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【在学生×卒業生】先輩の背中を追いかけて。最優秀賞受賞者たちが語る、プロジェクションマッピングの現在地とこれから。

羽生 優さん(2023年度入学)、松本 豊さん(2016年度入学)

満場一致の最優秀賞でした。「人工知能」というタイムリーなトピックであり、将来的に起こるであろう「シンギュラリティ」(技術的特異点)をも想起させます。また映像全体が高い技術力でまとめており、鑑賞後の満足感も高かったです。

審査員・橋爪 勇介氏(Web版『美術手帖』編集長)よりコメント

東京国際プロジェクションマッピングアワード(PMA)(*1)Vol.8の最優秀賞に、デジタルハリウッド大学(DHU)1年(当時)、羽生優さんの『NEXUS』が選ばれました。

羽生さんは、2022年(高校3年次)のPMA Vol.7にエントリーし、惜しくも受賞を逃していました。「伸びしろはある」と審査員から評価を受け、悔しさをバネに制作したのが最優秀賞を獲得した『NEXUS』(*2)でした。

その羽生さんがPMAに挑戦するにあたって目標としていたのが、過去に同大会で最優秀賞を2度受賞し、現在はフリーランスの映像クリエイターとして活躍する松本 豊さん(2018年度卒業)でした。

本記事では新旧グランプリ受賞者の2名によるクロストークをお送りいたします。前半ではPMA受賞の裏側を、後半では「今後のプロジェクションマッピングの可能性」をテーマに話してもらいました。

(*1)毎年11月に東京ビッグサイトで開催されている、日本最大級のプロジェクションマッピングのコンテスト。
(*2)「人工知能」をテーマに、過去の叡智と未来への想像力が融合する瞬間を描いた映像作品で、羽生さんが単身で4ヶ月かけて制作。上記動画2:22より作品パート。

結果を残せず、悔しい気持ちだけが残った初挑戦

(左)羽生優さん、(右)松本豊さん

——PMAに出場しようと思ったきっかけを教えてください。

羽生:もともとCGと実写映像を組み合わせるVFX作品を作っていて、2022年にもこのアワードに参加していました。今回が2回目の参加です。

1回目は、プロジェクションマッピングの制作方法に興味があって、自分を試すという意味で1人で挑戦していました。

結果を残すことはできませんでしたが、アワードに参加した目的が、プロジェクションマッピングがどういうものか制作を通じて学ぶためだったので、当初の目的はクリアしました。ですが、時間が経つにつれてやっぱり「何も賞を取れなかったな」という気持ちが強くなり、この悔しい気持ちは同じアワードじゃなければ消化されないと思って、再チャレンジしたんです。

——1年越しのリベンジということで、大学で仲間ができてチームで出場しようとは考えなかったのですか?

羽生:そうですね。前回のPMAにはひとりでチャレンジしたので、今回もリベンジとして帰ってきたら面白いかなと思い、またひとりで挑戦しました。

初めてPMAに挑戦したときに僕が勝てなかったのが複数人のチームで、審査員の方が「大人数だからこそできる作品だね」と評価していた記憶があって。一方、ひとりでチャレンジした僕には「伸びしろはある」と評価をもらいました。それが悔しくて、今回も単身で頑張ろうと思ったんです。

なぜ自分は受賞できなかったのか

——PMA Vol.8のために、どんなことから始めましたか。

羽生:まずは、なぜ自分は受賞できなかったのかを研究しました。YouTubeにアップされている、ありとあらゆるプロジェクションマッピング作品を見ていると、自分に何が足りなかったのかが少しずつ分かってきて。前回の作品にはプロジェクションマッピング的効果が足りなかったんだって、僕の中で腑に落ちたんです。

――プロジェクションマッピング的効果?

羽生:「プロジェクションマッピング的効果」というのは僕の造語なのですが、つまりは建物が別の何かに化けているとお客さんを錯覚させることができなかったんです。というのも、前回出品した落語を題材にした『楽語噺』という作品は、ストーリーを先に考えて、それからプロジェクションマッピング作品としてどう表現するかを考えました。僕自身が落語好きというのもあって落語を題材にしたのですが、大好きだからこそ、落語を好きな人が見たときにどうか、を考えてしまったんです。

2022年作品『楽語噺』

松本:お客さんに理解してもらえるように表現に気を付けつつ、どれだけ自分のこだわりをねじこむか、塩梅を探りながらの制作になりますよね。羽生さんの『楽語噺』は、『寿限無』や『時そば』など誰もが知っている噺がたくさん盛り込まれている作品で、噺ごとの入りと終わりがしっかりしており、物語としてまとまっていました。

羽生:始まりは始まり、終わりは終わりと、噺ごとの節目をきっちりするようにしました。中途半端に終わると、「なんであの終わり方なんだろう?」と悪い後味を残してしまいますよね。次の作品にも悪い影響を与えたくなかったので、節目が分かりやすいようにしました。

松本:アワード全体のことを考えた、優しさですね。

自分のワールドを大爆発させる

——松本さんは、羽生さんがPMA Vol.8で最優秀賞を受賞した『NEXUS』をご覧になっていかがでしたか?

松本:すごかったです!羽生くん、今回は『NEXUS』で観客を感動させて、次の発表者に絶望を与えようとしていた?(笑)

羽生:「このクオリティは超えられないだろう、どや!」って考えていました(笑)。本音を言うと、松本さんを超えられるかなってすごく心配だったんですよね。でも、『NEXUS』を作ってまだまだ松本さんには達していないなって改めて実感しました。

松本:どうなんでしょう。『NEXUS』はパッと見てどこを切り取ってもサムネイルにできる映像が流れてきて、すごい印象に残る。素晴らしい作品です。

羽生:ありがとうございます!

©東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会

——『NEXUS』は、どんなことを考えて作られましたか?

羽生:今年は羽生優という人間の思考、自分のワールドをとことん爆発させようって考えました。審査員が何を言おうが、観客が何を言おうが「俺が作りたいのはこういうのだ!」っていう気持ちをとことん作品に入れ込みたかったんです。

たとえばCASAシステムという、ビッグサイトに埋め込まれているAIのロゴを最初に表示させたり、そのシステムの思考を建物全体を使って表現したりしました。自分の世界をあの場に作り出そうと意識したからこそ、賞を獲れたのではないかと思います。

受賞時の賞状と絵コンテ

松本:僕もひとりでプロジェクションマッピングを作った経験があるので分かりますが、大人数で制作すると、全員が納得するために意見が平均化して、メリハリのない作品になりやすい。一方で、ひとりだと自分が考えていることを爆発させられるんですよね。

コンテストで勝った者だけが味わえる喜び

——おふたりにとってコンテストに出ることの面白さとは?

松本:選ばれたとき、嬉しいという感情よりも、ドーパミンがドバーって出る気持ち良さの方が勝つんです!テンションが上がっちゃって、それにハマっちゃうと、またコンテストに向けて頑張ろうってやる気が湧いてきます。

羽生:分かります!

松本:またあの高揚を感じたくて映像を作っていろんな大会に出たくなるから、かなりジャンキーな思考になっているかも(笑)。

羽生:本当にそうなんですよね。わたしの初映像作品が『東亰秘密防衛局 File:0.5「すべての始まり」』(*3)で、初めて賞をいただいたのもその作品だったんです。

『東亰秘密防衛局 File:0.5「すべての始まり」』

羽生:審査員のひとりに『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』の樋口 真嗣監督がいて、「作品面白かったよ」って言ってもらえました。銀賞ではありましたが、樋口監督に言ってもらえるとは…..!と嬉しすぎて、自分が賞を獲ったんだぞってドーパミンが出て……。あの喜びを知ってしまうと、コンテストでまた賞を獲りたいなって思うようになるんですよね。 本当は、自分が作りたい作品を作ることに徹したくて、受賞を目指さないよう意識しているつもりです。僕はまだ会社に所属していないし、お客さんの依頼に応える立場ではないので、学生であるうちに好きなものをとことん作りたい。だから、コンテストで自分を縛るのは良くないだろうとは思っているのですが、それでもあの喜びを知ってしまうと、やっぱりコンテストで勝ちたいという気持ちが湧いてきてしまうんですよね。

(*3)TBSテレビが主催する映像フェスティバル「DigiCon6 JAPAN 2022」のJAPAN Youth Silver賞受賞作。怪物体がCGで描かれ、それに立ち向かう人々は実写で撮影されたVFX作品。脚本、監督、撮影、出演、編集などほとんどのフローを羽生さんが担当した。

見るだけでなく、プロジェクションマッピングが使われるようになる?

——ここからは、おふたりが考えるプロジェクションマッピングの可能性についてお聞きします。

羽生:最近僕が驚いたのは、人工的にミストを作り出して、そこに映像を投影するという技術ですね。映し出すオブジェクトが壁とか建物とか、そういう次元の話ではなくなってきている。

何もない空間でも作品を体験できるようになったということは、映像作品の撮影方法も変わるかもしれません。VFX作品の場合、一般的にポストプロダクション(*4)がCG合成を行っており、撮影時には俳優がその場に何かがいるかのように演じなければならなかった。

でもプロジェクションマッピングを撮影現場で活用したら、俳優は演じやすいし、ポストプロダクションの負担が格段に減ります。昨今注目されているバーチャルプロダクション(*5)が可能な巨大なLEDスタジオは、日本ではまだ数が限られている状況です。その代用としてプロジェクションマッピングを活用すれば、既存の撮影スタジオを使用でき、制作コストを抑えつつさらなるクオリティアップが実現できると考えています。これまでは、プロジェクションマッピングは観客に“見られる”ものでしたが、技術の発展に伴い作品の一部として“使われる”ものになるんじゃないかと思いますね。

松本:僕は、プロジェクションマッピングが人の流れを作ると思っています。

たとえば神奈川県厚木市(*6)では、街づくりの一環としてプロジェクションマッピングが活用されているんです。それも中心部だけでなく、地下の遊歩道のような人気がないエリアでもプロジェクションマッピングが使われている。「暗い」「さみしい」と言われていた地下道に人の流れを生み出すことで、恐怖感をなくそうとしているそうです。それで治安が良くなるなら、プロジェクションマッピングの有効な使い方として広く浸透しそうですよね。

また、羽生さんが言っていたプロジェクションマッピングが使われる事例で言うと、車のヘッドライトがプロジェクターになることもあるんです。この前あるモーターショーに行った際、ヘッドライトがプロジェクターとして機能し、道路をスクリーンとして横断歩道を投影する車を見ました。これなら歩行者に対して「どうぞ、渡ってください」という意思表示になるので、プロジェクションマッピングがコミュニケーションツールとして役立つ未来が来るかもしれません。

羽生:コミュニケーションツールとしてプロジェクションマッピングを使うなら、たとえば看板の代わりにしても良さそう!

松本:確かに、街によってはディスプレイを設置すると景観を損なうことがありますよね。京都市内がディスプレイまみれになったら嫌だし、景観保全目的で使われそう。その場にある障子や提灯に投影して案内したら、街に馴染むんじゃないでしょうか。

羽生:良いですね。その場にあるものが、情報を表示できる媒体になるのは面白そうです。

(*4)映像作品の製作工程における撮影後の編集作業、あるいはその役割のこと。VFXの追加合成や、音声の編集などがこの段階で行われ作品が仕上がる。
(*5)高精細なLEDディスプレイを背景にリアリティのある仮想空間を映し、実物の被写体と同時に撮影する映像制作技法。
(*6)参考:タウンニュース「本厚木駅東口地下道イメージアップへ実証実験 ソニー(株)、(株)リコーも協力

DHUは、超えたいと思う存在が見つかる環境

——先輩である松本さんから、1年生の羽生さんへ伝えておきたいことはありますか。

松本:ちょっとだけ偉そうなことを言ってしまうかもしれませんが、学生のうちに映像作家としての表現方法を増やしていってほしいです。すでに、VFX作品を作りつつプロジェクションマッピングの制作にも取り組んでいると思いますが、それらの技術を扱える羽生さんが作る映像作品がどうなるのか楽しみ。どんどんいろんなジャンルにチャレンジして、今の技術を転用していってほしいです。

羽生:頑張ります!

——最後に、DHUの在学生や受験生へメッセージをお願いします。

羽生:常に挑戦し続けてほしい、DHUはそれができる環境だと思っています。昔から僕は、DHUの入学を目指したり、PMA最優秀賞を初めてひとりで受賞した松本さんを追いかけたり、常に目標を見つけていました。だからこそ僕は作品制作を続けてこられたと思うんです。超えたいと思える人たちがたくさんいるのが、DHUの良さだと思っているので、DHUで目標を見つけに来てほしいです。

松本:楽しんで作品を作ってもらいたいですね。SNS上やコンテストに作品を出そうとすると、「公開するほどではないかも」とプレッシャーになってアウトプットの機会が少なくなるので、まずはなにより楽しんでほしい。DHUで作品を作るなら、いろんな人の技術や、趣味、こだわりと結びついて、楽しくコラボレーションできると思います。作品づくりの楽しさを知ることができたら、よりよい未来が待っているはずです。

(2023年12月22日、駿河台キャンパスにて)

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