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【開催レポート】高橋 栄樹特任教授 就任記念公開講座「ミュージックビデオの発展とこれから」

【開催レポート】高橋 栄樹特任教授 就任記念公開講座「ミュージックビデオの発展とこれから」

2024年度からデジタルハリウッド大学は、ミュージックビデオの映像ディレクターとして活躍される高橋 栄樹氏を特任教授としてお迎えしました。担当科目は、本学3・4年生を対象とするゼミ・卒業制作課題です。

5月23日には高橋先生の特任教授就任記念として、公開講座「ミュージックビデオの発展とこれから」を実施し、約190名の方にお申し込みいただきました。

高橋先生は、THE YELLOW MONKEYの『SPARK』以降に発売されたほぼすべての楽曲、Mr.Children『終わりなき旅』、AKB48『10年桜』、など数々のミュージックビデオ(MV)を制作。さらに『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』や『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』などのドキュメンタリー映画も手掛けてきました。

本公開講座では、日本のMV黎明期から現在に至るまで、35年間の個人史をテクノロジーの変遷とともに解説しました。

大学の授業で制作した作品をきっかけに映像業界へ

1980年代当時、高橋先生は日本大学芸術学部映画学科映像コースで勉学に励んでいました。大学3年生のころ、ビデオアートを毎週1作品の提出を求められる授業を受け、アメリカの作家であるウィリアム・バロウズに関するビデオアートを制作。

バロウズの言葉をバラバラにして再構築する、カットアップやフォールドインという手法を用いたことが評価され、「Japan’89 ビデオ・テレビジョン・フェスティバル」のグランプリを受賞し、記者会見や授賞式で大々的に表彰されました。

そのパーティー会場で「MVを作ってみませんか」と、YBO2というバンドの関係者から声をかけられ、監督としての人生がスタートしました。

「この時代には、まだMVを作っているレコード会社がほとんどなく、私自身もミュージックビデオを数本しか見たことがありませんでした。レコード会社も誰に頼めばよいか分からなかったそうで、映画監督に頼むとMVではなくなるし、CMを制作している方に頼めるほど予算がない。そこで、僕のようなビデオアートを作る若者にお願いするのが良いんじゃないかという流れになったそうです」

MVを作った経験がなく、日本には参考事例が少ないため高橋先生は海外のMV事情を調べます。すると、前衛映画(*)の手法が用いられていると知り、「前衛映画のようなものがMVとして成立するなら、自分もMVを作れそうだ」と思います。

それから、YBO2のバンドメンバーの撮影がスタート。人間の意識を抽象的に表現するために、撮影した素材をランダムにつなぎ合わせ、YBO2『canon』のMVが完成します。それからレコード会社から依頼が来るようになりました。

(*)広義には前衛的要素を持つ映画全般を指しますが、狭義には1920年代のヨーロッパ圏を中心として発生し、同時代のアヴァンギャルド芸術運動と結びついた前衛的な映画を指します。ドイツでは物語性を破棄して、形態と運動による抽象性の追求へ向かう傾向が現われ、フランスでは現実のイメージをもとに抽象性を追求する傾向が現われました。(参考:artscape「アヴァンギャルド映画(前衛映画)」)

PCで映像編集ができる新時代

1989年に高橋先生は初MV作品を作り上げましたが、完成までには気が遠くなるような時間がかかったと言います。

「当時はPCがない時代でしたので、映像を編集する際は映像を記録・再生できるビデオデッキを複数台用意していました。まず1つのビデオデッキで、未編集の映像を巻き戻し・早送りをして再生し、イン点とアウト点を決めます。その1カットを別のビデオデッキに複製し、きちんとコピーされたかを確認。再び未編集の素材を巻き戻し・早送りをし、映像を再生しながら編集点を見つけて1カットずつ複製する。このようにテープからテープへコピーする、リニア編集という作業をひたすら行います」

この途方もない編集作業があるにもかかわらず、YBO2『canon』のMVは600カットで構成されています。

「最初の仕事だったので張り切ってしまった。当時はカット数が少なくスローな映像が多かったので、スピード感のある映像は珍しかったんだと思います。“何をやっているんだこの人は”と思われたおかげで、レコード会社から新しい仕事をもらえたのでしょう」

その後1990年代にPCが登場し、ノンリニア編集が急速に普及します。ノンリニア編集とは、全素材がHDDに収録された状態で、ランダムアクセス機能を利用して必要な場面にアクセスし、自由にカットできる編集システムです。Adobe PremiereやFinal Cut Proなど、メジャーな編集ツールはこのシステムを採用しています。

「新しい編集方法を覚えると同時に、当然人間はそのテクノロジーを使って新しいことができないか考え始めます。MVがたくさん作られる時代、CDが飛ぶように売れる時代が来るのです」と、テクノロジーの発展に伴い音楽業界も発展したことを伝えました。

あの秋元 康先生が新しいアイドルグループを始めるらしい

THE YELLOW MONKEY、Mr.ChildrenなどのロックバンドのMV監督を、約10年続けていた高橋先生でしたが、2005年ごろに「秋元 康先生が新しいアイドルグループを始めるらしく、アイドルのMVを作っていない映像監督を探しているらしい」と声をかけられます。

「松田 聖子さんや中森 明菜さんよりも、角川映画や大林 宣彦監督の映画を追いかけていた僕にとって、昔からアイドルは遠い存在。アイドルを撮影したことがなくどう撮るべきか悩みました」

長らくロックバンドとの関わりが深かった高橋先生は、アイドルのMVを作ってほしいと言われても、どんな角度で切り込めば自分らしい映像作品が作れるのか悩んだと言います。

「ただ当時のAKB48は、アイドルはゴールではなく通過点、女優やモデルなどアイドルの先にある夢に向けたステップとして利用してください、というようなコンセプトで作られたんです。それはよく分かる。彼女たちをアイドルとして輝かせて、次の未来につないでいく手伝いをしてみたいと思うようになり、現在までAKB48のMVを撮り続けています」

ちょうど同じ時期に高橋家に家族が増え、自身の子どもがどのように成長し、周りとどうコミュニケーションを取るのかを見守っていたと話す高橋先生。次世代について考えるようになった先生と、AKB48のコンセプトが重なり、MV制作の取っ掛かりが生まれたと話します。

デビュー当時から作り続けていた、ファンタジックな世界観のMV作品から一転。リアリティを追求するようになったと言います。たとえば、いじめについて問題提起をした『軽蔑していた愛情』のように、社会と接続したMVを制作するようになりました。

AKB48『10年桜』のMVを、日本で初めて一眼レフカメラで撮影

2008年末に、「キヤノン EOS 5D Mark II」という一眼レフカメラが発売されます。それまで日本で普及していなかった、動画機能を搭載した一眼レフカメラです。動画用と写真用でカメラが完全に分かれていた当時、映像業界で話題になったそうです。

そして、2009年にリリースされたAKB48『10年桜』のMV撮影のため、メジャー作品としては日本で初めて「キヤノン EOS 5D Mark II」が使用されます。

新しい試みではありましたが、そのカメラは絞りや露出などが固定できず、映像の明るさを調整できない。発売したばかりで誰も使い慣れていない。これらのことからリスキーだと判断した高橋先生は、念の為大型のビデオカメラも従来通りセッティング。バックアップ体制を整えつつ、「キヤノン EOS 5D Mark II」の使用にトライしました。

「このカメラの利点は、リアリティのある映像を撮れることです。いくら前田 敦子さんや大島 優子さんのような方でも、大きなカメラが至近距離に来れば緊張してしまいます。そこで小型のカメラで撮影すると圧迫感が少なくなり、より自然体でパフォーマンスをしてくれるようになるんです」

このように、リアリティの追求を続けていた結果、『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』や『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』などのドキュメンタリー映画の制作も依頼されるようになります。

テクノロジーの進歩に合わせて自身ができることを増やし、それに伴って新たな仕事の依頼が舞い込んでくると学生に伝えました。

質疑応答

公開講座終盤には、高橋先生に質問が寄せられました。

Q. MVの制作期間はどれくらいですか。

A. 企画から撮影・編集までおよそ3週間いただくようにしています。ですが、1週間で納品してほしいというケースもあり、制作期間が楽曲によります。たとえば、『永遠プレッシャー』のようにじゃんけん大会で選抜メンバーやセンターが決められる楽曲の場合は、大会が終わり次第急ピッチで企画や撮影をしなければなりません。

Q. 新しいものを世に出すために、学生時代からできることはありますか。

A. 本当はこれがやりたいけど、認められないかもしれない。先生の指導方針に合わなそうだからこれを作るのは止めておこうと、考えてしまうことがあるかもしれません。ですがそのようなことはなるべく重要視せず、自分は何が好きでどんなメディアで何を語りたいのか、自分に語りかけて素直に聞くことがまずは大事だと思います。

Q. MVの監督になりたい場合、世に出ているMVをとにかく研究するのが良いでしょうか。それともいろいろな映像作品を見たほうが良いでしょうか。

A. 既存のMV自体が、いろんなアイデアや歴史が盛り込まれているので、MV以外にもご覧になったほうが良いと思います。サイレント映画やミュージカル映画、映像作品に限らずグラフィックデザインなど、MVに活用できそうなジャンルを幅広く勉強してみてください。

学生へメッセージ

最後に高橋先生からDHU生へメッセージが送られ、公開講座が終了しました。

「僕が大学生だったころ、『仮面ライダー』シリーズのプロデューサーをされていた平山 亨さんとお会いする機会がありました。当時僕はアクション映画を作っていて、そのシナリオとビデオを見てくださいと自信満々にお渡ししたんです。後日平山さんから丁寧にFAXがあって、技術は素晴らしい、だが欲を言えばオリジナリティがほしい、どんなにうまく撮影できていても古臭いと感じる、若い人には今までになかった新しい映像を作ってほしい。そんなことが書かれていました。このFAXがあったからこそ、新しい作品を生み出そうというモチベーションが生まれ、ビデオアートを作りMVも作れる人間になれたんです。そのためスキルアップよりも、まずは自分が何を作りたいのか見定めることが大事だと思っています。僕はゼミや卒業制作などの授業を通じて、それぞれの学生さんが何を考え、どんな作品を作りたいのかをともに考えながらサジェスチョンしていきます。次世代のお手伝いができれば幸いです」

イベント

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