【開催レポート】次世代エンタメはウェブから始まる クリエイターと出版ビジネスにとっての新たなチャンス 『ウェブ小説の衝撃』特別講座
- 開催レポート
開催日時 |
2016年8月3日(水)19:30~21:00 |
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場所 |
デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス 駿河台ホール |
デジタルハリウッド大学では、特別講義「次世代エンタメはウェブから始まるクリエイターと出版ビジネスにとっての新たなチャンス『ウェブ小説の衝撃』」が行われました。出版社が新人作家を育成、売り出す事が難しい現在。ウェブ小説プラットフォームの登場によって出版業界が変わり始めています。また、ウェブ小説が原作である、アニメやドラマ等のコンテンツが数多く生まれています。
そのウェブ小説についての解説をしたのは、飯田一史氏。飯田氏は、出版社にて小説やライトノベルの編集者を経験後、独立。サブカルチャーやネット動画、ウェブ小説をテーマとした書籍等の執筆を手掛けています。
そもそもウェブ小説とは?
ウェブ小説という言葉は耳にするけれど、一体どんなもの…?多くの人が誤解しがちなのは、ウェブ小説は電子書籍とは異なるということ。ウェブ小説とは基本、無料で読むことのできる小説プラットフォーム上に投稿された作品の事を指します。ウェブ小説プラットフォームとは、書き手と読み手をダイレクトに繋ぐウェブ上のマッチングサービス。有名どころでは、月間700万PVを誇る「小説家になろう」、「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」等が投稿された「エブリスタ」、陸上自衛隊をテーマにしたファンタジー小説「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」がヒットした「アルファポリス」などがあります。
増え続ける、ウェブ小説発のコンテンツ
「ウェブ小説って今伸びてるの…?」といった声を耳にします。日本のガラパゴス的な文化だと思われがちなウェブ小説ですが、飯田氏は「ウェブ小説とは、単に小説の話だけではありません。もっと広い世界に及びます」と言います。例えば、全国書店員が一番売りたい本を選ぶ「2016年本屋大賞」で第2位の「君の膵臓を食べたい」は、新人作家で最も売れた本のランキングでも第2位となった注目の一冊です。これもウェブ小説。また、全世界で累計発行部数1900万部を突破、ハリウッドで実写テレビドラマ化が決定した「ソードアート・オンライン」も、作者のサイト発のウェブ小説です。
ウェブが雑誌の役割を代替
今までインキュベーションやプロモーションの役割は、雑誌が担っていました。例えば、新人が雑誌で売れたら単行本を出すという流れ。しかし、最近では雑誌の売り上げが不調。新人の作品が雑誌に出ないまま単行本になっているケースが増加しています。これを飯田氏は「単行本の数撃ちゃ当たる化」と評しました。現在では、この「数撃ちゃ当たる」という部分をウェブプラットフォームが代替しています。また、従来本を出す時には出版社の「偉い人」が編集会議で選ぶという「評価」の方法をとっていました。これについて、飯田氏は「売れるかどうかと、評価は違う」と語ります。ここで、シェイクスピアと人気のアニメやTV番組を比較させた例を挙げました。NHKのテレビ番組「ハーバード白熱教室」で知られるマイケル・サンデル教授が行った授業の中で、「望ましいかと、実際に人が望むものは異なる」という実証実験の例です。ウェブではマスの判断で分かる上、自分の書いているものがどんな人に当たっているのか分かります。読者が「評価」するのではなく、「売れる物」を判断しているという点でリスクが少ないという強みがあります。
クリエイター志望のみなさんへ
現在、新聞などのメディアでは「文学」として取り扱われていないウェブ小説。「漫画は最初、読んだら馬鹿になると言われていました。しかし、現在では、漫画を学問として扱っている大学もあります。一世代から二世代過ぎると、慣れている人が経済の中枢を担うようになるので、ウェブ小説が認められるのも時間の問題ではないでしょうか」と飯田氏は言います。作品に力があれば、映画やアニメ、漫画等の様々なメディアで通用するものに成り得るウェブ小説。講演の最後に飯田氏は「クリエイター志望のみなさんへ」と題して「何もしない人は価値をつくれない。とにかく、書いてみて人目にさらしてみては如何でしょうか?」と、聴衆を鼓舞しました。
原稿:デジタルハリウッド大学 2年 大舘 拓実