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【開催レポート】ゲームプロデューサー・岡田 茂氏による特別講義「君の『好き』が世界を面白くする:ゲームクリエイターという生き方」

【開催レポート】ゲームプロデューサー・岡田 茂氏による特別講義「君の『好き』が世界を面白くする:ゲームクリエイターという生き方」

2025年5月22日、デジタルハリウッド大学(DHU)では、特別講義「君の『好き』が世界を面白くする:ゲームクリエイターという生き方」を開講しました。

登壇したのは、メガドライブやセガサターン、Xboxなどの家庭用ゲーム機の企画・プロデュースなどを手掛けてきた、株式会社オカキチ代表の岡田 茂氏。本学准教授であり、映像プロデューサーの髙野 良和先生です。

本講義では、ゲーム業界に限らずクリエイティブな世界で将来活躍したいと考える在学生が、いま抱いている悩みや疑問を2名の登壇者にリアルタイムでぶつける形で行われました。

会場の様子をレポートします。

「面白くならないかも」と制作途中に思ってしまったら

——さっそく在学生からの質問にお答えいただきましょう。まず一つ目です。「ゲーム制作過程において、企画を考えるために何が重要ですか?」

岡田:一番大事なのは、自分が楽しませる側になるんだ、という覚悟だと思います。「これをプレイしたユーザーは驚くだろうな」「ここでドーパミンが出るだろうな」とユーザーを思い浮かべられる自分になる必要があります。

また企画を考える側になってからは、自分の引き出しが枯渇しないよういろいろなゲームをプレイし続ける必要があります。もちろん好きだから、という理由でゲームをプレイすることもありますが、僕の場合は仕事としてゲームに触れる時間が多くなりました。プレイヤーとしてゲームを楽しみつつ、なんで自分は楽しいと思えているんだ?と自己分析ができるようになると良いですね。

——続いて。「ゲームを作っている途中に、“この案は面白くならないかも”と思ったことはありますか?その場合どのように軌道修正しますか?」

岡田:思ったことはあります。予算が潤沢にあるなら、スクラップアンドビルドを続けたい。ですが商業クリエイターである以上、それは当然許されません。

結局は「このゲームはどこが面白いのか」を最初に固めておかねばらないんです。最初に決めた軸が少しぶれると、ずっとぶれ続ける。ゲームディレクターとして途中でぶれてはいけません。

髙野:どの業界でも、ディレクターは「間違えた」「今回はイマイチだった」と絶対に言えませんよね。岡田:思っても良いけど言っちゃだめ。そういう人とは「また仕事がしたい」と思ってもらえないから。

そもそもゲームってなんで面白いんですか?

——ゲーム制作に関する根本的な質問も多く寄せられています。「そもそもゲームの面白さって何ですか?」「何がゲームを面白くさせているんですか?」「わたしもゲームが好きですが、なぜ面白いかと言われるとうまく答えられません。面白さが分からなければ何を作るべきかもわからないと思うので、岡田さんのお考えをお聞きしたいです」。岡田さん、いかがでしょうか?

岡田:みなさん、言語化することに慣れていないんだと思います。もしくはゲームをきちんと味わえていない。残酷なことを言うなら、面白いと思っていてもそれを語れないなら、ゲームディレクターやデザイナーにはなれません。

全部ひとりで作るから考えていることを言語化する必要がない、という一部のインディゲームのような特殊な現場もありますが、通常、ゲームを作ってお金にしようと思ったら、ひとりでできることの限界が必ず来ます。だから数名から数百名規模でチームを組んで、ディレクターがチームの行き先をディレクションする。たとえば、主人公に性別はあるのか、なぜ男と女を選べるように設計するのか。その要素は作中でどう面白さに寄与するのか。設計上の決定事項すべてを言語化できなければなりません。
髙野:映像制作の現場も同じで、基本的にはチームで制作をします。このカットはなぜこうでなくてはならないのか。自分はこのプロジェクトでどんな役割を発揮できるのか。自分で言語化し、メンバーとうまくコミュニケーションを取る必要があります。

岡田:「ゲームはなぜ面白いのか?」という疑問に回答すると、リスクとリターンのバランスが絶妙だから。褒めてほしいときに褒めてくれるからだと思います。

ゲームの中であれば頑張った分だけ経験値になって返ってくるし、難しい問題をクリアすれば魅力的な報酬が手に入ります。ゲームはほかのエンターテインメントとは違って、これからが「褒める装置」として機能しています。これに関しては、弊社(オカキチ)のオーナーである岡本 吉起から聞いた話が忘れられないんですよね。

岡本は昔、任天堂の宮本茂さん(同社代表取締役フェロー/ゲームプロデューサー)さんと一緒に『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実』の開発に携わったことがあるんです。『ゼルダ』シリーズをプレイしたことがある人なら分かると思いますが、フィールドにヒビが入っている壁を見かけることがありますよね。

爆弾があれば壁を壊して向こう側へ行けそうなのに、序盤では爆弾を持っていない。その壁を目にするたびに「爆弾を手に入れたら必ずここを開けてやる」という気持ちになる。物語を進める中でやっと爆弾を手にして、その壁を壊すと、あのSE(効果音)が聞こえてくる。プレイヤーとして爽快な瞬間のひとつです。

岡本はこの爆発の演出で、宮本さんに怒られたそうなんです。「爆発した瞬間にSEを流すんじゃない。岡本くんはプレイヤーを褒めるのが下手だね」と。正解は「爆弾を置く。チカチカと光り始める。爆発する。煙が出る。煙が晴れて、穴が見えはじめる。この瞬間に鳴らせ!」と。

つまり、ユーザーがもっとも褒められたいタイミングを見極めよ、ということなんです。1フレーム(1/60秒)でも音がずれたら面白くない。そうやって丁寧に褒めることを考えられているからこそ、ゲームは面白いんだと思います。

「遊ぶ側」と「作る側」どちらに行くべきか

——続いての質問です。「めちゃめちゃゲームが好きな人に、岡田さんのような仕事はおすすめできますか?それともゲームは遊ぶものとして、プレイヤー側でいた方がいいと思いますか?」

岡田:結局は、ゲームをお金を稼ぐ手段にしたいかどうかでしょうね。

髙野:最初のほうにもあった、「楽しませる側になる覚悟」の話ですね。

岡田:今はゲーム開発者以外にも、ゲームで稼ぐ道がありますよね。ゲーム実況とか配信者とか。結局、覚悟を持っている人が楽しませる側に行くんだと思います。

——「ゲームというコンテンツは、社会にどんな影響を与えているとお考えですか?」。マクロな視点での質問ですが、いかがでしょうか?

岡田:思います。人間は衣食住だけでは暮らせなくて、“遊”が欠かせない。ゲーム開発者に限りませんが、料理人やクラスで面白い話をする人たちは全員エンターテイナー。彼らがいなければ、人間は文化的な生活を送れない。

髙野:あとは、何かのスキルを習得するときにゲーム性があると学びやすいですよね。ゲーム要素が組み込まれるとエンタメ性が増して、勉強にハマる人もいます。

——大学生ならではの質問も来ています。「学生のうちからできること、やっておいた方が良いことは何ですか?」。

髙野:チーム作業ですね。ひとりで作る面白さもあると思いますが、いろんなプロが集まってひとつのモノを作るのも楽しいものです。学生であるうちに、なるべくいろんな人と組んでチーム作業ができるようになると、いずれ大きな山に挑戦できるのではないでしょうか。

岡田:ここ10年くらいでゲーム制作に関する情報がSNSや動画サイトなどで得やすくなったので、「会社に入ってからゲームを作りたいです」とは言えない時代になってきました。そんな人が面接に来たら、「調べれば作る方法あったでしょ」「なんでUnityをダウンロードしていないの?」と思われてしまいます。

髙野:映像もそうですが、今はスマホでも撮れますからね。もし「MVを撮りたい」という人がいたら、まずは自分で作ってみればいい。

岡田:自分で頑張ってみたいけど、今の自分にはこれが足りない。こんなゲームを作りたいから会社の力を借りたい。こう考えられるようになるのが、社会に出るまでにできることです。まずは理想と現実の乖離を知ることから始めた方が良いと思います。

クリエイターを目指す上での心構え

——クリエイターの心理に関する質問です。「自分よりもスキルのある人間を見たときにどんな感情が湧きますか?」。

岡田:嫉妬しますよね。

髙野:わかる。そんなときは「仲間にしよう」と考えるようにするといいんじゃない?

岡田:そうそう。10〜20代のときはまだ若いから「本当は俺の方ができるはず」「絶対負けたくない」と対抗心を燃やすと思います。だけど働いていると、逆立ちしても敵わない人が必ず現れます。そういう人とは早めに仲良くなれたらいいですね。

加えて、驚異的な熱量や狂気を持っている人とも仲良くした方がいいです。世の中には、今からトヨタを追い抜こう、Googleのような規模の会社を作ろうと本気で考えている人がいます。彼らの熱量は異様に感じますが、やがて市場の構造を変える可能性もあります。理解できない考え方の人に出会ったら、排除するのではなく、普通とは違う視点を持っている人として一目置きつつ、一緒に何かできる道を探すのも手ですね。

——ここまでさまざまなお話をいただきました。最後に、クリエイターを目指す大学生に向けてメッセージをいただけますか?

岡田:自分の作品を、XやInstagram、YouTubeに出しましょう。「他人にアイデアを真似されたくない」という理由で公開しない人がいますが、早く世に出した方がいい。すぐに出した方が、たとえ真似されたとしても、自分の方が先に作ったという証明にもなります。

未完成でもいいから早く公開する。運が良ければ、興味を持ってくれた人が自分の仲間になり、完成まで手伝ってくれる可能性も高まります。

髙野:おそらく、みなさん天職を見つけたくてDHUに来たのではないでしょうか。さまざまな学生を見てきて思ったのは、おそらく得意なことを起点にして将来を考えると天職にたどり着きづらい。どちらかというと「これができるようになりたいからこの仕事を選んだ」という人の方が、天職を得られている印象です。自分の天職になりそうな領域を見つけられていない人は、できるようになりたいことから探してみてください。

岡田:その仕事が好きかどうかにかかわらず、難なく取り組める仕事が天職になる場合もあります。自分にとっては普通にやっている仕事が、ほかの人にとってはすごいことだったりします。「お前すごいな」と言われたときに「これの何がすごいの?」と自覚できたなら、それは他人にとって真似しにくいスキルであり、つまりは『才能』ということです。そういうところから天職が見つかるかもしれません。

(2025年5月25日、駿河台ホールにて)

オープンキャンパス

夏のオープンキャンパス2025

2025年7月20日(日)、8月24日(日) 13:00~15:30

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デジタルハリウッド大学の学びに触れる2日間。
みなさんのご予約、ご視聴をお待ちしています。

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