【開催レポート】特撮脚本家小林雄次が語る世界で評価される日本の特撮作品の発想法特別講座
- 開催レポート

開催日時 |
2016年12月1日(木)19:45~21:15 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス 駿河台ホール |
デジタルハリウッド大学では、特別講義「特撮脚本家小林雄次が語る 世界で評価される日本の特撮作品の発想法」を開催しました。講師を務めたのは、「ウルトラマンオーブ」、「ウルトラマンX」、「牙狼<GARO>」、「宇宙刑事ギャバン THE MOVIE」等、国内の特撮作品の脚本を数多く手掛ける小林雄次氏。海外にも大きな影響力をもち、ウルトラマン、スーパー戦隊、仮面ライダー等、シリーズが継続するにつれ、日本国内でも人気を拡大し続ける「特撮」をテーマとし、日本で独自の進化を続ける特撮作品の変遷、日本で制作された特撮の海外における評価など、日本の特撮作品の魅力や制作について解説いただきました。
最近のテレビ番組の視聴事情
小林氏は、現在放送されている特撮テレビドラマ「ウルトラマンオーブ」の脚本を手掛けられています。最近はテレビ番組全体の視聴率が低い傾向にあるそうですが、ウルトラマンシリーズも例外ではありません。理由は主に二つ、まず一つ目は昔に比べ選択肢が多くなった、つまりウルトラマンだけでも視聴できる作品数が格段に増えたこと、またウルトラマン以外にも沢山の特撮作品が放送されるようになったこと、そして二つ目にインターネットの普及・発達により、テレビで観なくてもネットで観られるようになったことが挙げられます。ウルトラマンシリーズを手掛ける円谷プロダクションでは、「YouTube」にチャンネルを開設し、週に一回その週に放送した最新のウルトラマンを配信し、視聴者を増やす工夫をしています。またAmazonプライムで、過去作品から今の作品まで見放題にすることで、新しくテレビシリーズを観始めた人が、過去の作品にも触れやすい環境づくりもしています。
「特撮」の始まりと進化
「特撮」という言葉は今では「ジャンル」のような位置付けになっていますが、元々は「特殊撮影」の略称で「ジャンル」ではなく「技術」だと小林氏は解説します。特撮の原点はミニチュアを使用した戦争映画や怪獣映画で、そこから独特な進化をし、CG等を使いながらさまざまなジャンルに波及していきました。近年では、「特撮」と言えば着ぐるみなどを用いたヒーローもの、という認識が一般的になっています。
小林氏も脚本を手掛け、ノベライズも手掛けた特撮テレビドラマ「牙狼<GARO>」は、当初、子供向けに企画された作品でしたが、新しいコンテンツへの挑戦が検討され、深夜枠となり、作風はダークで大人向けの特撮となりました。この作品はCGがふんだんに使われ、当時の最新のVFX技術を使いワイヤーアクションなども取り入れたことで、他の特撮ヒーローものとは少し系統の違う珍しい作品と言われたそうです。
円谷プロダクションの「特撮」、東映の「特撮」
「円谷プロダクションと東映はどちらも『特撮』作品を手掛けていますが、二つの会社の作品を比べると違いがある」と小林氏は語ります。具体的には、”ヒーロー、敵役、物語の中に存在する組織、重要視している点、シリーズ性”という五つの例を挙げ、説明されました。
- ヒーロー
円谷プロでは、怪獣や宇宙人がメインとして登場する『ウルトラQ』という作品が作られ、その進化形としてヒーローや防衛チームが加わり、『ウルトラマン』が誕生しました。初代ウルトラマンは、神秘的で人間離れした巨大ヒーローです。一方、東映の特撮作品はヒーローありきで始まっています。キャラクターが個性的で、親しみやすいのが特徴です。ヒーローの容姿も円谷プロと違い等身大です。
- 敵役
円谷プロの敵役の宇宙人は、ウルトラマン同様に人類や文明を達観した目で見ている知的なキャラクターが印象的です。それに対し、東映の敵役は人間的でユニークなキャラクターが多数登場します。もっとも、近年はウルトラマンにも人間味溢れる個性的な宇宙人が登場するようになりました。
- 組織
円谷プロでは、本来、ヒーローや敵役に組織はなく、ウルトラマンでいうと人間たちの防衛チームが唯一の組織でした。シリーズによってはコンビを組んでいたり、チームになったりするヒーローものもありますが、ヒーローは正体を隠している孤高の存在です。一方、東映と言えばチームで戦う戦隊ヒーローであり、敵にも組織があり、ボスや幹部、怪人たちが攻撃を仕掛けて来るというパターンです。
- 重要視している点
円谷プロでは主に伝統的な特撮技術や映像のクオリティ、1話ごとの物語やテーマを重視しています。一方、東映ではキャラクターを強く打ち出すため、設定や名乗り、決まり文句などを重視しています。しかし最近では、円谷プロも名乗りや決まり文句を多用しています。
- シリーズ性
円谷プロは基本的には一話完結で話を作っています。また、近年のウルトラマンでは一つのシリーズに10人位の脚本家を登用し、一話一話それぞれの監督や脚本家の味を出すような仕組みになっています。対する東映では連続性や全話の統一感を重視し、1年間というシリーズを通して1人の脚本家がほとんどの脚本を書くことも珍しくありません。
「特撮作品」が出来るまで
企画の初期段階では、モチーフや玩具からテーマを発想します。その後、キャラクターや世界観を固め、そしてやっとシリーズ構成や脚本を執筆していきます。作品によって脚本家が参加するタイミングは異なりますが、近年のウルトラマンでは、シリーズ構成を担当する脚本家が企画の初期段階から参加して、プロデューサーやメイン監督とともに作品を立ち上げる仕事も担当しています。また、全話の脚本の打ち合わせに参加して、シリーズ全体の物語を監修します。一方東映では、シリーズ構成を置かず、プロデューサーがその役割を兼任するケースが多いようです。小林氏は「モチーフ~キャラクターまで、企画の成り立ちを理解した上で物語を発想していくのが脚本家の仕事」とコメントしました。
海外でのウルトラマン
ウルトラマンは、ハリウッドやオーストラリアでも作られました。日本人スタッフの監修により伝統的なミニチュア特撮が導入されたほか、屋外に作られた広大なオープンセットなど、海外ならではの撮影も行われました。また、近年では中国を中心にアジア圏でウルトラマンの人気が上昇し、ネット配信では億単位の再生数を稼いでいます。しかし「海外に向けてウルトラマンを作っているわけではない」と小林氏は語っており、純粋に円谷プロ独自の魅力的なウルトラマンを作ることに価値があると考えているそうです。
講義を聞いて
今回の講義で「特撮」がどのように作られているのか、どんな歴史を辿っていたのか等知ることが出来ました。また脚本家の仕事がどういうもので、どのようなやり方をしているのかを学ぶことが出来ました。「特撮」と一言にいっても作る会社によって全然違う事や、色々な撮影法があることを知り、お互いを知る小林氏の話はとても的を射ているものだと感じ、また自分の視野や思考力を広げてくれるものだと感じました。
原稿:デジタルハリウッド大学 2年 恒成 美咲
講義終了後は小林氏のサインを求める行列ができました