未来はいつだって興味深い。フューチャリスト・星野裕之教授に聞く100年先の歩き方

デジタルハリウッド大学教授であり、otuA株式会社代表であり、フューチャリスト、ロボットデザイナー、フィクショナルデザイナーなど多彩な肩書を持つ星野裕之教授。その多様な活動は、「未来」というキーワードに収束されています。
星野教授には100年先の未来がどう見えているのか、そして、学生たちに感じる「未来」とは。お話を伺おうとする取材班の前で、星野教授はリュックから茶色い何かが入ったジップロックを取り出すのでした。
「こうなったら面白そう」という未来を自分に見せたいだけ
星野裕之教授(以下星野):メレンゲクッキー作ってきたんですけど食べます?
――メレンゲクッキー、ですか?
星野:卵白だけ余っちゃったんで作ったんですよ。卵白に砂糖を入れて、かき混ぜ機で20分ぐらい混ぜて、できたメレンゲをクッキングペーパーにエイッとやって、オーブンで焼いたら終わりです。超楽。
――で、ではいただきます……。あっ、おいしいです。
星野:塩をちょっと入れるのがポイントです。面白いでしょ? ……というわけで、こういうインタビューになると、いつもしっちゃかめっちゃかな流れになるんで、どんどん聞いてください(笑)。
――ありがとうございます(笑)。まずは改めて、星野先生がどんな人なのか聞かせてください。ロボットデザイナーやプランナーなど多彩な肩書をお持ちですよね。
星野:最近では「フューチャリスト」という肩書を前に出してますね。僕の基本姿勢として、未来に興味があるんですよ。むしろ、未来にしか興味がない。
フューチャリストには、研究系とシンクタンク系の2つがあります。研究系のフューチャリストはアナリストに近く、研究動向やサイエンスを経て未来を予測する人たち。シンクタンク系のフューチャリストは社会実装に向けて、クライアントに対して未来提示ができる人たちです。
僕は後者、つまりシンクタンク系なんですね。「未来こうなったほうが面白くない? いいからやらない?」というのを、いろんな業界に片っ端から言っているだけ。「こうなったら面白そう」という未来を自分に見せたいだけなんです。
立ち位置としては、プロトタイピングと社会実装の「間」にいて、ジャンルを問わずプロダクトやブランディングなどに関わっています。だから自分が何屋なのかわからない(笑)。

――すべては「未来」という軸から派生していているわけですね。
星野:この前なんて、図書館が建ちましたからね。
――図書館?
星野:12年くらい前ですかね、ある大学から「うちの大学に図書館を建てるから何かアイデア出してよ」と言われたんですよ。それでヨーロッパの図書館を調べたら、蔵書数を減らしてコミュニティースペースを増やしたり、3Dプリンタを入れたファブスペースを入れたり、新しい動向がいろいろある。その流れから「図書館=人が集まる口実」というプランを作って渡したんです。
しばらくして「星野さん、図書館できたから遊びに来なよ」ってお誘いされたんですけど、どんなプランを渡したかすっかり忘れちゃって。行ってみたらめちゃくちゃいい感じなんですよ。「すごい!」と驚いてたら「星野さんが言ってたやつですよ」って言われました。そんなんばっかりですね(笑)。
想像のまま終わらせない。現実とイコールで結ぶ
――未来を想像するのは、簡単なようでとても難しいと思うのですが、星野先生はどのようなアプローチで未来を捉えているのでしょうか。

星野:時間軸をどう捉えるかが非常に重要ですね。大学の授業では毎回学生たちに「未来年表」を埋めてもらうんです。
「自給自足の火星の都市が建設可能になる」「オーストラリアから喫煙者がいなくなる」といった予測をいくつか用意して、それを学生たちにタイムライン上に並べてもらう。すると、人によって見事にバラバラなんですよ。

星野:それぞれの予測には、実現可能になると思われる年代と、そのエビデンスが付いています。つまり、ある程度リサーチをしている人なら、あと数年で実現しそうなのか、100年以上かかりそうなのかは分かるはずなんですね。
それともうひとつ、この「未来年表」からは、それぞれが自分の中で持っている時間軸が分かります。「今のテクノロジーから発展して、この先100年くらいで何ができるのか」といった感覚が掴めているかどうかが分かる。ただ残念ながら、この感覚をきちんと掴めている人には会ったことがありません。
――今から100年後ということは、2126年……。どうなっているか見当もつかないです。
星野:では、100年前を考えてみましょうか。1920年代はまだ馬車が走っていました。主要都市でようやく自動車に置き換わったくらいですね。電球も無かった。人類は自分の知識を蓄える時間が、現在の3分の2以下だったわけです。
テレビや冷蔵庫などの家電ができたのも、人類が宇宙に行ったのも、インターネットが通じたのも、すべてここ100年以内の出来事。ということは、100年後はどこまで変わっているのか。
――そう考えると、急激に変化しているんでしょうね。
星野:この辺は生成AIと対話してみるのも面白いですよ。「2100年代:人は働くために生きる存在ではなくなり、生き方そのものを設計する時代に入る」とか言いますから。「働く」という行為が消失するんでしょう。
こんな感じで、時間軸は前後を考えると掴みやすくなります。僕はおそらく2050年前後に寿命を迎えますが、今の高校生は2100年くらいまで生きるんですよね。医療が発達すれば2150年も夢じゃない。すごくないですか?そのころには働かなくていいみたいだから、日中は古代ギリシャ人のように音楽をたしなんでいるかもしれない。
――そうした予測は、どれくらい実現できるものなのでしょうか。
星野:人は見たものに寄っていきます。自転車やスノーボードが視線の方向に曲がっていくように、現実もSFで見た世界にも寄っていく。これを地で行くのがイーロン・マスクです。
彼はスタートレックの大ファンで、スタートレックの中で起きたことを愚直にやっているんですね。ロケット飛ばしたらそのまま戻ってくればいいじゃん、だってスタートレックで見たからと。スタートレックを作った人たちは、ある意味「未来啓発者」ですよ。
想像を想像で終わらせるのではなく、想像と現実をイコールで結ぶ。日本でこの最先端を突っ走っているのが、ここDHUだと僕は思っています。
学部のゼミでは毎年20名くらいの学生を見ているんですが、みんな面白いんですよ。全員やりたいことが違うし、「ゲームで見たんでできると思うんですけど」とか普通に言ってくる(笑)。途中のプロセスをすっ飛ばして、未来に置いたゴールから考えられる人がわんさかいる。結構本気で、これからの未来を担う大学だと思っています。
プロセスをすっ飛ばせる人が「最強」になる理由
――「途中のプロセスを飛ばしてゴールから考える」のは、星野先生が専門とされるSFプロトタイピングにも通じます。こうした考え方がなぜ大切なのでしょうか。
星野:まず世の中の大きな流れとして、肉体重労働は産業革命以降から徐々に軽減されており、現代はその末期にあたります。この辺は実感がありますよね。建設現場などでも機械化や自動化が進んでいますし。
そしてこれからの話ですが、既に僕たちは「知的重労働」の軽減期に入ってきているんです。
――知的重労働?
星野:嫌なメールに返事をしなきゃいけないとか、終わるのに3日かかるExcelの作業とか。こういう作業は誰かに任せたいですよね。建設現場にクレーンが登場したみたいに、まさに生成AIという「クレーン」が登場したのが今の時代です。知的重労働を任せられる環境が整い始めている。肉体重労働が軽減されて事故が減ったように、知的重労働が軽減されることで、メンタル不調なども減少していくでしょう。
そしてもうひとつ、知的重労働が消失すれば、これまで数多くあったプロセスもなくなっていきます。掛け算を覚えるとか、CGツールを使えるようになるとか。僕らは「プロセスを頑張ること=努力」という世界に生きてきたわけですが、これがなくなろうとしているんです。
――確かに、AIに頼んだら全部やってくれる時代になるわけですからね。
星野:「学習」もひとつのプロセスです。これまでの教育は「プロセスを頑張れる人」を作ってきました。プロセスがなくなれば、プロセスに最適化してきたエリートたちは評価されなくなります。代わりに評価されるのは「自分で未来のゴールを決められる人」です。
――ここで「途中のプロセスを飛ばしてゴールから考える」の話につながるんですね。
星野:そうなんです。「プロセスはよく分からないけど、このベネフィットがあったらいいよね」と考えられる人たち。そのベネフィットができるのは数年後か数百年後かわからないけど、「いつかできますよ」とさらっと言えてしまう人たち。そういう人がDHUにはいっぱいいるんですよ。
どうしてそうなっているかというと……(ホワイトボードに図を描く)。

星野:左下が現在で、右上に向かって未来に進んでいきます。現在の人たちが見える範囲というのは意外と限られていて、「人は前後20秒しか認知できない」という研究もあるくらい、僕らは今を生きているんですね。
なので、先のことはわからない。東大やMIT(マサチューセッツ工科大学)が見ている未来も、視界のもうちょっと先のところまでです。でもDHUは、もっともっと右上の未来にいます。なぜならありがたいことに、ここ(未来)にエンタメ業界があるんですよ。エンタメ業界を追っていたら、学生たちの興味が未来に生きることになっていたんです。
――なるほど。エンタメを追っていたのが先なんですね。
星野:未来を追うあまり、うちのゼミにはVR空間でずっと生活してる学生もいますからね。でも最近はVR空間にいすぎたせいか、ゼミ生たちで四国に旅行してましたよ。逆に手触りがほしくなったみたいで。
手触りといえば、この前「カセットテープにはまっている」という学生が、Bluetoothにつながるウォークマンを持っていました。新しいのか古いのか、音が良いのか悪いのか、もうわからない。フィクションと手触り、未来と現在が入り混じったフィールドで、めちゃくちゃ面白いですよね。
公と私を分けずに心から好きなことをやってほしい
――星野先生は、DHUではどのような方針で学生たちを教えているのでしょうか。
星野:学生たちに対しては「この人はこうなったら面白いんじゃないか」とずっと考えています。そんな未来になったか~! っていうのを見たい。本当にやりたいことで、晴れやかに社会でチャレンジして、うまくいっちゃうのを見たい。なので指導するというより、プロデュースをしているという言ったほうが近いですね。
ゼミで大事にしているポイントは4つあります。「オリジナル性」、人とかぶるのはもったいないですからね。「未来性」、未来の当たり前を作ってほしい。「公私混同性」、公と私を分けずに心から好きなことをやってほしい。「職業創出性」、ない職業を作って社会に認めさせよう。
これを踏まえたうえで、世に出る手法がプロトタイピングです。さっと作って、さっと結果を出して、人に良いか悪いか聞いて、良かったら次に行く。それだけですね。

――「公私混同性」が足りない人は、「本当は好きなものがあるけど表に出していない」という状態なのでしょうか。
星野:それもありますし、「好きすぎて本人もわかっていない」というケースもあります。
たとえば「アニメが好き」と言っているのに全然アニメを作らない人がいて、ずっと「やりなよ」って言ってたんですよ。あるとき最近何やってるの?と聞いたら「VRにハマって1日8時間ヘッドセットかぶってます」って言うんですね。8時間!?って二度見しましたよ(笑)。話してみるとVRコンテンツにめちゃくちゃ詳しいし、もうそれを卒業制作にしようとなりました。
あとは、筋トレで卒業した人もいますし。
――筋トレ!?
星野:筋トレが好きで、時間があるとすぐジムに行っちゃう学生なんです。もう君の仕事は筋トレだ、未来の筋トレ考えようぜって。でもなぜか就職先にIT系のSIerを選んでて。「え~」と思ってたら3か月で辞めてました。今は海外のトレーナー資格の勉強をしながら、スタートアップで筋トレのビジネスを始めようとしているみたいです。
――本当にさまざまな学生さんがいるんですね。一緒にいると刺激を受けることも多そうです。
星野:最高ですね。20通りの事例を毎週インストールしてくれていると思うと、こっちからお金を払わないといけない気持ちになります(笑)。みんながどういうテクノロジーに興味を持って、どんな文化感で生きてるか、直に聞けるわけじゃないですか。本当にありがたくて。
ゼミに集まってくれる学生に「なんでDHUに来たの」と聞くと、「この学校、縦も横もないんで」って言うんです。他の誰かが何に興味があるのか見える場所って他にないから、と。本当に興味深いですよね。
未来について想像して期待できる
――フューチャリスト・星野先生のこれからの展望について聞かせてください。について聞かせてください。
星野:ヒューマノイドロボットについては、おそらく人生をかけてやっていくことになると思います。前世紀に馬車から自動車への転換が起きたように、今世紀は肉体労働者からヒューマノイドロボットへの転換が起きるはずです。2070年ぐらいには、自動車産業を超える産業となるでしょう。
昨年(2025年)には、「HuRoC (Human-Robot Commons)」という団体を立ち上げまして、現在は大田区と一緒に、人とロボットが共存する未来に向けて取り組もうとしているところです。フィクショナルデザインの文脈を使いながら、より良い未来について啓発していこうと。おばあちゃんとヒューマノイドロボットが、大田区の商店街で買い物する未来も近いですよ。
――今日のお話を聞いて、未来が少し明るく感じられるようになりました。
星野:そうそう、去年卒業したゼミ生が残してくれた言葉があるんですよ。ちょっと見てもらっていいですか。

わたしの大学生活のなかで産まれた/産みだしたもの
「未来について想像して期待できる」
星野:これを見たとき、「わかってくれてる!ありがとう!」って僕は本当に感動したんです。大学を卒業するときにこれが言えるって、すごくないですか。これこそうちのゼミのマインドですし、こういう人が増えるといいなって。
社会に出れば、いろんな人が「いやこうだから」と上から横から言ってきます。でも他の誰かが言ったことは鵜呑みにしなくていい。1回自分の脳髄を通して、咀嚼する。そうして出てきた意見は、正しいかどうかはまったく関係なく、自分だけのものです。それを武器に、自ら社会に提案していく姿勢さえできれば、何をやっても食えていけると思いますね。



