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「48H Virtual Production Filming Contest」に参加した在学生3名が語る、バーチャルプロダクションの魅力と可能性

「48H Virtual Production Filming Contest」に参加した在学生3名が語る、バーチャルプロダクションの魅力と可能性
2024年5月18日から20日に開催された、48時間以内にバーチャルプロダクションを活用したオリジナルの映像作品を制作するコンテスト「48H Virtual Production Filming Contest」に参加した、羽生優さん、柴田 流維さん、熊田 滉平さんの3名にお話を伺いました。
コンテストに参加した感想や、48時間という限られた時間の中で映像を制作する大変さ、バーチャルプロダクションの魅力と皆さんがこれから目指すものについて伺いました。

※同コンテストに参加された鈴木康太さん(2年)はインタビュー当日体調不良のため欠席
48H Virtual Production Filming Contestについて
――「48H Virtual Production Filming Contest」に参加しようと思ったきっかけは?
羽生:高校生の時に、「マンダロリアン」というスターウォーズドラマシリーズの作品を観て、バーチャルプロダクションに興味を持ったんです。スターウォーズが大好きな僕はもう絶対やりたいって思ったんですけど、高校生1人にはやはり難しくて。高校生の時に参加した「東京国際プロジェクションマッピングアワードVol.7」で出会った教授の大学で色々学ばせてもらって、今年やっと実現することができました。
――念願だったんですね。メンバーとその役割について教えてください。
羽生:コンテストに参加したメインメンバー3人に関しては、私(羽生さん)が今年の2月に設立したTORCH VISION STUDIOSという映像チームから、バーチャルプロダクションをやりたい人を募ったメンバーで構成されています。
メインの総指揮的、監督的な部分は私(羽生さん)が担当しました。柴田くんにはUnreal Engineでの3Dモデルや背景の制作などをメインで担当してもらって、鈴木くんにはバーチャルプロダクションのシステムを動かす部分を担当してもらいました。熊田先輩は、役者がなかなか見つからず迷っていた時に、じゃあ僕がやるよと言って引き受けてくださったんです。
熊田:人がいないならやってみようかなって。特撮サークルを作ったこともあって、新しい撮影方法だったり、そういうのも見ておきたかったんです。
――それぞれ参加してみてどうでしたか?
柴田:最初から難しいことは分かっていたんですけど、実際にやってみてやっぱり難しかったです。とにかく時間がなくて。自分の技術不足も感じて、もっとちゃんと勉強した方がよかったなと思いました。
熊田:技術自体の存在は最近の日本の特撮でも取り入れられているので知っていたんですけど、実際に見て、「液晶でかっ!」ってなりました。あとは、今回僕はゲスト(役者、制作には関わらない)だったので、彼ら(他のメンバー)が(技術的な)トラブルに対処しているのを見て、この人たちは本当にすごいことに挑戦してるんだなと、とにかく頑張れ!と思ってました。
羽生:やっぱり制作時間48時間というのは経験したことがない領域だったので、難しいなと思いました。実際、持ち込んだデータが読み込めなかったり、カメラが動かなかったりで、その対処で1時間半も取られてしまって。
別の大学の方と同じ撮影スタジオを使わせていただいていて自分たちの持ち時間が3時間くらいしかない状況で、もう手探り状態でした。

――そのトラブルはどう乗り越えたんですか?
柴田:持っていく背景のデータをできるだけ軽くして持って行きました。
羽生:今回は(バーチャルプロダクションを)初めてやるということで何が起こるかわからなかったので、とにかくファイルの容量を事前に軽くしておいたおかげで、いろいろ起きてしまっても対処することができました。
――事前に色々決めていたんですね。
羽生:48時間がきついことはわかっていたので、2、3週間前から打ち合わせを重ねて、こだわる場所とそうでない場所などを事前に検討してから臨みました。
――48時間、どんなスケジュールだったんですか?
羽生:初日の18時にテーマが送られてきて、それを基にストーリーを決め、絵コンテを切り、深夜0時頃に全員に共有しました。そこから柴田くんと鈴木くんにUnreal Engine上でCG背景を作ってもらい、翌朝データを確認し撮影スタジオに直行しました。撮影が終わったら、そこから翌日の18時までずっと編集と合成、CGショットの制作を行なっていました。
――テーマも当日に発表されるんですね。
羽生:そうです。去年が「Light」という言葉だったので、今年もそういう感じ(文字テーマ)かなと思っていたんですけど、今年は画像が3枚送られてきて、その中から1枚選ぶ感じだったので、予想の斜め上でした。
熊田:ちなみにストーリー作るのにどれくらいかかったの?
羽生:大体3時間くらいですかね。テーマが1つ決まっているよりは自由にできるので楽ではあったんですが、コンテスト前に考えていたプラン(ストーリー)がまったく使えず、1から考えなければいけなかったのでかなり大変でした。
柴田:最後の編集で僕がレンダリングを若干ミスってしまった部分があって、最後本当に焦りました。
羽生:CGショットのレンダリングが終わったのが締め切り10分前くらいで、最終的に提出する映像の書き出しが終わったのは5分前とかでした。
柴田:ラスト12時間はご飯も食べすにずっと作業していてそれでもぎりぎりでした。作業スピードを上げたり、時間を意識するのは本当に大事だなと思いました。
羽生:鈴木くんはUnreal Engineに触り慣れていたんですけど、我々2人(羽生さん、柴田さん)に関しては今までUnreal Engineを触ったことがない中で今回の出場を決めたので、参加時点で(Unreal Engineを)触った経験が1か月くらいしかありませんでした。

熊田:そもそもUnreal Engineを触っている人がDHUには少ないんです。優(羽生さん)に言われて、Unreal Engine触れそうな人とか探したんですけど、あんまり見つけられなくて。
羽生:Unreal Engineはゲームエンジンなので、ゲームジャンルの人が多く、今回のノンゲームと呼ばれるジャンルの人が見つからなかったので、1か月かけて勉強しました。
熊田:そういえば、柴田くんはノートパソコンだったっけ?
柴田:そう。自分が大きいデスクトップ持っていなかったので、グラフィックボードがついてるノートパソコンでやってました。
羽生:めちゃめちゃ大変でしたね。デスクトップで開いても相当重いデータをノートパソコンでやってもらってたので。
柴田:キーボードの部分で焼肉が焼けるくらい(笑)。
――相当大変でしたね。 今回のコンテストでそれぞれのこだわった部分はどこですか?
柴田:自分は撮影に持って行くためにデータを軽くしないといけなかったので、そこをうまく容量を軽くしてっていう部分ですね。背景の森林とかも、木を増やしすぎちゃうと重くて移せなくなってしまうので。
熊田:こだわったというか、大変だったのは、限られた撮影時間でトラブルもあってという中で、なるべく1回で優(羽生さん)の指示に応えるという部分です。かなり緊張はしました。あと撮影でカメラ持ったんですけど、普段持ち慣れていないので、その扱いとかも大変でした。
羽生:世界的なコンテストだったので、特定の言語を使わずセリフなしで脚本を作っていたんです。今までいろいろな作品を撮ってきて、やっぱり細かい動作が後々のストーリーに影響を与えてしまうので、そういう部分をなくすために、短い時間ではあったんですけど、細かい演技指導はできる限りしたつもりです。ただ、本当に(熊田さんの)演技がうまくて驚きました。是非、TORCHの専属俳優になってほしいくらいです(笑)。

バーチャルプロダクションの未来
――ずばり、バーチャルプロダクションの魅力は?
羽生:バーチャルプロダクションと比較されるものとして、あとから背景を合成するグリーンバックと呼ばれる技法があるのですが、その技法だとグリーンを抜く手間もありますし、ライティングと呼ばれる人に対する光の当たり方を撮影現場や編集で調整しないといけないんです。
それに対して、バーチャルプロダクション、特にインカメラVFXと呼ばれるものに関しては、LEDパネルが後ろと横と上、場合によっては下にあるので、実写とほぼ同じ環境(ライティング)で撮影でき、すごく自然な合成になるという点が魅力だと思います。
ただ、従来の方法だと、撮影と同時並行でCGを作ることができたんですが、撮影の前にCGを作らなければいけないので、CGを作る時間が限られてしまうというデメリットはあります。とはいえ、一度1つの背景を作ってしまえばずっと使える点は、バーチャルプロダクションの強みですね。
※グリーンバックで撮影したものに対し、カメラの動きなどもすべて合わせた場合にバーチャルプロダクションと呼ばれる場合がある。今回の記事におけるバーチャルプロダクションはインカメラVFXと呼ばれる技法を指す――バーチャルプロダクションの現状は?
羽生:実際に働いていないので分かりませんが、日本のバーチャルプロダクションがかなり遅れているという話はよく聞きます。実際、今回のコンテストもほとんどの賞を中国の学生が受賞しており、やはり日本以外ではバーチャルプロダクション教育が進んでいるのだと感じました。
学校によってはスタジオが常設され、授業などもあるそうなので、もう段違いなんですよ。日本国内にもスタジオは増えてきてはいるんですけど、 日本の場合は個々の会社が小さなLEDスタジオを置き、自社内で完結させてしまうため、本当に宝の持ち腐れ状態なんです。
やっとこの間、VookとソニーPCLがバーチャルプロダクションアカデミーというものを始めたんですけど、やはりバーチャルプロダクション教育がだいぶ遅れているのだと感じました。なので、ぜひデジタルハリウッド大学でも導入してもらいたいです!
――掛け合ってみます。
羽生:私がお世話になっている東京国際工科専門職大学の渡部健司教授やバーチャルプロダクション関係の方々も、日本の教育機関がもっと率先してバーチャルプロダクション教育を発展させるべきだと仰っています。
なので、最先端の技術を学び、様々な人と高めあうことのできるこのデジタルハリウッド大学だからこそ、できたら来年にでも取り入れてほしいです。スタジオを常備は難しくても、座学などでまずはバーチャルプロダクションを知ってもらうことが重要だと思っています。
それぞれの今後
――最後に、それぞれ今後の目標について教えてください。
柴田:「ARMORED CORE」というゲームのPVがすごく好きなので、自分の制作したメカを使って、リアルに近いPVのようなものを作れたらいいなって思っています。まだ背景は練習中なので、もっと勉強して自分の作ったメカのデザインをよりうまく見せられるような背景を作れたらいいなって思ってます。
熊田:僕は、サークル長の席は後輩に譲りはしたものの特撮サークルを作ったので、サークルでそういう(特撮らしい)映像を年に2、3個は作りたいということを言っています。それで制作したショートフィルムなどを文化祭などの場でで流せたらなっていうのを考えてます。
自分は技術的なことをあんまり学べていないので、本当に撮影のお手伝いですとかその程度しかできませんが、それをやっていきたいかなって思ってます。
羽生:現時点での目標としては「TORCH VISION STUDIOS」をしっかりとした映像チームとして確立するところですかね。今回、残念ながらコンテストで賞を取ることができなかったので、今回の悔しさをバネに頑張っていきたいと思います。年内中にもう1作作ろうと考えているので、それで、海外のコンテストで賞を取りたいと思っています。
TORCH VISION STUDIOSの作品
Reverie – リヴェリー –
Riverie | VFX Breakdown
TORCH VISION STUDIOS
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