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【開催レポート】公開講座 平野 友康氏 「まちづくりこそが究極のエンタテインメント」
【開催レポート】公開講座 平野 友康氏 「まちづくりこそが究極のエンタテインメント」
2024年6月27日(木)、デジタルハリウッド大学は、株式会社メタコード代表・イトシマ株式会社代表の平野 友康(ひらのともやす)氏をお招きし、公開講座「まちづくりこそが究極のエンタテインメント」を開講しました。
平野氏が住む福岡県糸島市は、人口10万人の自然豊かな美しいまち。そこで平野氏は「糸島サイエンス・ヴィレッジ(SVI)構想」を推進しています。
SVI構想は、福岡市西区と糸島市にまたがる、九州大学伊都キャンパスの未活用地に、市民・大学・企業の関係者が職住余暇一体で暮らせる科学の村をつくるため策定されました。
SVI構想のために、糸島市民はもちろん、メタコードや九州大学、糸島市、福岡銀行など産学官金が連携。さまざまな人を巻き込んだまちづくりプロジェクトこそ、エンタテインメントであると話す平野氏に、まちづくりの魅力を話していただきました。
福岡県糸島市で何が起きているのか
福岡県西部の糸島半島に位置し、市北側には玄界灘に面した美しい海岸線、市南側には山々が連なっている糸島市。福岡空港や博多区から、地下鉄空港線とJR筑肥線で40分という場所に自然豊かなまち・糸島があります。
数年前から糸島に住んでいる平野氏ですが、以前までは都心で生活をしており、ソフトウェアの開発や販売を行う株式会社デジタルステージの代表や、オールナイトニッポンのパーソナリティをするなどをしていました。しかし糸島を訪れた際に美しい景色や人に魅了され、移住を決意したと言います。
公開講座の冒頭、平野氏が見せたのは『嘉永五年寺山干拓潮止図』という1枚の絵でした。江戸時代の糸島で新たな水田をつくるために、約4,000人が力を合わせ、干潮時の数時間で堤防を作っている様子が描かれた作品です。
「糸島に水田が増えたことで農業が一大産業になりました。糸島という経済圏が発展するためにはどうすればいいのか。インフォメーションを糸島中にシェアすれば良いのでは、という考えから1917年に糸島新聞が創刊され、糸島にメディアが生まれました。僕はこれこそまちづくりだと思っています」
遠い昔、もともとは海だった場所を田畑にしようと、まちづくりに取り組んだ人たちがいるように、現在も糸島でまちづくりに取り組んでいる人たちがいます。
2021年に、糸島市と九州大学や民間企業、金融機関が一体となった「一般社団法人SVI推進協議会」が発足し、九州大学伊都キャンパス周辺に、さまざまな分野の企業・研究者・学生などが集まるSVIをつくる構想が発表されました。
そのプロジェクトに参加したのが、糸島に移住しメタコードを創業した平野氏です。「僕がSVIのプロジェクトに参加したばかりのころ、SVI構想は“日本版シリコンバレーを糸島につくるプロジェクト”であると聞いていました。それなら九州大学の隣りの土地を開発するだけではなく、まち全体を変えたい。そのくらいの意気込みで糸島市役所や、地元の企業、地権者の方と会って、話を進めています」
平野氏たちは、仕事圏と生活圏が車や電車で分断されない、徒歩15分圏内に、研究所、オフィス、レストラン、学生寮などが集中するユニットを構想。人が交流しやすい規模のユニットを複数つなげて、より善きまちをつくるのがSVI構想です。
糸島が、レウォンさんのような学生の学びの場に
今回の公開講座のために、糸島からデジタルハリウッド大学へ来校したのは平野氏だけではありません。平野氏と一緒にまちづくりに取り組んでいる、株式会社polarewon代表、中学3年生の李 禮元(リ・レウォン)さんも壇上に上がりました。
東京在住だったレウォンさんは、2年生のときに糸島へ移住。糸島の実地調査や広報用の動画制作、SVI構想関係者へのプレゼンテーションなどを行っているそうです。
レウォンさんは、今はまだ山林である場所にどうやってまちをつくるのか、人が幸せを感じやすいユニットはどんなものかなど、現在研究していることを紹介。ほかにも、糸島の美しい景観や、遊ぶようにまちづくりに取り組む糸島の人たちなど、自身が感じている糸島の魅力も話しました。
平野氏は、「僕は学生向けに講演することがありますが、中学2、3年生の子たちと会うと、“いろいろやってみたい”と話してくれる子がいます。それで糸島に通ってくれる子がいるんです。大人がやっているまちづくりを大人から聞いて学びましょう、ではなく、糸島であれば本当にまちづくりができます」と話します。
糸島の地域課題と向き合い、まちづくりを推進する。そして将来的には、まちづくり自体を研究・実装するまちにする。糸島でまちづくりを学んだ学生が、どこか別の地でまちづくりを始める未来を平野氏は構想しているそうです。
まちづくりこそがエンタテインメント
SVIの構想、それに紐づいて立ち上がる無数のプロジェクトの進行、関係各所へのプレゼンテーション、イベントの開催、実地調査——。糸島で忙しい日々を送る平野氏ですが、ChatGPTのような生成AIがいるからこそ、まちづくりをエンタテインメント化できていると言います。
「最近は、糸島市内で人材育成研修をするために企画書を作っています。ひとりで考えるのではなく、“たとえば生成AIを活用して仕事の効率をアップさせるという内容の研修をしたいけど、何か良い方法がないか”とChatGPTに聞いてみます。何回かラリーをして、“もっと面白そうな企画はない?”とこちらが問いかけると、“研修だと硬いので学校としてみるのはどうでしょう”とChatGPTが返事をしてくれる。“まちづくり学校?”と聞くと、”そうです!”なんてあいつは調子良くなって、さらに詳しく聞いてみると面白そうなアイデアを出してくれるんです」
それから平野氏はChatGPTの力を借りて、糸島まちづくり学校のための企画書を作成。「あなたにはSNSフォロワーが◯人いるから、そのうち数%は入学してくれるでしょう。だから利益はこれくらいです、と収支予想をしてくれたり、宣伝のためのキャッチコピーを一緒に考えたり。30分くらいChatGPTと盛り上がって、ああ面白かったとPCを閉じてその日は寝ました」と、イベントの企画自体をエンタメとしている平野氏。
ほかにも平野氏は、糸島在住の皆さんや生成AI協力のもと、映画の自主制作や外国人観光客向けの多言語ラジオの制作などに取り組んでいるそうです。
「まちづくりの構想や、映画の制作、土地の開拓など、糸島ではすべてがエンタテインメントになっています。まちづくりを通じて新しい関係性が生まれて、だんだん人が変わっていく。それから、面白い動きが自然発生的に生まれるようになっているのを、最近実感しています。一生遊ぶように暮らすなら、まちづくりが一番良いテーマだと僕は思っています」
質疑応答
公開講座の最後には、デジタルハリウッドの在学生や一般参加者の皆様から平野氏へ質問が寄せられました。
Q. SVIの交通インフラはどうなっていますか。
A. 最寄り駅から車で15分くらいなので、より利便性を高めるために改革が必要だと思っています。現実的なプランは、地元の旅館や寿司屋などが共有しているマイクロバスとドライバーの力を借りて、SVIと駅の直行便を作ること。ほかにもライドシェアサービスの利用や、路線バス・鉄道の拡張など、さまざまな観点から検討しています。
Q. まちづくりに対する熱意はどこからきますか。つらいことがあったり、辞めたいと思ったりしたときでも、諦めずに進んでいける理由は何ですか。
A. 糸島ってなんかいいんですよ。朝日が差す道路に軽トラックが走っていたり、朝もやの中で畑仕事をする人がいたりする。糸島は半島なので、夕方には向こう岸に明かりがポンポンとついているのが見えて、向こうにも暮らしがあるんだなと感じられる。毎日映画のシーンを見ているようなんです。それに人もいいからその人たちのために頑張ろうと思える。市役所を辞めてメタコードに来た人もいて、彼らを裏切るわけにはいかないので、辞めないんだと思います。
Q. 企画を考える時間の長さを決めていますか。
A. 5〜10分でひと区切りと決めています。話し相手はChatGPTで、自分だけで考えていたらつまらないと思うようなことをChatGPTに聞いてみると、お!と思うようなアイデアを返してくれることがあります。ほかにも、Perplexity(パープレキシティ)という対話型AIを使うと、情報収集に割く時間を大幅に短縮できます。ChatGPTが参照元不明の情報を提供する一方で、Perplexityは最新情報を根拠とセットで提供してくれる。先ほど紹介した生成AIによるラジオのシステムも、Perplexityに作り方やPythonのコードを教えてもらい、そのコードをコピペするだけで作れてしまいました。
Q. まちづくり、地方創生を実現するためには、助成金に頼るだけではなく、お金が回るシステムやビジネスが必要になると思います。これからメタコードを大きくするためにどんな体制を考えていますか。
A. メタコードは、まちづくりの構想を作ったり、まちづくりについて研究したりする会社です。いずれ、糸島の成功事例を全国や海外に持っていくことをビジネスとする会社であるため、糸島で儲けようとは思っていません。ただ、先日登記したばかりのイトシマ株式会社では、土地の売買や事業計画、計画の実行などを行っています。メタコードが頭脳で、商いをするのがイトシマ。イトシマ株式会社がうまくいったら、センダイ株式会社のような拠点を各地に作るかもしれません。
まちづくりの今後のプラン、企画を作るときの考え方などさまざまな質問に回答いただき、公開講座が終了しました。