人気TVドラマの監督と原作者によるTVドラマ『鈴木先生』ができるまで特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2011年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
人気TVドラマの監督と原作者によるTVドラマ『鈴木先生』ができるまで
今春放送され大きな話題となったTVドラマ『鈴木先生』の監督・河合勇人氏と、原作者・武富健治氏をお招きし、公開講座を開催しました。『鈴木先生』は武富健治氏原作の漫画がTVドラマ化され、【平成23年 日本民間放送連盟賞 テレビドラマ番組部門"最優秀賞"】、【ギャラクシー賞 6月度月間賞】を受賞するなど、大きな話題と反響を呼んだ作品です。 どこにでもいそうな平凡な教師が、どこにでも起こり得る問題について過剰に悩みつつ、独自の教育理論によって解決していく様を描いた、大人も楽しめる学園ドラマです。放送から4ヶ月が経った今も尚、熱狂的ファンから愛されているこの作品。本公開講座では、監督・河合勇人氏、原作者・武富健治氏のお二人に、どのように「鈴木先生」の世界を作り上げてきたのかを大いに語っていただきました。
テレビドラマになるまでのプロセスはどのような流れだったのですか?
河合監督: 『鈴木先生』の背表紙に惹かれて漫画を読み、のめりこんだのが出会いです。始めの段階では、映像化を考えていたわけではなかったのですが、当時出ていた8巻まで読んだ段階で、これはぜひ映像化したいと思いました。制作会社ROBOTの守屋圭一郎氏とは以前から知り合いでして、面白い漫画があるので映像化しないかと相談し、漫画を読んでくれた守屋氏も面白い、なんとか映像化したいと盛り上がりました。そこで双葉社さんに、原作権を問い合わせたのですが、当時は違う局が先にアプローチしていたんですね。そこで泣く泣く諦めていたのですが、しばらくするとその話がなくなったという情報が入ってきたため「映像化したい!」と手を上げました。最初は映画化をと思っていたのですが、連続ドラマにするほうが内容を薄めないで描けるのではないかと連続ドラマを制作することとなりました。2009年末ごろの話です。
武富先生自身は、映像化にあたってリクエストしたことなどはありますか?
武富氏: 基本的にずっとプロデューサーの守屋さんを通してやりとりをしていたのですが、こちらから先に、「こうして欲しい!」と注文するのではなく、届いた脚本に対して意見を言うような形を取っていました。それがきちんと伝わり、何かしら組み込んだ形で返してくださっていたので、間接的にではありますが濃密に絡ませていただきましたね。それでも始まるまではやはり不安が大きかったです。ですが、始まってからは完成度が高く、初回のみ試写会で見ましたが、それ以降は放送の時に初めて見るというかたちで、毎回放送される日を楽しみにしていました。
キャスティングはどうやって決めたのでしょうか?
河合監督: 今回は作品を映像化したい!というスタートでしたので、キャストは後から決まっていきました。主役の鈴木先生役が長谷川さんに決まったのも2010年11月とだいぶ後でした。長谷川さんにお会いして、この方しかいないと思いました。最終的に長谷川さんに決まって本当によかったです。学生は全員オーディションです。相当多くの方にオーディションを受けてもらいましたね。ドラマに出てくるクラス変えのシーンのように、みなさんの写真を並べて、スタッフ間で、誰を誰役にしようか熱心に話し合いました。2010年10月からオーディションを始めたのですが、ドラマのキーポイントとなる小川役の土屋さんは、出会ったのがすでに2011年に入った1月の半ば頃でしたが、長谷川さんと同じく、彼女しかいないと思いました。出会えたことが運命でしたね。
『鈴木本』というものが撮影現場で配られたとききました。いったいどのようなものですか?
河合監督:『鈴木本』とは助監督が作った原作の解説本のようなものです。原作が分厚くて内容が濃いため、全生徒の名前や相関図、今の中学の給食の状況、学校の先生の給料など、ドラマの背景になる部分などが書かれたものを作り、スタッフ全員に配りました。
武富氏:原作者の僕から見てもとてもよく出来ていました。
メインで使っていた学校はどこかの小学校で撮影したのですか?本学のキャンパスも使って撮影をしていましたね。
河合監督: メインで使っていた教室はセットです。セット感を出したくなかったので、その質問は嬉しいですね。体育館や屋上、給食室のシーンはデジタルハリウッド大学の八王子制作スタジオで撮影しました。
武富氏:僕も撮影現場に行ったのですが、セットが本当に精巧にできていて驚きました。他のテレビドラマではなかなかここまで作りこまないと聞きました。そこにいるといつのまにか学校にいるような気分になるんですよ。
ドラマを作る上で、大切にしたことは何ですか?
河合監督: 単なる絵空ごとに終わらせないで、いかに自分のことのように生々しく感じてもらうにはどうしたらいいかを一番考えて作っていました。そのために字幕を出してみるなど、様々な手法を使いました。また、原作のセリフの量をどう表現しようかと悩んだときに、脚本の古沢良太さんがアニメの『四畳半神話大系 』がナレーションを多用していて面白いと教えてくださり、今回このドラマにもその手法を取り入れてみました。また、撮影に入ってからはあえて漫画を1ページも見ませんでした。学生時代に漫画をそのまま撮ってみたらどうなるかをやってみて大失敗したことがあります。頭の中には入っているのでもちろん影響は受けていますが、漫画を意識しすぎずに作るようにしていました。
武富氏:監督の頭の中に残っている部分というのが、「漫画から受けた印象」ですよね。漫画とドラマは別物ですから、漫画をそのまま表現するのではなく漫画とは違う手法を使ってもかまわないので、とにかく結果的に届いたときに、原作漫画を読んだ時と同じ印象を視聴者の心に与えるようにしてほしいと思っていました。そのように頼もうと思っていながら、言うタイミングを逃してしまっていたのですが、監督が「漫画から受けた印象」で勝負してくださったおかげもあって、最終的に出来上がったものは、希望通りに出来ていたので嬉しかったです。
今回、ドラマは賞も受賞していましたが受賞についてはどのようなお気持ちですか?
武富氏: ギャラクシー賞は専門家が審査するときいたのですが、日本民間放送連盟賞をいただいたことで、コアな分析をする方々だけでなく、一般的な見方をする方々にも評価していただいたと思うとさらに気持ちが明るくなりました。
河合監督:作り手側としては賞などの権威に「こんなものを作って!」と怒られるようなものにしたい、視聴率を狙って作ってこう!という気持ちだったのですが、そこが逆転してしまったのは意図したものではなかったので驚きましたね。賞はもちろんのこと、今回、このような機会にたくさんの方々に来ていただいたこともとても励みになります。今後も『鈴木先生』の応援をよろしくお願いします。
(取材・原稿 小島千絵)