星を追う子ども』では予め主要なシーンごとに色彩設定を行い、それに合わせて背景美術の完成前から色彩作業を行いました。
撮影
撮影は、別々に作成した画像素材を重ねるだけでなく、映像に様々な効果を付け加えます。例えば、『星を追う子ども』ではマシンガンを打つ場面で、火花を散らしたり、まっすぐだった弾道を重力によって曲がっているように見せたり、色々な効果を付け加えました。色彩に手を加えることもあります。アニメ業界ではセクションの間をふみこえて、撮影で画像素材に手をいれるこの手法はNGなこともあるようですが、私の作品では、私が監督と撮影監督をかねているため、初めから画像をいじることもある前提でスタッフに作業を進めてもらいました。監督としてこういう映像にしたいというものに近づけるために、撮影で様々な調整を行います。『秒速5センチメートル』までは、多くのパートで独自のやり方でやってきたのですが、『星を追う子ども』では、経験者のスタッフに入ってもらったことで新しい発見も多々ありました。次の作品も新しいことにチャレンジし、より良いものにしたいですね。
学生にアドバイスをお願いします
学生さんと私でそんなに土俵が違うとは思いません。今では私ももう10年もアニメを制作してきましたが、自分だけが特別なことを成し得てきたとは思っていませんし、むしろ最近はネットにアップされている学生作品を観て「うまいなぁ」と思うことがたくさんありますね。学生さんは若い分、体力もあるし、勢いがありますので、私も負けないようにしなければと思います。お互いがんばりましょう!
(取材・原稿 小島千絵)