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【開催レポート】菱田 正和特任教授就任記念公開講座「アニメ監督ができなければならないこと」

【開催レポート】菱田 正和特任教授就任記念公開講座「アニメ監督ができなければならないこと」

2024年8月8日、デジタルハリウッド大学は、菱田 正和氏が本学の特任教授に就任したことを記念し、公開講座「アニメ監督ができなければならないこと」を実施しました。

菱田先生は、アニメ制作未経験で株式会社サンライズ(現・株式会社バンダイナムコフィルムワークス)へ入社し、制作進行や演出助手を担当。TVアニメ『∀ガンダム』や『犬夜叉』などに携わった後独立し、『ヤッターマン』や『プリティーリズム』シリーズの監督をしています。

今回の公開講座では、菱田先生がアニメ監督になるまでの歩みから、監督になるために必要な経験は何かを伝授。また公開講座終了後には、菱田先生が担当する授業「アニメ演出」「アニメ制作ゼミ」に興味がある在学生向けに、交流の場が設けられました。

新卒でアニメ制作会社へ。しかしこの選択は失敗だった?

2024年に菱田先生が監督を務めた、TVアニメ『即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。』『喧嘩独学』、映画『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』などが放映され、今も新たな作品の公開に向けて忙しい日々を送る菱田先生。

今でこそアニメ業界で活躍するプロフェッショナルですが、就職するまでは「見る専門」、どこにでもいるアニメ好きの学生でした。

特に好きだったのが『機動戦士ガンダム』シリーズ。「ガンダムといえばサンライズ」「ガンダムのようなアニメを作りたい」という理由で、アニメ制作会社であるサンライズへ入社したと言います。

「就職活動中、僕は全然アニメ業界を志望していなくて、メーカーを中心に就職活動をしていました。ただ、小学生ぐらいのときに作っていたプラモデルに“サンライズ”と書いてあったのが記憶に残っていて、四季報でサンライズを調べて電話をかけたんです」

好きな作品を生み出している会社へ入社した菱田先生でしたが、すぐに「人生の選択を失敗した」と思ってしまったそうです。

「入社して3日目に、サンライズに入っても演出や監督にはなれない、監督をやるならサンライズを辞めてからと言われました。最初に任されたのは制作進行です。その仕事に取り組みつつ、周りの監督さんや演出さんに、どうすればあなたたちのような仕事ができるようになるか、を聞いて回りました。“監督になりたいなら絵コンテを書いた方が良い”、“監督をやるならシナリオを書けるようにならないと”。そんなアドバイスを信じ入社3ヵ月目から絵コンテを描き始め、努力を続ける道しか残されていませんでした。」

制作進行とは、作画を担当するアニメーターのスケジュールや進捗管理、作画チームや美術チームなどの橋渡しをする重要な役割です。仕事を通じて、演出家や脚本家、監督などのプロフェッショナルと出会い、彼らからヒントをもらっていたと言います。

演出助手→演出→監督、が王道のキャリアステップ

菱田先生が言うには、当時のほとんどのアニメ制作会社は制作進行の募集しか行っておらず、演出家志望の学生を採用する企業は皆無でした。演出家や監督になるためには、会社で振り分けられた制作進行の仕事に取り組むだけでは及ばない。菱田先生は先人たちのアドバイスを実践に移して、自分の時間を創作活動に割くようになりました。

「サンライズに入社して1年目で制作進行をしながら絵コンテを6本作りました。そうすると面白いことをやっているなと興味を持ってくれて、何人か手を差し伸べてくれます。その中に『機動戦士ガンダム』シリーズの生みの親である富野 由悠季監督がいて、仕事を振ってくれるようになりました」

入社1年目で制作進行を担当した菱田先生は、入社2年目には演出助手へ昇格しました。

アニメ制作では一般的に、監督や演出家が作成した絵コンテをもとに、作画チームが原画を作成します。それに対して演出助手は、演出家の意図通りのカットになっているか、抜け落ちているカットがないか不備を事前に確認し、リテイクの依頼などを代わりに行います。

原画の枚数確認やデータチェックなど、演出家の仕事の一部が演出助手の仕事。徐々に上流の仕事を巻き取っていくと、いずれは演出家や監督に選出されると菱田先生は話します。

「アニメの場合、基本的には演出を経験していないと監督になれません。ただし『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の脚本家である岡田 麿里さんのように脚本担当から監督になる人や、キャラクターデザイン担当から監督になる人、作画監督から監督になる人など、例外的なケースもあります」

絵が描けない監督でもOK

演出助手を経て、菱田先生は演出家や監督として活躍するようになります。

「演出家や監督になるには絵コンテが描けるかどうかが重要な要素です。キャラクターや背景、ライティング、セリフ、BGM、効果音などを盛り込み、1カットずつ絵コンテを作っていきます。演出家であればほかにも、作画の打ち合わせや動画の編集などをして、監督に最終的な判断を仰ぐ。これらができるようになって初めて、監督をしませんかとオファーがやってきます」

菱田先生は2024年4月に放映された『喧嘩独学』の絵コンテを見せつつ、監督の役割を紹介しました。

「マンガ原作を忠実にアニメ化する場合、僕は原作の1コマを活用し、言葉を足して絵コンテとすることがあります。実は絵が描けなくても絵コンテを作れますし、監督にもなれるんです」

原画を経験していない人でも、工夫次第で絵コンテを完成させられると話す菱田先生。ただし絵や編集のことを理解できなければ監督にはなれないと言います。

「一つひとつのコマをアニメーション化する上で、制作陣はコマ同士の間も描き切らなければなりません。それぞれの絵がどのようにつながっていくのか、演出家や監督が絵コンテ上で分かりやすく補足して、作画チームへ渡すことが大切です」

アニメは大きく分けて、企画・脚本・絵コンテ・原画・合成(編集)という工程を経て完成します。その中で監督や演出家は編集段階を見据え、絵コンテを仕上げなければならないと強調しました。

質疑応答

アニメ監督ができなければならないことのほかにも、完全オリジナルの脚本が少ないアニメ業界の今後や、AIの台頭によるアニメーターやデザイナーの仕事の変化など、未来の話に触れて公開講座の講義パートが終了。

公開講座の終盤には、菱田先生へ質問が寄せられました。

Q. 菱田先生が直近で面白いと感じた作品は?

A. 『ぼっち・ざ・ろっく!』と『ガールズバンドクライ』です。前者はすべて2Dで作画されていて、後者は背景が2D、キャラクターが3Dで作られています。両作品ともガールズバンドがテーマなのに対照的な作画であるため、今年度の前期に実施した授業「アニメ演出」でも参考事例として取り上げました。

Q. 監督をしていて一番嬉しい瞬間は?

A. 『プリティーリズム』シリーズの応援上映に僕も参加する機会があったのですが、観客を見ていると静かに観覧されている方がいて。物語の最後の最後になるとポロポロと涙を流している様子が今でも忘れられません。

また、今回はデジタルハリウッド大学3期生であり、アニメプロデューサーとして菱田先生とタッグを組んでいる清水氏 も会場に駆けつけました。

「弊社(タツノコプロ)では制作進行を担当したい学生さんをお待ちしております。ぜひタツノコプロにご応募いただければ嬉しいです」と最後にメッセージがあり、公開講座は終了しました。

オープンキャンパス

初夏のオープンキャンパス2025

2025年5月18日(日)、6月8日(日) 13:00~15:30

初夏のオープンキャンパスのテーマは「体験授業」。
高校生の皆さんにDHUの授業の楽しさや魅力を体験いただけるよう、
現役プロの教員陣による多彩なプログラムをご用意いたします。
デジタルハリウッド大学の学びに触れる2日間。
みなさんのご予約、ご視聴をお待ちしております。

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