ボーカロイド生みの親 ヤマハ株式会社 剣持秀紀 × デジタルハリウッド大学教授 福岡俊弘氏による特別対談 「ボーカロイドはなぜ世界に受け入れられたのか?」特別講座
- 過去に開催した公開講座

開催日時 |
2012年 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 |
ボーカロイド生みの親 ヤマハ株式会社 剣持秀紀 × デジタルハリウッド大学教授 福岡俊弘氏による特別対談 「ボーカロイドはなぜ世界に受け入れられたのか?」
VOCALOID™(ボーカロイド) とはパソコンに歌詞とメロディーを入力するだけで、サンプリングされた人の声を元にした歌声を合成することができるヤマハ株式会社が2000年3月に開発がスタートしたソフトのことです。中でも「VOCALOID2」を使用し2007年にクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の手によって誕生したキャラクター"初音ミク"を始め、ボーカロイド関連商品のヒットが続々と生まれるなど、ボーカロイドは、もはや社会現象ともなっています。
今回、ボーカロイドの開発者でもあるヤマハ株式会社の剣持秀紀氏よりボーカロイド誕生秘話を語っていただき、初音ミクコンサートの運営にも携わる本学教授の福岡俊弘氏より独自の視点でボーカロイドのヒットの背景について切り込んでいただく講義形式の公開講座を開催しました。その一部をお伝えします。
ボーカロイドの仕組みについて
剣持氏:ボーカロイドは人間が歌っているわけではありません。とはいえ何もないところから歌声はできないので、実際の人間の声の断片を繋ぎあわせることで作り出しています。そして歌詞と音符を入力し、合成エンジンで歌声を合成することができる仕組みです。楽譜のような画面に音を入れ、歌詞を乗せ、テンポを整えていきます。歌い方を変えてみたり、子音を長くしたり、母音の無声化を使うなど、人間が歌っているように聴こえるようにするには人間が本能的にやっていることを改めて入力してあげるなどコツがあります。ですが、ベタうちのよさもありますし、それぞれクリエイターの色が出てくるのが面白いところ。また、一度作った曲に色々な声をあてはめてみることが出来るので、男女さまざまなキャラクターの声を当てて流していただき、ライブラリーから自分好みの声を選ぶ楽しさもあります。
ボーカロイドの言語展開について
剣持氏:ボーカロイドは日本語のほかに英語、スペイン語、韓国語、中国語と多言語で展開しています。すべての合成エンジンは全言語共通です。では何が違うのかというと、例えば英語に対応するにあたっては入力が英語で出来る必要があるということです。英語を打ち込むことによって発音記号に変換され、音になります。ですが、日本語の場合は、ひらがなカタカナは書き文字ながらも文字が発音に近いため、打ち込んだものをそのまま発音すれば良いのですが、英語はそうはいきません。
福岡氏:日本語と英語の違いは子音の数。そのあたり開発の難しさはありましたか?
剣持氏:英語は子音の連鎖がおこります。子音が連続してあたかも1つの音に聞こえるという日本語には無い現象です。書き文字と発音の違いなどを辞書として登録する苦労などがありましたね。それでも発音ができないものは、発音に近い音を入力するなどの工夫が必要になってきます。例えば"Let it be (レットイットビー)"を"Led it be(レドイットビー)"といれることによって、実際の発音に聞こえるように打ち込んだりします。音声の知識が無いと難しい部分ではありますね。
ボーカロイドの進化について
剣持氏:クリエイターが作った動画をみて、こういった表現ができるのかという刺激を受けます。時には出来ないと思っていた壁を越えた作品にも出会います。今後に活かしていきたいですね。クラシックでも、ワーグナーの時代にはオケが大規模になっていきましたが、多彩な音楽を表現したいという欲望が道具を発展させたのではと思っています。ボーカロイドも今後もそのように発展していくのではないでしょうか。
福岡氏:道具が音楽を進化させるだけでなく、音楽が道具を作っていくということですね。
ボーカロイドのヒットについて
剣持氏:我々は音を作る技術を提供しています。そこにまずキャラクターを使うことでリアリティが増します。自動ピアノはいい例ではないでしょうか。今でこそ、銀行などで演奏されていますが、過去は気持ち悪かったと思うんですよ。そこで誰かが弾くマネをしていると、本当にその人がひいているように見えますよね。
そして、ボーカロイドに歌わせることは演奏行為そのものだと思います。バイオリンの曲をきいて感動することはいくらでもありますよね。歌っているわけではないけれど、演奏しているのです。作り手の感情が立派に表れます。クリエイターの意思が投影されているのではないでしょうか。
福岡氏:そうですね。その上で、人間が歌っているわけではない、ある種の欠落感を埋めたいというイマジネーションや情熱がボカロ文化を花開かせた理由ではないかと考えています。
剣持氏:『ワールドイズマイン』という曲の歌詞が印象に残っています。高飛車な女の子の歌なのですが、世界観が2番でがらっと変わる。これがまさに男性が理想とするツンデレな女の子なのではないか、と思ったんです。生身の人間が歌ったのでは出ない世界観。バーチャルだからできる、人が歌うよりボーカロイドが歌ったほうが、物語が落ちてくる。そんな魅力が世界の心を捉えているのではないでしょうか。
* 「VOCALOID(ボーカロイド)」はヤマハ株式会社の登録商標です。
「初音ミク」はクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の登録商標です。