ニュース&イベント

【開催レポート】ベネッセコーポレーション代表・岩瀬大輔氏による特別講義「現実とは、自らの認識と行動で変えられるもの」

【開催レポート】ベネッセコーポレーション代表・岩瀬大輔氏による特別講義「現実とは、自らの認識と行動で変えられるもの」

2026年4月21日、デジタルハリウッド大学の公開講座である「現実科学レクチャーシリーズ」の特別講義が駿河台ホールにて開催され、株式会社ベネッセコーポレーション 代表取締役社長 岩瀬大輔氏が登壇しました。「現実とは?」という問いを軸に、デジタルハリウッド大学 学長 藤井直敬と、デジタルハリウッド株式会社 取締役会長 吉村毅氏を交え、キャリア論をはじめとしたトークが繰り広げられました。

積極的な行動が思いがけないキャリアを引き寄せる

岩瀬氏は2009年2月にライフネット生命保険株式会社の設立に参画し、2013年に同社代表取締役、2018年に同社会長に就任。退任後、2020年よりベネッセホールディングス(当時)の社外取締役を努め、2025年1月に株式会社ベネッセコーポレーションの代表取締役社長に就任しました。社長就任の経緯を踏まえ、岩瀬氏は学生たちに「人生はどうなるか分からないことを伝えたい」といいます。

「ライフネット生命に携わったのは、留学中に書いていたブログがきっかけでした。大学卒業後、コンサルを経て28歳でハーバード大学院に留学し、そこでの学生生活をブログで発信していたんです。その内容が投資家の目に留まり、『ベンチャーをやらないか』とお声がけいただいて、帰国後に立ち上げたのがライフネット生命でした」

岩瀬氏は、ライフネット生命時代も書籍やポッドキャストなどで精力的に発信を続けました。その内容がベネッセホールディンクスの名誉顧問である福武總一郎氏の目に留まったことが、ベネッセの社外取締役につながったといいます。「ベネッセの社長をやるなんて夢にも思っていなかった」という岩瀬氏は、「計画された偶然性(Planned Happenstance)」について語りました。

「これはスタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱するキャリア理論です。多くの人のキャリアを調査した結果、『個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される』という結論になったそうなんですね。ほとんどの人は、予想とは違うキャリアを歩んでいると。ただ、その中で成功した人、楽しい生き方をした人たちには、5つの共通点があったといいます」

その共通点とは、「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」の5つです。好奇心旺盛に動き回ったり、リスクを恐れずに飛び込んだりなど、積極的に活動することで「思いがけない人生が待っているかもしれない」と岩瀬氏は話します。

「ライフネット生命を立ち上げたときは、周囲から『絶対に無理だ』と言われましたね。ただ、周囲から理解されない行動にこそ、チャンスが眠っていると思うんです。思い通りにはいかなくても、一生懸命行動して、いろんな人と触れあって、新しい機会が生まれたら飛び込んでみる。その大切さを、今日学生の皆さんに伝えられたらと思います」

理想と現実には必ずしもギャップがあるわけではない

「現実科学レクチャーシリーズ」では、毎回登壇者に「現実とは?」というテーマで講演を依頼しています。岩瀬氏は、バンクーバーで行われた「TED2026」で目にした登壇者たちのエピソードを挙げ、「現実とその反対概念」という5つのフレームで紹介しました。

最初に「理想と現実」というテーマで岩瀬氏が紹介したのは、マララ・ユスフザイ氏。タリバンによる女子教育の禁止に11歳から抗い、15歳のときに銃撃されながらも活動を続け、最年少ノーベル平和賞を受賞した人物です。マララ氏の講演を聴いた岩瀬氏は「理想と現実は違うと諦めている自分に気づかされた」といいます。さらに、環境保全のために電力会社を相手に裁判を起こし、ダムの撤去を実現させたネイティブアメリカンの弁護士の話も紹介されました。

「タリバンに抗うことも、ダムを撤去させることも、とてもできるとは思えない。でも、諦めずに行動すればできるわけです。理想と現実には必ずしもギャップがあるわけではなく、『できる』と信じて行動すれば、理想に向けて現実を変えられるのだと学びました。自分の小ささを痛感しましたね」

続いて「制度と現実」ではアメリカ最高裁で54回もの口頭弁論を経て、トランプ政権に対し勝利を収めた弁護士のエピソードを、「建前と現実」では服役後に弁護士となり、全米の刑務所に図書館を設置する活動を続けるアフリカ系アメリカ人の活動家を紹介。いずれも、法制度や出自といった“現実とのギャップ”に立ち向かった人々です。

また、「理論と現実」では遺伝子研究とAIを組み合わせた生命科学者、「虚偽と現実」ではXのコミュニティノート機能開発者のエピソードを挙げ、テクノロジーや人間の知恵によって現実とのギャップを埋める事例として紹介しました。

最後に岩瀬氏は「これはTEDとは関係ないのですが」と断りを入れ、「現実と嘘」というテーマで近松門左衛門の『曽根崎心中』について語りました。『曽根崎心中』は、不条理な世の中で真実の世界を求めた若者2人が、心中を図る姿を描いた物語です。歌舞伎と文楽を愛する岩瀬氏は、最後の道行きの一節に心を惹かれると話します。

『この世の名残、夜も名残。死にゆく身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足ずつに消えてゆく、夢の夢こそあわれなれ』

「死に向かう若い2人が、あの世で一緒になろうと誓う。そこで語られる『夢の夢こそあわれなれ』というフレーズが好きなんです。夢の中で見る夢とはなんだろう、と。もしかすると、この現実こそ夢のようなものであるかもしれません。これを今回の『現実とは?』の答えとして、私の話は一旦終わりにさせていただきます」

「負けている時間」をどう過ごすかが大切

講演のあと、参加者のみなさんから岩瀬氏に質問が寄せられました。

Q.「理想と現実」の話がありましたが、年を重ね経験を積むと「現実は変えられない」という感覚が強くなるのではと思います。岩瀬さんはこの感覚をどう捉えていますか?

岩瀬氏:確かに、いろいろ経験すると「ああなったらどうしよう」と考えてしまいますよね。若いころは失うものが何もありませんでしたが、今は失敗したら迷惑がかかる人もたくさんいますし、年を重ねると「現実は変えられない」と考えてしまうのも無理はないと思います。

ただ、TEDに参加してみて、改めて「そんなことはない」と強く感じたのも事実です。やはり、学び続けることが大事なのではないでしょうか。そういえば以前、「新しく学んだ知識より、既に持っている知識のほうが多くなったときに老いが始まる」と聞いたことがあります。「計画された偶然性」の話にも通じますが、好奇心を忘れず、新しいことにチャレンジし続けていきたいですね。

藤井:岩瀬さんは、身近に「新しいことをしなくては」と思わせてくれる人はいますか?

岩瀬氏:大企業ということもあり、直属の部下にベテランが多かったのですが、最近そばに若い人たちも置くようにしました。若手と話すと新たな視点が増えますし、やはり刺激になりますね。会社の意志決定をする場にも、20代を何人かいれて意見を聞くようにしています。

藤井:僕も学長室を開けっぱなしにして、学生たちに「入りたいときに入りなよ」って言ってるんです。本当に入ってくるんですよ。今日なんて、学長室でオンライン授業を受けている人がいましたからね(笑)。ついでにいろいろな話もできて、面白いですよ。

Q.岩瀬さんが今までに経験した「大失敗」は何ですか? AIで失敗を回避しやすい時代に、失敗の価値をどう捉えていますか?

岩瀬氏:大失敗というわけではないのですが……どちらかというと、うまくいくことのほうが少ないですね。ライフネット生命も最初は苦戦しましたし、うまくいかないことの方が多いですよ。

藤井:外から見るとすごく順風満帆に見えますけどね。

岩瀬氏:ヘッドラインだけ捉えるとそう見えるのだと思います。以前、サイバーエージェントの藤田晋さんが麻雀に例えていたんです。麻雀は4人でやるものなので、確率的には勝率2割5分なんですが、一流選手でも勝率は3~4割だそうなんですね。つまり、一流選手でも残りの6~7割は負けている。

「経営も一緒」だと藤田さんは仰ってました。良いときだけ取り上げられるから成功しているように見える。でも6~7割の時間は負けているから、そこでどう過ごすかが大事だと。人生もそういう感じだと思います。たまにちょっと勝つことがあっても、それ以外の時間に一生懸命頑張るのが大事ですよね。

藤井:そうですね。「うまくいかない」という学生に何回やったのかを聞くと、1回しかやっていなかったりしますね。勝率2割なら最低5回はやらないといけない。手数が少ないとうまくいきませんよね。

岩瀬氏:100回くらいやらないと(笑)。「ほとんどの時間は負けている」と思えば、失敗を失敗だと思わなくなりますから。それでいうと、僕もハーバードへの留学は2回落ちて3回目で行ったんですよ。

藤井:そうなんですか? 試験に落ちる岩瀬さんって想像つかないですね。

岩瀬氏:就職面接でもよく落とされましたよ。多分生意気だったと思います(笑)。そのときは「俺の良いところが分からない会社なんだな」と思っていましたね。学生の皆さんもいずれ就活をすると思いますが、あまり偏差値や点数にとらわれないでほしいですね。うまくいくかどうかは、本当にタイミングと相性だけですから。

現実は揺れ動くもの、自分で返られるもの

特別講義の最後、藤井学長から「岩瀬さんにとって現実とはなんですか?」と問われた岩瀬氏は「現実とは、認識と行動で動的に形作られていく『夢の夢』」と答えました。

「現実とは変化していくものだと思っています。私がTEDに参加して、世界の解像度がさらに上がったように、自らの認識や行動を変えることで現実は変化していきます。現実は揺れ動くものであり、自分で変えることができるものです」

ここで岩瀬氏は、講演で触れた『曽根崎心中』の一節を引き、「人生なんて、『夢の中で見た夢』ぐらい移ろいやすく儚いもの、程度の認識でいいんじゃないでしょうか」と続けます。

「Don’t take it too seriously、そんなにシリアスに考えすぎなくていいよ、ということですね。その程度のものだからこそ、人生は楽しめる。あとはAIが仕事をしてくれるようになったら、余暇の時間が増えて、エンタテインメントの消費も増える。そうなれば、これからますますDHUの皆さんの時代だと思います。ぜひエンタテインメントで、世界を満たしてください」

文:井上マサキ

本件に関するお問い合わせ

デジタルハリウッド大学 事務局
dhu@dhw.ac.jp(平日10:00~18:00)