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【開催レポート】長編アニメーション映画『花緑青が明ける日に』四宮義俊監督 特別講演(パース基礎番外)

【開催レポート】長編アニメーション映画『花緑青が明ける日に』四宮義俊監督 特別講演(パース基礎番外)

2026年7月21日、長編アニメーション映画『花緑青が明ける日に』の四宮義俊監督による特別講演を行いました。戸島麻貴特任准教授が担当する演習科目「パース基礎」の番外編としての開催され、戸島准教授もファシリテーターとして参加しました。

四宮監督は日本画の技術をベースにしながら、アニメーションやイラストなど幅広い分野で活躍されているアーティストです。東京藝術大学で日本画を学び、大学院を修了後、日本画家としての活動に加え、映画『言の葉の庭』ポスター制作や、『君の名は。』演出など、アニメ作品にも積極的に参加してきました。本講義では、2026年3月6日に公開された自身初監督作品『花緑青が明ける日に』制作の裏側を土台に、創作活動を行なっていく中での“自分の強みの見つけ方”を学生たちに伝えました。

「10年経っても、物語が生き続けられるか」アーティストとしての、アニメ作品のテーマ選び

四宮監督は、自身の初監督作品『花緑青が明ける日に』を例に、「自分の強みをどう作品にしていくか」というテーマについて語りました。本作の企画段階から意識していたのが、「日本画家」と「商業アニメに携わるアーティスト」という自身の2つの側面です。

また、アニメの商業作品では動植物がステレオタイプな表現になりやすいことに着目。東京藝術大学で9年間にわたって日本画を学び、植物を描き続けてきた経験から、動植物を描くことを自身の強みとして捉えるようになったといいます。

「高校生のころは植物に興味があるとは思っていなかったのですが、植生や風景を描くことは絵画の一般的な入り口でした。その後、日本画というジャンルに入って過去の作品を見ていくと、花鳥風月、つまり草花や鳥、動植物がモチーフになっていることを知りました。自分は日本画を描いてきたがゆえに、動植物を描くことが強みだと思い、今回の作品では植物の植生まで意識して制作を進めていきました」

さらに四宮監督は、アートの領域と商業アニメーションをひとつの作品に束ねることも目指しました。そこで着目したのが、風景や土地からどのような作品が生まれるのかというテーマです。

本作では、ソーラーパネルの建設による環境問題や開発問題を題材に、環境・エネルギー問題によって土地の環境が変化し、伝統文化が立場を失っていく様子を描いています。作品の登場人物は若者ながら功利主義的な側面を持っていますが、この10年の間で、現実の政権ではソーラーパネルを規制する法案が生まれ、「良くも悪くも時代が追いついてきた」と振り返ります。

「アニメーションは企画を始めてから完成するまで本当に時間がかかります。だからこそ、『物語が10年経っても生き続けられるか』という視点でテーマを選ぶことが重要なんです。ベルリン映画祭でも、エネルギー問題を伝統文化の中に落とし込んでいる点が評価されていました。僕はこのテーマを、この先も大きくなり続けていくものだと思っています」

本物に触ることが縁遠くなった時代だからこそ、“手触りの実感”を知っていることが強みになる

本作の制作において四宮監督がもう一つ大切にしたのが、自分自身のルーツや実体験を作品に落とし込むことです。

企画書の段階から、「世界に届くコンテンツとはドメスティックな部分もしっかり描かれたものではないか」と考えていたといいます。そのため本作では、四宮監督自身の地元を想起させる舞台や、好きな日本画、植生の風景をベースにしながら、それらがエネルギー問題へとつながっていく世界観を構築しました。

背景美術を考えるうえでも、日本画の経験が大きく影響しています。四宮監督にとって、日本画は掛け軸や屏風そのものだけではなく、その外側に広がる空間まで含めて考えるものです。美術館に展示されるという形態だけでなく、さらにいえば日本家屋の中に収まることで成立する日本画の様式に興味を持っていたといいます。だからこそ本作では、日本家屋や風景も世界観を作り上げるうえで重要な意味をもっており、細部まで考えることが作品のリアリティにつながっています。

また、大学院時代には、日本画の原材料となる植物を実際に植えて育てる経験もしました。教授からの提案がきっかけでしたが、その経験を通じて「本物を触ってみる」ことの重要性を実感したといいます。「本物に触れることが縁遠くなってしまった時代だからこそ、大切な要素だと思います。人は知らないから不安で描いてしまう。でも、実体験として知っていれば、描かなくても伝えることができます。自分の強みというのは、自分の好きなものの外側にある実体験から構成されている。好きなものをただ追いかけるだけではなく、実際に触れ、経験し、知ったこと。その積み重ねこそが、作品を作る際の自分だけの強みになる」と語りました。

手描きの質感には、観客の視線を集める強さがある

手描きの風合いを生かしたアニメーション表現も、本作の特徴です。四宮監督は「手描きの風合いを残した方がリッチな画面になる」という仮説を持って制作に臨みました。

一例として紹介されたのが、水の張ったたらいに花が浮かんでいるカット。一般的な制作では、たらいの底まで絵を描き、水面の揺らぎをエフェクトによって表現します。しかし本作では、あえてたらいの底を美術では描かず、たらいの中をすべてセルで描くことで、水の揺らぎを表現しました。人間が手描きした絵そのものを動かすことで、観客に「見てください」と伝える信号を強めることが狙いです。

現在はデジタル表現が進化し、水や風の揺らぎなども撮影処理によって表現できるようになっています。だからこそ、あえて手描きで揺らすことで、そこに別のメッセージを加えることができます。

四宮監督が重要だと考えるのは、「どこまでが動きそうで、どこまでが動かないか」という取捨選択です。2Dアニメーションにおいて、何を動かし、何を動かさないのかを決めることが、もっともセンスを問われる部分の一つだといいます。

一方で、アニメーションの制作環境そのものは大きく変化しています。2000年ごろから3Dが2Dアニメーションに入り込む動きが強まり、一時期は「手描きのアニメーションは時代遅れになり、なくなるのではないか」とまで言われました。

しかし現在では、2Dアニメーションならではの良さが改めて評価されています。同時に、3D技術も2Dアニメーションの制作現場に確実に浸透しています。

四宮監督は、2Dと3Dのどちらが優れているかという話ではなく、それぞれを組み合わせることで相乗効果を生み出せる段階まで表現が進化していると説明しました。3Dやロトスコープなども含め、映像表現のハイブリッド化は今後さらに進んでいくでしょう。

だからこそ、これから作品を作る学生たちにとって重要なのは、特定の技術だけを身につけることではありません。

「みなさんはこれから、自分の強みとやりたいことをどう組み合わせていくかが大事な時代になるんじゃないかなと思っています」

技術が変化し、表現の選択肢が増えていく時代だからこそ、自分が何を知っていて、何を好きで、何を伝えたいのか。その原点を掘り下げることが、クリエイターとしての強みを形にする第一歩だと、学生たちに伝えました。

質疑応答

Q.今の機材で昔に使われていたアナログの表現を取り入れるにはどうすればいいでしょうか?

人間の手触りを画面に残したいという衝動はすごくわかります。今年公開される他の映画にもセルを用いた表現が使われていて、同じ時期にみんな同じことを考えていたんですよね。人間が残した痕跡を擬似的に画面に表現することは技術的には可能ですが、それを何のために使うかというのは、作品各々で検証が必要です。どういうアニメが魅力的に見えるか。それは、擬似的な表現はすぐに底が見えてしまうような気もしていて、それよりは今まさに伸びようとしている才能が見せる拙さやほつれのようなものの方が人間が関わった痕跡としてよりよく画面に残り、伝わってくるものなのではないかと思ったりもします。。あえて手触り感を出すのではなく、ゆえに出てしまうノイズこそ、本質的なものだと考えています。

Q.自主制作をする段階において、必要なスキルや身につけておくべきことはありますか?

難しいですね。腐らずにやるしかないですけど。石川啄木の短歌に「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ」という一節がありますけど、そういうことですよね。僕の話で言うと、今は日本画家という肩書きでアニメーション業界にもいて、アウトサイダー的に映っているかもしれないですが、遠回りしているとも言えるわけで。だから何が正解かは結果論でしかありません。目の前にある取り組めるものを大切に思うことが大事なのかもしれません。

文:ババショウタ