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【開催レポート】藤村 哲也特命教授による特別講義「世界が注目する日本IP映像化の未来」
【開催レポート】藤村 哲也特命教授による特別講義「世界が注目する日本IP映像化の未来」
2024年12月12日、デジタルハリウッド大学は、特別講義「世界が注目する日本IP映像化の未来」を一般公開しました。
担当講師は本学の特命教授である藤村 哲也先生です。藤村先生は、フィロソフィア株式会社の代表であり、Netflixで配信された実写ドラマ『ONE PIECE』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めました。
今回の特別講義では、日本IPがハリウッドからどれほど注目されているのか、その潜在的なパワーを明らかにしていきました。
コンテンツは日本の基幹産業になる
本講義で藤村先生は、日本IP の現状と未来について話す前に、日本のエンターテインメントコンテンツに関する経団連の提言を紹介します。
「コンテンツは、人間が0から創造し、想像によってその価値を無限大(∞)に広げていく。資源を持たない日本においては、この人間の想像と創造こそが最大の資源」
経団連によると、日本発コンテンツの海外市場規模が2021年時点で4.5兆円。ここから価値を広げていき、2033年には15〜20兆円にする。そんな目標を掲げていると言います。日本の基幹産業である自動車の輸出額(2021年)が約15兆円であることから、それに匹敵する産業になり得るということです。
そしてコンテンツ産業の成長を支えるのが、想像と創造という最大の資源を持つデジタルハリウッドの学生であると冒頭で強調しました。
既存IPを映像化した作品が市場を席巻
まず藤村先生は、IPが持つパワーについて解説します。
そもそもIP(Intellectual Property)とは知的財産権のことであり、著作権や特許権、商標権などがこれに含まれます。たとえばマンガ『ONE PIECE』と実写ドラマ『ONE PIECE』はどちらもIPではありますが、著作権法上、前者は原著作物、後者は二次的著作物とされています。
2019〜2023年の全世界興行収入ランキングトップ10を見てみると9割以上の作品が、原著作物を映像化した二次的著作物です。『TENET テネット』『オッペンハイマー』『マイ・エレメント』のみオリジナルの脚本で映像化されたため、映画自体が原著作物となります。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』、劇場版『鬼滅の刃』無限列車編、『バービー』など、各年で全世界興行収入1位を獲得したのは、原作があるものばかりです。既存IPを映像化した作品が、興行収入ランキングの上位を占めている現状を紹介しました。
『SHOGUN 将軍』『百円の恋』など、日本を題材にした作品や日本IPが躍進
続いて、世界に誇れるIPが日本にどれだけあるのか代表的な作品を紹介。
『ONE PIECE』『ポケットモンスター』『ゼルダの伝説』『スーパーマリオブラザーズ』など誰もが知るIPを挙げる中、特に注目すべき作品を紹介しました。それが『SHOGUN 将軍』と『百円の恋』です。
ディズニープラスで配信された『SHOGUN 将軍』は、陰謀と策略が渦巻く関ヶ原の戦いを描いたハリウッドドラマです。
真田 広之氏や浅野 忠信氏など日本人キャストが大勢登場し、かつ劇中のほとんどが日本語で展開され、公開当初から日本で話題に。さらに『SHOGUN 将軍』は、テレビ界のアカデミー賞と言われる、エミー賞史上最多18部門を受賞し世界に広まりました。
本作は純粋な日本IPではありませんが、歴史的快挙であり、『SHOGUN 将軍』をきっかけに今後ますます日本IPへの関心が寄せられることになるとして紹介しました。
また、2014年に日本で公開された映画『百円の恋』は、安藤 サクラ氏演じる女性ボクサーの奮闘を描いた作品ですが、中国では『YOLO百元の恋』としてリメイクされ大ヒットを記録しました。なんと、2024年における中国国内の興行収入ランキング1位を獲得する模様です。
日本産のコンテンツが米中を始めとして世界に受け入れられている点、英語字幕で視聴できる日本語の作品も評価されている点など、世界のコンテンツ市場における日本の現状を紹介しました。
アメリカのメジャーな映像スタジオが、こぞって日本IPの映像化権を獲得
さらに藤村先生は、日本IPが秘めているパワーを紹介すべく、今後ハリウッドでの映像化が控えている作品を列挙します。
『NARUTO』『GANTZ』『僕のヒーローアカデミア』『ゴルゴ13』『科学忍者隊ガッチャマン』など、日本ではお馴染みの作品が並びます。
注目すべきは、日本IPを映像化する制作会社や配給会社がメジャーな映像スタジオばかりである点です。ワーナー・ブラザース、スカイダンス、レジェンダリーなど錚々たるスタジオが日本IPの映像化に着手しており、未発表の作品も多数あると言います。
『ONE PIECE』や『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』など日本IPがすでに世界に受け入れられていること、今後もビッグネームのIPがハリウッドで映像化されることから、日本IPの未来は明るいと断言しました。
質疑応答
特別講義終盤には、受講者から多数の質問が寄せられました。
Q. 日本人が日本語で演じた『ゴジラ-1.0』が各国で受け入れられましたが、ハリウッドで実写化された『ONE PIECE』は英語圏の俳優が英語で演じていました。今後日本人の俳優が母国語で演じるハリウッド映画は出てくるのでしょうか?
A. 実は、水面下では日本IPをベースに、日本人を起用したハリウッド作品を制作したいというオファーが増えていると聞きます。『SHOGUN 将軍』の影響からか、「時代劇モノの良い企画がないか」と問い合わせが来るほどです。もちろんアメリカを始めとした各国の俳優も起用するでしょうが、日本人から見たら日本映画にしか見えないようなハリウッド映画が公開されるかもしれません。
Q. アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏の人は字幕を見るのに慣れていないから、英語圏以外の映像は受け入れられないという話を昔に聞いたことがあります。しかし今は時代が変わり、日本人俳優の生声を聞き、英語字幕で見ることも自然になってきたのでしょうか?
A. そうですね。今は映像配信サービスがインフラとして整っており、各国にローカライズしたコンテンツがどこでも視聴できる時代です。英語吹き替えでも英語字幕でも、どちらの作品であっても楽しめる人が増えたのは間違いないと思います。事実、我々日本人はずっと海外産の作品を見て、ハラハラドキドキしたり涙を流したりしているわけですから、字幕などが障壁になるとは思いません。
Q. 僕は1960〜70年代のアニメが好きなのですが、『ONE PIECE』『DEATH NOTE』などに並んで、『科学忍者隊ガッチャマン』などの企画もハリウッドで上がっていることに驚きました。そういった昔のアニメの魅力が、今になって伝わったのでしょうか?
A. 最近になって海外の人たちに知られるようになったわけではなく、ハリウッドで働いているプロデューサーたちが、それらのアニメを見て育ったからだと聞いています。たとえば、『アベンジャーズ』シリーズの監督で知られるルッソ兄弟はこれから『ガッチャマン』を撮る予定ですが、「学校から帰ってきたらカバンを放り投げて、ガッチャマンのアニメを見るためにテレビの前に走っていた」という話を聞きました。アメリカでの知名度があるからではなく、その世界観やキャラクターが素晴らしいからこそ、日本IPの実写映画化が実現し始めているのだと思います。
日本IPが、次世代の日本人クリエイターと世界をつなぐ
最後に、藤村先生から受講者へメッセージがあり、特別講義が終了しました。
「IPの映像化の世界は大きく変わろうとしています。世界の隅々まで映像を届けることが可能になった今、心を躍らせる魅力的なキャラクターや素晴らしいストーリーを世界が求めています。私たちも映像メディアで世界とつながり、IPの魅力で世界の人々を結びつけられるのです。この先、世界最大の埋蔵量を誇る日本IPには素晴らしい未来が待っています。IPが持つパワーにより、実写でも、アニメでも、舞台でも、音楽でも、日本の才能ある次世代の人材が、世界のエンターテインメント産業を牽引する時代が来ることを信じています」
講義後、藤村先生が代表を務めるフィロソフィア株式会社の18周年を祝し、デジタルハリウッド株式会社 代表取締役社長の吉村より花束が贈られました。