ニュース&イベント

【開催レポート】特別講義「漫画・アニメ・ゲーム 日本IPグローバル映像化の未来」

【開催レポート】特別講義「漫画・アニメ・ゲーム 日本IPグローバル映像化の未来」

2025年12月1日、デジタルハリウッド大学は特別講義「漫画・アニメ・ゲーム 日本IPグローバル映像化の未来」を開講しました。担当講師は本学の特命教授である藤村 哲也先生です。

『ONE PIECE』や『スーパーマリオ』など、世界から日本IPが注目されている昨今。日本のIPを海外で映像化するビジネスモデルはいまや当たり前になりましたが、その礎を築いた一人が藤村先生です。

特別講義では、藤村先生がIPビジネスを始めたきっかけや、日本IPの未来について解説しました。

日本IPをハリウッドで映像化する際、会社としてどうマネタイズするのか

1986年、藤村先生は映画配給会社であるGAGAを創業し、洋画の買付やビデオ化などに奔走。2006年にフィロソフィア株式会社を創業し、日本IP(原作となる漫画・アニメ・ゲームなどの知的所有権)をもとにした映像化事業を展開しています。

「私が苦しんだのは他社との競争だった」。藤村先生はGAGAで働いていたときを振り返り、フィロソフィアを立ち上げた経緯を話しました。

「映画配給会社は我々以外にもたくさんいました。自分たちが買いたい映画はいつだって他社も買いたい。買いたい値段で買えることはなく、他社のオファーを上回るオファーを出さなければ、なかなか買付できなかったんです。次第に競争のない場所で生きたいと思うようになり、新しい会社を立ち上げました」

競争がない場所、つまり誰も手をつけていない市場で仕事をすると決めた藤村先生は、自身の経験の延長線上にあるビジネスを思案しました。

その結果、日本のIPの権利元とハリウッドのトッププロデューサーを結びつける仕事を始めます。ただし2006年当時、そのような仕事を日本でしている人がいないため、それがビジネスとして成立するかは分かりません。

「弁護士のように時間制で費用を請求しようか。もしくは契約が締結されたら成果報酬をいただこうか。いや、交渉に数年を要するビジネスだから、そんな請求の仕方はできない。ハリウッドのプロデューサーたちに助言をいただきながら悩んだ末に、EP(エグゼクティブ・プロデューサー)契約を交わすのが最も現実的であるという結論に至りました」

EPとは、映画制作における企画や資金調達などを通じて、プロジェクトに貢献するポジションのことです。藤村先生はEPとしてIPの権利元と交渉し、企画の面からプロジェクトを支えようとビジネスをスタートさせました。

マーベル・スタジオのプロデューサー、アヴィ・アラッドとの出会い

藤村先生はGAGAを経て、出版社やアニメーションスタジオ、ゲーム会社、映像会社など、日本IPの権利元とつながりを得た一方、ハリウッドのトッププロデューサーとのコネクションはありませんでした。

「トッププロデューサーにこだわったのには理由があります。漫画原作の映像化プロジェクトを進める場合、出版社だけでなく、原作者から許可をいただく必要があります。そのときに“ハリウッドでの実績が十分なプロデューサーが協力する”と伝えると、真剣に話を聞いてもらえるんです。また、トッププロデューサーのほとんどはメジャーなスタジオとファーストルックディール(優先交渉権契約)を結んでいます。そのためそのプロデューサーが映画化をする場合、資金調達の心配をする必要がなくなるんです」

ハリウッドでの実績があり、日本IPに対しても情熱がある。そんな理想的な人物を求めていたところ、幸運にも藤村先生は映画プロデューサーのアヴィ・アラッド氏と出会います。

1990年代後半、コミック事業の業績不振により廃業寸前だったマーベル・コミック社は、玩具事業を展開するトイ・ビズ社と合併します。トイ・ビズ社のCEOだったアヴィ氏は、出版事業のみでマーベル社の価値を上げようとするのではなく、実写映画化を通じてIPの価値を底上げしようと試みました。それからマーベル・スタジオを設立し、『X-MEN』や『スパイダーマン』など、映画プロデューサーとして多数のヒット作を生み出しました。

藤村先生とアヴィ氏が出会ったのは、2006年。藤村先生がフィロソフィアを立ち上げた時期でした。当時のアヴィ氏も新しい会社を立ち上げており、マーベル作品に限らず、国内外のIPの実写化を検討していたタイミングだったと言います。

「GAGA時代に知り合ったハリウッドの友人がアヴィを紹介してくれ、3人でランチをする機会をいただきました。そのときにアヴィは“自分の夢は日本のIPで大ヒットを出すことだ”、“それを叶えるためにパートナーになってほしい”と言ってくれたんです。まったく同じことをやろうとしていたので、こんなことがあるのかと驚きました」

その後、約10年をかけて日本の『攻殻機動隊』シリーズを題材にしたハリウッド映画『GHOST IN THE SHELL(ゴースト・イン・ザ・シェル)』を公開。現在も親交は続いており、2027年に公開を控える実写映画『ゼルダの伝説』の製作もともに行っているそうです。

藤村先生は、アヴィ氏と出会い、日本IPの実写映画化が実現したことでハリウッドでのコネクションがさらに広がっていったと言います。

今後も成長が見込まれる日本IP産業

続いて藤村先生は、日本IPが持つパワーについて解説。2025年の11月時点の全世界興行収入に触れ、『F1』を除く9作品が、漫画やゲームなどのIPを題材にしたものであると紹介しました。

1位『ナタ 魔童の大暴れ』
2位『リロ&スティッチ』
3位『マインクラフト/ザ・ムービー』
4位『ジュラシック・ワールド/復活の大地』
5位『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』
6位『ヒックとドラゴン』
7位『F1』
8位『スーパーマン』
9位『ミッション:インポッシブル/ファイナルレコニング』
10位『ズートピア2』

なかでも日本IPかつ日本のufotableが制作した映画である『鬼滅の刃』が、名だたるハリウッド映画を押さえ上位に食い込んでいるのは注目すべきところです。

また、2023年に米ファンダム社が実施したIPに関するアンケートでは、人気TOP25のうち『ONE PIECE』や『NARUTO』、『Pokemon』など多数の日本IPがランクイン。

「なぜ日本IPがこんなに強いのか。いくつか理由があります。まず日本が漫画大国だからです。戦後まもなく少年漫画雑誌が乱立し、ピーク時には100誌以上もあった。こんな国はどこにも見当たりません。さらに日本はアニメ大国でもある。国内で漫画家同士がしのぎを削り、人気のある作品がアニメになる。グローバルストリーマーの台頭によってそれが世界に広まる。アニメを見た視聴者が漫画にも関心を持つようになる。いま日本IP市場に好循環が起きています」

今後、Netflix実写版『ONE PIECE』シーズン2や実写映画『ゼルダの伝説』など、日本IPを題材にした映像作品の公開が多数控えており、「日本IP市場はますます盛り上がる」と断言する藤井先生。それを裏づける情報として、日本経済新聞から出た記事「時価総額、エンタメが自動車抜く 上位9社で見えた日本株高の原動力」を紹介しました。

「2025年6月に、ソニーグループや任天堂といったエンターテインメント関連の主要な銘柄9社の時価総額が、トヨタ自動車を含む主要な自動車製造会社9社を逆転しました。現時点で自動車よりもエンタメの産業規模が大きいわけではありませんが、株価というのは未来を先取りして値段がつきますから、これから実質的な基幹産業になるのはエンタメ産業だと考えられます」

藤村先生は、IPが自動車のバリューを上回ると予測しており、今後も日本IPの未来は明るいと話しました。

質疑応答

特別講義終盤には、参加者のみなさんから藤村先生へ質問が寄せられました。

Q.日本は漫画・アニメ大国だというお話がありましたが、なぜ漫画のビジネスモデルが日本で確立したと思いますか?

A. 「日本はなぜアニメが強いか?」という質問の答えはシンプルです。素晴らしい漫画原作がたくさんあるから。しかし「日本はなぜ漫画も強いのか?」という質問については、分からないのが正直なところです。僕が生まれた昭和28年(1953年)はテレビ放送が始まったくらいの年代で、まだ家庭にテレビはありませんでした。だから娯楽はラジオか漫画くらい。蕎麦屋と同じくらいの数だけ、あちこちに貸本屋があり、僕らは毎週のように通っていました。日本人のクリエイティビティが優れているからなのか、ものすごい数の漫画が流通し漫画を愛する人が育ったからなのか、明確な理由は分かりません。

Q. これまでは漫画やアニメの実写化に反対する声が多く、実際に低評価を付けられる実写化作品が多かった一方で、最近は『ONE PIECE』のように成功する事例が増えてきていると思います。どんな理由が考えられますか?

A. ハリウッドの人たちが、より原作者の意見や原作自体を尊重するようになったからだと思います。僕が業界に入った当初は、「原作は原作、映像は自分たちに任せろ」という空気をハリウッドの人たちから感じていました。先生が意見しても聞き入れられない場面が多く、原作とは異なるストーリーになることが多かったんです。ですが今は、SNSで一人ひとりの声が可視化される時代ですから、世界中にいる原作ファンの反感を買ってはいけない。仮に先生が「これは私の作品ではない」と言ったら、ファンが劇場に行くことはありません。原作者やファンを味方にし、積極的に原作者に意見をもらう時代になったと思います。

日本IPがますます世界に羽ばたいていく時代になる

最後に、藤村先生から参加者へメッセージがあり、特別講義が終了しました。

「日本IPの映像化の世界は大きく変わろうとしています。グローバルにそのチャンスは広がり、世界の隅々まで映像を届けることが可能になっています。世界の人々は、国と言語を超えて、心を躍らせる魅力的なキャラクターの素晴らしいストーリーを求めています。そして、この先に世界最大の埋蔵量を誇る日本IPの素晴らしい未来が待っていて、そのIPの持つパワーにより、実写でもアニメでも舞台でも音楽でも、世界に通用するコンテンツを作っていく時代が来ると信じています。これから日本のIPがますます世界に羽ばたいていく時代になると思いますので、みなさんも日本IPに関わる日が来たら私は嬉しく思います」

藤村先生と杉山学長

デジタルハリウッド大学では今回のような特別講義を通じ、学生自身のキャリアを考える機会を設けています。

オープンキャンパスでは本学の実務家教員による体験授業や、学外のクリエイターによる特別講義などを開催しています。ぜひイベントにご参加ください。

https://www.dhw.ac.jp/p/ocguide/

デジタルハリウッドで講義をしてみたいという企業様、クリエイター様、研究者の方は、本学事務局へお問い合わせください。

デジタルハリウッド大学事務局(特別講義担当)
dhu@dhw.ac.jp