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【開催レポート】ゴースト・イン・ザ・シェルに見る 日本のIP知的財産を基にしたハリウッドでの映画製作の意義と将来性

【開催レポート】ゴースト・イン・ザ・シェルに見る 日本のIP知的財産を基にしたハリウッドでの映画製作の意義と将来性
開催日時
2017年7月5日(水)19:45~21:15 19:30開場
場所
デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス 駿河台ホール
デジタルハリウッド大学では、特別講義「ゴースト・イン・ザ・シェルに見る 日本のIP知的財産を基にしたハリウッドでの映画製作の意義と将来性」を開催しました。講師を務めたのは、株式会社ギャガ・コミュニケーションズの創業者、株式会社フィロソフィア代表取締役社長。国内外のエンタテイメント業界の有力企業の国際映画・映像ビジネスのコンサルタントを引き受けると同時に、日本のIP(Intellectual Property= 原作となる漫画、アニメやゲームなどの知的財産)をもとにしたハリウッドでの映画製作を手がける藤村哲也氏。「映画ビジネスは人脈が大切なビジネスで、たった一人の有力な人に出会えるだけでいろんな可能性が広がっていく。」と日本の知的財産を基にハリウッドでの映画製作について解説いただきました。
「ゴースト・イン・ザ・シェル」10年の軌跡
映画ビジネスは人脈が大切。藤村氏も、MARVELスタジオの創業者でスパイダーマンをヒットさせた有力プロデューサーのアヴィ・アラッドとの出会いによってゴースト・イン・ザ・シェルの制作に関わることになりました。日本の権利者である講談社との権利交渉、当時は講談社にとって初めてのハリウッド交渉で多岐にわたる製作の条件決定、権利がクリーンな状態で保障されていることを証明する為、計3年。多くの信頼を得て、講談社から直接DREAMWORKSへ映画の許諾がおり、DREAMWORKSが藤村氏とアラッド氏とプロデューサー契約を締結しました。企画開発に5年、脚本に計7億円。その後の2年間で、プリプロダクション、撮影、ポストプロダクション、そして世界公開へとスムーズに進み、撮影の場所に税制優遇制度、VFXや世界最高水準の特撮を持ったニュージーランドと攻殻機動隊の世界観を演出できる香港が選ばれ、全て含めて合計で10年かかったそうです。しかし、ハリウッドで100億円以上の製作予算で作る映画の場合は企画開発の設計と脚本を一番に重視するため、5年は一般的で、ハリウッドスタンダードとしてはそう長くない。と藤村氏は語りました。

権利交渉の重要ポイント
自社の大切な日本のIPを海外で作るのはいつもいい話ばかりではないと藤村氏は指摘しました。過去に日本のIPでハリウッドの映画化に失敗し、イメージを回復する為にそのIPを10年も寝かせた実例があるとか。いい映画を作るには「契約する事」よりも「契約した後」。権利交渉で重要なのは「誰がどのように映画を作るか」で、誰が自分の大事な子供を育ててくれるのか立派な映画を作るのか、どのような考え方でその子を育てるかどんなクリエイティブビジョンで作っていくのか、を考えることが大事だと藤村氏は語ります。重要なポイントはその親に当たるプロデューサーが実績のある人かどうか、次にクリエイティブビジョン、最後に経済条件の話をする。という流れで、ハリウッド大作の海外契約では企画開発だけで数億円かかる為企画をきちんと作る前提で一定の期間独占的な企画開発期間を保証するオプションパーチャス契約を結びます。実際この契約を結んでも実際に映画が作られるのは2割以下ですが、アラッド氏クラスの超一流プロデューサーがつくと確率が7割・8割になるそうです。一方日本契約では、クリエイティブコントロールと日本では権利を売る考えがないため権利を一時的に借りるといったライセンスの契約の発想を考慮しなければいけない。

日本IP(原作)を基にしたハリウッドとの契約成立要件
そもそも契約を成立させるポイントは、知名度と世界観、又はストーリーのオリジナリティーであると藤村氏は語ります。ありふれた話では権利として成立しないため、実例として知名度と世界観があるバイオハザード、トランスフォーマー、ゴジラなどが有名でありますし、ストーリーではShall we ダンス?、リング、ライトノベルが原作のトムクルーズ主演のオール・ユー・ニード・イズ・キルなど監督がそのストーリーを見出して映画化した話もあるそうです。日本のIPは非常に多いが、映画化するに当たってきちんとこの2点のいずれか備わっていないといけないのだそうです。

世界における日本IP(原作)重視の流れ
日本は最大のIP大国で特にアニメ漫画において「質」「量」ともに世界最大の作品群を誇り、更に注目を集めている要因が2つあると藤村氏は考えます。1つ目は日本特有の漫画とアニメの融合。大人気な漫画がアニメ化し世界に発信されより多くの人に親しまれ日本のIPの理解と知名度も高くなるので、アニメは漫画に対しショーケースの役割を果たしています。ネットフリックスやアマゾンのような会社が日本のアニメを積極的に買い、世界に向けて配信を増加してこれからオリジナルアニメを作ろうとしているところなのだそうです。2つ目は中国市場の急速な拡大。中国の人々はSTAND BY MEドラえもんが100億を超える興行収入を上げたように日本のアニメや漫画を最大の娯楽として育ち、中国が近い将来アメリカを抜いて世界最大規模に成長し、日本のIPへの需要が更に高まると言われています。そして、これまでのようにアメリカでウケるコミックを映画化してヒットさせ世界に配給して儲けるビジネスモデルから、それ以外の地域でバリューや知名度があればそちらの方が大事な時代になってきているような、インターナショナルなマーケットになってきているそうです。更に今、ハリウッドの中で点が線になるような数多くの日本のIP作品の映画化する動きが進んできていて、現在企画開発中の日本のIPは鉄腕アトム、ナルト、宇宙戦艦ヤマト、名探偵ピカチュウ、モンスターハンターなどがあり、また、アメリカのテレビドラマにはまだ日本のIPは1つもないが企画開発中のものが2作品あるように、非常に注目が集められてきているそうです。

意義と将来の展望
日本のIPを映画化していく意義は「日本文化がハリウッドの製作能力で映画化され、グローバルな流通網により世界中の観客に届けられる」ことであり、これにより世界中の皆さんにハッピーになっていただき、日本の原作の知名度が上がり世界中から尊敬され注目を浴びることで日本の国益につながるのだそうです。そして日本のIPが世界に出ていくことでプロデューサーにも出ていくチャンスが増えハリウッド製作の参加ができるようになり、日本の俳優や女優、監督にもそのチャンスが与えられるようになります。日本の将来の展望は「世界規模のネット配信プラットホームの普及によりアニメを中心とした日本のIPの認知が急速に向上します。そのような状況の中、海外の映画化テレビドラマ化に対して日本のIP は本格的な需要期を迎えようとしている」であり、まだまだこの時代は始まりにすぎず、これからもメディア側やプラットホーム側でどんどん革命が起こっていき、こういったことが日本のIPの付加価値を深めていくと藤村氏は考えています。

講義を聞いて
日本のIPがこんなにも可能性を持ち、かつ大事にされていることを知りました。その可能性を形にするために、藤村氏のようなプロデューサーが支えており、作品完成に多くの努力の結晶が詰まって上映されていると知った時、作品への心温まる思いがありました。この日本のIP映画化が世界のハッピーを繋ぐきっかけになると願っています。

原稿:デジタルハリウッド大学 1年 諏佐仁美