映画『スイッチを押すとき』ができるまで特別講座
- 過去に開催した公開講座
開催日時 |
2011年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
映画『スイッチを押すとき』ができるまで
映画『スイッチを押すとき』の監督・中島良氏と、脚本を手がけた本学教員の岡本貴也氏、プロデューサーの中西研二氏、VFXスーパーバイザーのデジタルハリウッド大学院1期修了生、戸田泰雄氏の4名をお招きし、公開講座を開催いたしました。舞台版を評価していた「スイッチを押すとき」の原作者・山田悠介氏が映画化のオファーを快諾、こうして遂に、多くのファンが待ち望んだ「スイッチを押すとき」の映画化プロジェクトが動き出しました。今回は映画公開を記念し、製作の舞台裏から見所まで、それぞれの立場から語っていただきました。
映画化にあたって
中西プロデューサー:原作許可をとるにあたって、作る側の情熱が高ければ高いほど、相手にも伝わると思います。もちろん金銭面が合わずに断られることや、この条件を飲んでほしいということもあります。キャスト希望のリクエストをいただくこともあり、その際は希望通りの方にアプローチして進めるか、この方ではいかがですか?とこちらから提案をすることもあります。今回の「スイッチを押すとき」では、以前岡本さんが手がけられた舞台版の評価がよかったので、岡本さんが脚本を手がけて頂けるならいいですよ。と山田先生に言っていただき、スムーズに話が進んでいいきました。
脚本について
岡本氏:テーマの自殺に関してはたくさん調べました。自分が死ぬ、そこに動機が必要です。そこに嘘があってはいけない。今回キーワードとして使った「また明日」という言葉は、彼らにとっては深い意味があって、かつ我々もよく使う言葉です。普段からよく使う言葉が、シチュエーションによって、こんな意味になるのか!という衝撃を与えたいと思いました。
中島監督:小出さんの役は原作より心の闇が加わっていると思ったのですが、それが映画的な成功を導いていると思いました。見た後の観客に何か影響を及ぼす物語にするのがすごいです。原作から離れているようで、より山田裕介的作品になっていたと思います。
中島監督起用について
岡本氏:映画を観たときに、脚本をはるかに超えてくれたと思いました。こんなに若い方が監督だと驚きました。また、映画を見ていて画の繋ぎ方がうまいなぁと感じたのですが、監督ご本人が編集作業をされているのですね。今回、中島監督を起用したのはどういった流れだったのですか?
中西プロデューサー: 最初、企画段階でまずキャストの小出恵介くんからあたりました。その際に小出くんから、若い作家、若いキャストで製作していくならば、ぜひ若い才能のある監督と一緒にやらせてほしいというリクエストがありました。そこで、10名くらいの監督候補を出した中から、中島監督がぴあフィルムフェスティバルで審査員特別賞・エンタテインメント賞・技術賞の3冠を受賞した『俺たちの世界』を小出くんが観て、ぜひ一緒にやらせてくださいという形で監督が決定しました。
キャストについて
中島監督: 7年間閉じ込められて過ごすという設定ですので、ストイックさを持っている人を選びたいと考えていました。オーディションをしまして、菅野莉央さんの感情の高ぶり方がうまかったのが印象的ですね。お笑いコンビたんぽぽの白鳥さんは当時まだ新人で「大学時代に演劇部に所属していたので、演技も出来ます!」と事務所の方から推薦していただいて起用に至ったのですが、実際に演歌やラップなどの無理なリクエストにも答えてくださり驚きました。彼女はその後大ブレイクして我々も嬉しいですね。
ロケ地について
中島監督:廃墟を使用して撮影しました。撮影場所となった廃墟はある研究をやっていた場所で、撮影の際にも幽霊が見えるという声もありましたね。撮影で使ったのは外観だけで、ドアをあけたらセットへ繋がっている形でした。美術の方が本当のドアを持ってきてくれて、セットに取り付けたので、繋がりもとても自然でした。
中西プロデューサー:撮影場所についてはプロデューサーとして悩みました。廃墟だと電気も水もきていないため、電気を引いたり仮設トイレを設置したりと、大変コストがかかるのです。でも他にロケ地でピンとくるところがなかったため、そこに決めました。また、室内はセットにしました。セットだと壁もはずせるため、いろいろな角度から撮影ができるというメリットがあるからです。
CG(VFX: Visual Effects)について
戸田氏:実際に撮れないものを作ったり、撮ったけど消しを消したり、作品の補完的な役割を担います。昔からのやり方で特撮やミニチュアを使うこともありますが、今ではCGで作ることが多いですね。世の中でいうと(1)CGがメイン(2)CGが補完的な役割(3)CGがメインと補完の両方を担うという3つの使い方があります。今回はCGだと分からないように作る補完的な使い方でした。心電図などのモニター画面が出てくるのですが、撮影の前に準備し、撮影現場で出力しました。監視画面になると複雑になって、人が写っていないと準備できないので、先に撮ってもらった素材をいただいて、次の撮影までに用意して流しました。基本的にCGは時間とお金をかければあらゆることが出来ますが、仕事だと限界があるので、カメラと画面の間になにも通らないようにしてほしいというふうに芝居を限定しすぎない程度にお願いをすることもありました。
大変だったこと
中島監督:編集ですね。現場はみんなで作り上げていくのでとても楽しかったです。一方編集は一人ですし、興行的な問題で映画は2時間までがベストとされているため、 120分以内に収めるために145分あったものを泣く泣くカットしました。カットしながらもキャラクターの心情が繋がるように作っていくのが大変でした。
中西プロデューサー:意見をまとめることですね。映画スタッフは本当に各分野のプロの集まりなんですが、皆の意見がバラバラだったりすると、誰かが調整してまとめなくてはいけない。それをやるのがプロデューサーであり、大変な部分です。
宣伝について
中西プロデューサー:今回、3月に震災もあり、公開を自粛するべきか?それとも公開すべきなのか?、と悩みました。自殺を扱っていましたので。ですが最終的には、作り手の意図として「生きると言う意味」ということをテーマにしていたので、公開を決めました。ターゲット層は山田悠介さんのファン世代、そしてそれぞれ出演者のファン層です。何回か試写会をやり、アンケートをとって、年齢別にチェックしました。賛否両論の作品で、年輩の方からは、設定そもそもの理解ができませんという意見も頂きましたが、私たちが意図して作ったように、命について考えさせられましたという意見が若い方に多く、途中から、若い方に向けて積極的にWeb やTwitterを中心に宣伝をしていきました。
(取材・原稿 小島千絵)