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『ドラゴンボール』『Dr.スランプ』の編集者・鳥嶋 和彦氏による公開講座を開講しました【開催レポート】

『ドラゴンボール』『Dr.スランプ』の編集者・鳥嶋 和彦氏による公開講座を開講しました【開催レポート】

2025年6月6日、デジタルハリウッド大学(DHU)は、週刊少年ジャンプの伝説の編集者と呼ばれる鳥嶋 和彦氏をお招きし、公開講座を開講しました。

鳥嶋氏は、『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ』など鳥山 明氏の作品を立ち上げた編集者であり、『Dr.スランプ』に登場する悪の科学者・Dr.マシリトのモデルとして知られています。

今回は、鳥山 明氏との出会いや、『ドラゴンボール』の誕生秘話、週刊少年ジャンプの強みなど、さまざまな話をしていただきました。

脱サラした鳥山 明氏とタッグを組み、500ページもボツにした理由

講義の冒頭に鳥嶋氏は、集英社に入社した直後の取り組みを紹介しました。

「連載作家になるためにマンガ家は生き残りレースを走りますが、それはジャンプの編集者も同じでした。当時のジャンプ編集部では、5年以内に新人マンガ家を連載作家にしなければ、異動を命じられていました。編集者は基本的に入社2、3年目までに、賞の応募者、持ち込みに来た人、連載作家のアシスタントなど、マンガ家の卵の中からスカウトをします。それから読み切りマンガを描いてもらい、1、2年かけて実力をアップさせていく。二人三脚で連載を目指していきます」

ジャンプ編集部に配属された鳥島氏は、入社2年目の1978年、新人賞に応募してきた鳥山氏と出会います。

「鳥山くんの原稿を見たときに新しさを感じました。彼はマンガを描き始める前、広告代理店でイラストレーター兼デザイナーをしていたからか、彼のマンガの描き文字(手描きのオノマトペ文字)のデザインが洗練されていた。それに、ホワイトで修正した跡がほとんどなかったんですよね。僕が新人マンガ家をいろいろ見てきた経験から思うに、原稿がきれいな人は迷いなく描いているから筆が速い。締切をきちんと守ってくれると思い、この人だと連絡を取りました」

「今から2年、読み切りを描いていけば連載作家になれる」。そう伝えた鳥嶋氏でしたが、鳥山氏に「1年半でなります」と言われたそう。それから鳥山氏は1話完結の読み切りマンガを描き、ジャンプ本誌や増刊号への掲載を目指しました。

そして約束通り、鳥山氏は鳥嶋氏と出会って1年半で『Dr.スランプ』の連載を勝ち取りました。それまでに描いた読み切りは約10本。ボツになった原稿は約500ページに上るそうです。連載にならなかった作品と『Dr.スランプ』にどんな違いがあったのか。鳥嶋氏はこう振り返りました。

「読み切りを描くのにどんな意味があるのか。これは魅力的なキャラクターを描けるかどうかのテスト期間なんです。少年ジャンプのメインの読者は小中学生。ストーリーの面白さも大切ですが、まずは子どもたちが好きになってくれるキャラクターを描けるようにならなければ読んでもらえません。キャラクターを好きになり、身近に感じられると、自然とストーリーの中に入っていける。ジャンプで連載するためには、魅力的なキャラクターを描けるかがものすごく大事です」

『ドラゴンボール』誕生のきっかけは、鳥山 明氏の奥さん?

ロボットなのに視力が低く、うんちをつつくのが大好きなアラレちゃんが人気となり、瞬く間にジャンプの看板マンガになった『Dr.スランプ』。アンケートで幾度となく1位を取り、テレビアニメが最高視聴率36.9%を記録するなど、大人気作品になりました。

しかし連載開始4年目、鳥山氏が突然「連載をやめたい」と伝えてきたそうです。

「当時の鳥山くんは名古屋にいて、ひとりのアシスタントと一緒に、15ページの原稿を毎週完成させていました。『Dr.スランプ』は1話完結のギャグマンガであり、もし一部分が面白くなければ、連動してほとんどのページを描き直さなければなりませんでした。さらに原稿を航空便で東京に届けるため、市内にある空港まで行って発送しなければならない。睡眠不足で信号の色が分からないときもあったと言います」

何度か電話で話しているうちに、「もう限界だ」と感じた鳥島氏。鳥山氏に東京へ来てもらい、ジャンプの副編集長・編集長と話す場を設けたと言います。

「その大事な食事会に、僕はほかの仕事があって30分遅れて行ってしまったんです。そうしたら鳥山くんが非常にまずい約束をしてしまったと。編集長たちから、『Dr.スランプ』より面白いマンガを描けるならやめていいと言われ、それを約束したと言うんです。」

それから鳥山氏は、最終回に向けて『Dr.スランプ』の連載を続けつつ、新連載に向けて読み切りを制作。「No.1マンガを生み出したマンガ家と編集者なら『Dr.スランプ』を超える作品を作れると思っていた」。そう話す鳥嶋氏でしたが、読み切りを何本作っても読者の支持を得られなかったと言います。

「鳥山くんと電話で話していても打開策が見つからなかったため、名古屋に行って打ち合わせをしました。そこで2時間話してもいいプランが思いつかず…。帰りの新幹線の時間が迫ってきたときに、鳥山くんの奥さんが僕たちを救ってくれました。奥さんが言うには、うちの旦那は変わっていると。ネーム(絵コンテ)を描いてからペン入れをするときに、ラジオや音楽を流すマンガ家は多いけど、旦那はジャッキー・チェンの映画を流しながら仕事をしている。鳥山くんに聞いたらかれこれ50回以上その映画を見ていて、好きなシーンのときだけ画面を見ると言うんです」

「そんなにカンフーが好きなの?」「好きです」「じゃあカンフーのマンガ描いてみて」。鳥嶋氏から提案されたされた鳥山氏は、読み切り作品『騎竜少年(ドラゴンボーイ)』を完成させます。この作品がようやく読者の心をつかみ、『ドラゴンボール』として連載が始まりました。

ジャンプの連載作家に必要なのは臨機応変さ

七つの球を集めるとどんな願いもひとつだけ叶う、ドラゴンボールを集める旅に出た孫悟空の物語は、連載当初から読者の支持を得ました。

巻頭カラーやセンターカラー作品に選ばれる人気作でしたが、徐々にアンケートの順位が低迷。連載作品約20本中14位にまで下降し、鳥嶋氏はテコ入れを検討し始めたと言います。

「当時のジャンプでは10位以内に入らなければ打ち切りの可能性がありました。このままでは『Dr.スランプ』より面白いマンガを作ったとは言えなくなります。なぜ人気を得られないのか。鳥山くんが電話でぽつりと“悟空の魅力がはっきりしていない”と言ったんです。それから数日経って鳥山くんは、悟空は強さを求めるキャラクターだ、という答えを見つけました」

それまでドラゴンボールを探す冒険マンガだった作品を、バトルマンガに変えると決めた鳥山氏と鳥嶋氏。

師匠の亀仙人や、ライバルのクリリンを登場させ、修行編が始まりました。すると修行編に入った途端に人気がぐんぐん回復。作中で天下一武道会が始まってからは、アンケートで1位を獲得。それから連載終了まで、『ドラゴンボール』はジャンプの看板マンガとして君臨し続けました。

「連載作家は自分が描きたい作品だけを作っていては生き残れません。読者が何を感じ、何を望んでいるのか、毎週のアンケート結果を読み解きながら、キャラクターを描き、ストーリーを作っています。臨機応変さがないと少年ジャンプの連載作家は務まりません」と鳥嶋氏は話しました。

質疑応答

公開講座終盤には、鳥嶋氏に多くの質問が寄せられました。

Q. コンテンツが飽和している世の中で、自分が好きなもの以外も見てみようという意識が低くなってきていると思います。消費者がそういった意識の中、エンタテインメントを届ける側の人は何を考えるべきでしょうか?

A. 面白いものを作るしかありません。ジャンプのマンガ家と編集者は、読者の反応を見ながら、どうやったら読者の心をつかめるか仮説を立て、マイナーチェンジをしています。読者からのアンケートはあくまで過去や現在しか映せません。そこから未来をどうつかむかにかかっていると思います。

Q. 最近はコンプライアンスを強く意識し、海外の人が見ても問題ないよう、さまざまな宗教観に配慮しながら表現をする必要があると思います。表現の自由と規制についてはどのようにお考えですか?

A. 難しい問題で答えがありませんよね。光があれば闇もあるように、ストーリーによっては悪役や犯罪者なども描かなければなりません。書き手は自分の読者をイメージしながら、その人たちを傷つけないよう、悪を描いていく必要がある。結局は書き手が、今の時代の読み手に寄り添い続けるしかないと思います。

Q. 鳥嶋先生の話を聞いて、同じ作品を読んでいるにもかかわらず、見ているところがまったく違うと感じました。どうしたら鳥嶋先生のような編集者になれますか?

A. 編集者は作品の最初の読み手であり、マンガ家との打ち合わせのときに、どうすれば面白くなるかを考える習慣があります。マンガ家が提出してくれたものが面白ければ打ち合わせは即終了。でもそんなケースは滅多にありません。目の前のマンガ家がうるうるした目でこっちを見ていても関係なく、どこが面白くないと感じたかをはっきり伝える。そしてどうしたら面白くなりそうかを提案します。編集者はあくまで提案するだけであり、マンガ家にも考える習慣が身につくよう、最終的には作者自身で修正案を考えてもらいます。

もし言語化する力を身に着けたいなら、マンガでも映画でも、冒頭に注目してみてください。たとえば、『鬼滅の刃』の第1話1ページ目で、兄が瀕死の妹を背負い、妹を助ける物語であることが1ページで分かります。どんな風にキャラクターがでてくるのか、どのようにストーリーが説明されているのか。そこにクリエイターの能力が現れます。マンガをきちんと読んで、分析する習慣をつけるのがおすすめです。

Q. アニメとマンガの関係性は今後どうなると思いますか?

A. マンガ編集者としては、今後もアニメはマンガ原作を売るためのプロモーションであってほしいと思っています。アニメが大ヒットして作品の知名度が上がったとしても、マンガが売れなければ、編集者からすると成功とは言えません。僕たちは100玉を積み上げてマンガを買ってくれた子どもたちから、そのお金を預かっているだけです。そのお金で連載を続けたり、新しいマンガを生み出したりして、マンガを通じてその子たちに返さなければならない。何のためにマンガをアニメ化させるのか、考える必要があると思います。

鳥嶋氏から在学生へ

最後に、鳥嶋氏から在学生に向けてメッセージが送られ、公開講座が修了しました。

「この中には、マンガ家やマンガに携わる仕事に就きたいと考えている人がいると思います。“どんな才能があれば編集者になれますか?”といった質問をよくされますが、目の前のマンガ家を愛せる人であれば、編集者として働けます。はっきり言えば、編集者の仕事は雑用の塊です。一切余計なことをマンガ家に考えさせないようなんでもする。それができる人が編集者になれます。また、この前小学生からは“マンガ家になるにはどうしたらいいですか?”と聞かれました。1、国語を勉強してください。マンガ家はキャラクターが言いそうなセリフや、きちんとしたストーリーを考えなければなりません。ちなみにマンガ家に文章を書かせたら全員うまいんです。2、友達をたくさん作ってください。友達の数によってキャラクターの引き出しが増えます。3、体力をつけてください。週刊連載は厳しいですから。これらのことに気をつけて頑張ってください」

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2025年7月20日(日)、8月24日(日) 13:00~15:30

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